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第8章 奪還の戦い
明かされた真実
しおりを挟む「証拠は……その、出せません」
「ほほぉ」
「でも、俺はやっていません!」
ガラドを、殺していないという証拠……それを提示するのは、難しい。あの場でなにが起こったか、ヤークワード本人も理解していないのだ。
だが、自分はやっていない。それは確かだ。
確かに、ガラドを殺すために生きてきた……だが、こんな結末は望んではいない。もっと周到に、自分が疑われないシチュエーションを考えていたはずだ。
自分の意識しないところで、というのは、考えない。そんなことを考えだしたら、きりがない。
「自分はやっていない、だから解放しろ……と。そう言うのですか?」
「……」
無言のまま、ヤークワードはうなずいた。いわれのない罪で、捕まえられるなんて溜まったものではない。
それに、もしあの場に戻れば、ヤークワードがやっていないという証明ができるかもしれない。
混乱していた直後ならともかく、今ならば……
「それはできません」
「っ、俺は……!」
「やっていないかやっているか……そんなのは、些細な問題なのです」
…………一瞬、思考が停止する。この男は、今なんと言ったのか。
些細な問題だ、と。そう言ったのだ。ヤークワードがガラドを、本当に殺したのかそうでないのか。それを、些細な問題だと。
「……は?」
遅れて、声が漏れる。なにを、言っているのだろう。
今自分が捕まっているのは、ガラドを殺した容疑からではないのか。今騒ぎが起こっているのは、ガラドが死んだからではないのか。
ガラドが、『勇者』が殺されて……それを、些細な問題だと、片付けるのか。
「……どうやら、本当に心当たりがないようですね」
「な、にを……」
校長は、ヤークワードに顔を近づける……その瞳から、視線を外せない。
まるで、自分を呑み込もうとするような……深い、海の底であるような……
「やはり……あなたには、自身の立場を今一度、理解しておいてもらったほうがいい」
「立場……?」
言って、校長は顔を離す。その言葉の内容に、ヤークワードは理解が追いつかない。
立場を理解、とはなんだ。今のヤークワードの立場は、ガラド殺しの犯人……それ以上でもそれ以下でもない。そうではないのか。
しかし、先ほどの台詞と照らし合わせると、そうではないことは明らかで……
「ヤークワード・フォン・ライオスくん。キミはなぜ、拘束されていると思う?」
「なぜ、って……それは、ち、父上を殺したって、容疑からじゃ……」
「あぁ、言葉が足りませんでしたね。あなたは、自分が何者か、理解していないのですか?」
ざわっ、と、なにかが胸の奥でざわつく。なんだ、この人はなにを言おうとしているのだ。
聞いてはいけない……しかし、聞かなくてはならない、そんな2つの感覚が、ヤークワードを挟み込む。
「キミをここに捕らえているのは、ガラド氏殺害の容疑ももちろんあるが……キミが、放置できないほどに危険な人物だからですよ」
「危険……お、れが?」
「えぇ。それを、つい先日確信しました」
校長は、ヤークワードの目の前をくるくると歩いていたが、やがて空いていた椅子に腰を下ろす。
ふぅ、と軽く息を漏らす。
「あなたは命王であるシン・セイメイとの戦いを経て、なにか変わったことを感じませんでしたか?」
「変わった、ことって……」
突然、シン・セイメイの名を出され、ヤークワードは困惑する。エルフ族の王であった人物……死闘の末、なんとか捕まえることができた。
その男との死闘で、変わったことなんて……
「あ……」
記憶を巡らせ、ふと、思いあたることがあった。あれは、セイメイとの戦いの終盤……
竜族の血が覚醒したノアリ、鬼族の血が覚醒したミライヤ……双方、通常の攻撃ではダメージを与えられないセイメイに、深い傷を追わせた。
本来どんなダメージも即座に回復させてしまうセイメイが、回復させることのできない傷。それは、竜族と鬼族というそれぞの種族ゆえの特徴らしいが……問題は、その後。
ヤークワードが放った一太刀。それを受けて……セイメイは、傷を再生させなかった。いや、できなかったのだろうか。
それまで、ヤークワードの斬撃は普通に再生させていた。なのになぜ、最後の一太刀だけ……
「思い出したようですね。それ以前も、キミの体には異変があったはず。
そして、魔族との戦いで……ついに、その力は大きく発現した」
淡々と話す校長の言葉は、不思議なほどにヤークワードの胸の奥に響いていく。
これまで、おかしいなと思うことはいくつかあった。極めつけが、セイメイ……そして、魔族との戦い。
さらに、あの魔族は、初めて会ったヤークワードに対して膝を付き、頭を垂れた。あれは、単なる人違いだと、思っていた……
しかし、もしそれが、すべて意味のあるものであったと、したら……
「むしろ今まで気が付かなかったことが、悔しくてならない。であれば、もっと早く、スマートに処理出来たものを」
「しょ……」
「もうわかったでしょう……キミの中には、魔力が宿っていると」
どくんっ、と心の臓を打つその言葉から、意識をそらせない。
魔力が、ある……だから、魔力封じの拘束をしているのだ。魔力が、ある……だから、セイメイにも魔族にも、有効打を与えられたのだ。
だが、おかしいではないか。魔力は、人間にはないものだ。人間も魔力を使うことはできるが、それは遥か昔、大気中の魔力を使い魔術として使う、というもの。
魔力が宿るのは、エルフ族か、それか……
「本当にわかっていないのか、それともここに来てまだとぼけているのか……
どのみち、もう逃げ場はありませんよ。魔王の生まれ変わりさん」
「……!」
それか……魔族しか、いない。
決定的なその言葉が、部屋の中に静かに、響いた。
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