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第8章 奪還の戦い
あのときヤークワードは
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「…………」
暗闇の中にあった意識が、うっすらと覚醒していく。
重たかったまぶたをゆっくりと開け、暗闇の視界に光が差し込んでくる。
「っ……」
暗闇に差し込んできた光に、少年は目を閉じる。
それから、再びゆっくりと、今度は光に慣らすように、まぶたを開けて……
「……ここ、は……」
少年……ヤークワード・フォン・ライオスは、パチパチとまばたきを繰り返し、それから周囲を見回す。
ここは、部屋の中……だろうか。冷たい、室内だ。
見覚えが、あるような、ないような。
「……学園の、教室か?」
まず、頭に浮かんだのは、ここが騎士学園の一室ではないか、というもの。どことなく、教室の一室に作りが似ている。
だが、それにしては、こんなところに来た覚えも、見た覚えもない。
「目を覚ましましたか」
「!」
未だ頭の中がぼーっとしているヤークワードに、ひとつの声がかけられる。
瞬間的に、ヤークワードの意識はそちらへ向く。
そこには、ひとりの老人が、立っていた。
「……誰?」
その男に、ヤークワードは、見覚えが……なかった。
ここが騎士学園であるならば、教師のひとりかとも考えたが……あいにくと、ヤークワードは見覚えのない顔だ。
ヤークワードの言葉を受け、男は、小さくため息を漏らした。
「やれやれ、予想はしていましたが、実際に知らないとなると、少々寂しいものがありますね。
それとも、まだ頭が働いていないだけか」
「? それって……」
残念だ、とばかりに、男は首を振っている。はて、それはどういう意味だろうか。
男が、残念がる理由が、ヤークワードにはわからない。
その様子に、男は長く伸びた白ひげを撫でつつ、口を開いた。
「私は、この騎士学園の校長。ゼルジアル・フランケルト。
ま、よろしくと言っておきましょうか?」
「!」
男は、自らを騎士学園の校長であると、名乗った。その言葉に、さすがにヤークワードも思い出す。
どこか、見覚えがある気はしたのだ。だが、最初は王子であるシュベルトの顔も出てこなかったヤークワードだ……校長の顔を覚えていなくても、まあ無理もないだろう。
ということは、見覚えのあるこの部屋は、騎士学園内のどこか、だろう。
「私の顔も忘れてしまうほど、気絶直前の衝撃が大きかったか。それとも、他者に興味がないほど、己の目的に執着していたのかな?
『勇者』殺しの、ヤークワード・フォン・ライオスくん」
「っ……」
それは、ヤークワードの胸を抉るには充分な言葉だった。それと同時に、思い出す……気を失う直前に、なにがあったのかを。
『勇者』であり、父親であり……己の仇でもある、男。ガラド・フォン・ライオス。
彼を殺すため、この人生を費やしてきた。いつか、復讐を果たすために……
しかし……
「ち、違う……俺じゃ、ない……!」
ヤークワードは、覚えている。血に塗れた地面に倒れている、あの男の姿を。
自ら手を下す前に、何者かにその目的を奪われたことを。
今日まで、あの男を殺すために生きてきた。それがすべてではないにしろ、ヤークワードという男の大半を占めていた。生きる意味だ。
それを……奪われた。
「俺は……!?」
ガラド殺し……そう突き付けられ、俺はやっていないと、己の無実を主張しようとして……間抜けにも、ようやく気が付いた。
自分が、椅子に座らされ、その上で縄のようなもので体をぐるぐる巻きにされていることを。
まるで……いや、これは拘束されている。
しかも、この縄は……
「セイメイを、捕まえた時の……?」
見覚えが、あった。シン・セイメイと戦った、あのとき……リーダ・フラ・ゲルドが、使用していた、それに。
それは、確か……魔力を封じる、拘束術。身をよじっても、動けない。
ヤークワードはエルフ族ではなく、人間なので魔力はないが……なるほど、ただの拘束にも、かなりの威力を発揮するらしい。
「いや、そうじゃなくて! 誤解です、俺はガラド……父上を殺していません!」
身を揺らし、己の無実を訴える。
あのとき、国の復興に奔走していたヤークワードは、少しは休めとガラドに連れられ、移動していた。
そうしたら、いきなり、ボーッとしてきて……意識を、失って……
そうだ、だんだん思い出してきた。
「誰かに、殺されたんです!」
目が覚めたとき、ガラドは倒れていた……すでに、殺されていたのだ。
そして、わけもわからないままにここへ連れてこられた。逮捕すると言われ、気が動転して逃げようとしたところを、また気絶させられたのだ。
その後、今こうしている……
「……誰かに殺された、か」
「そうです!」
校長は、長いひげを触りながら、ヤークワードの言葉を聞いていた。
そこに、どんな感情が含まれているのか……ヤークワードには、わからない。
「口でそう言うのは、簡単だ。やってないと言うのなら、それなりの証拠を出さねば」
「証拠……」
詳しいが、正論だ。やってないと主張したところで、あの現場を見れば誰だって、ヤークワードが犯人だと思う。
あそこにいたのはヤークワードとガラドだけ、俺の剣には血がついていて、誰が見たって……
「……」
それに、あのとき気絶してしまった……が、無意識下でヤークワードがなにもしていないと、言い切れる自信がない。
そんなのあり得ないと思っても、ここしばらくの間、わりとあり得ないことが続いたから……ヤークワードの中の、復讐心が反応して、とか。
「……いや」
だめだ。自分で、自分の無実を信じないで、どうするというんだ。
ヤークワードは、諦めない。なんとか己の無実を証明して、ここを出るのだ。
暗闇の中にあった意識が、うっすらと覚醒していく。
重たかったまぶたをゆっくりと開け、暗闇の視界に光が差し込んでくる。
「っ……」
暗闇に差し込んできた光に、少年は目を閉じる。
それから、再びゆっくりと、今度は光に慣らすように、まぶたを開けて……
「……ここ、は……」
少年……ヤークワード・フォン・ライオスは、パチパチとまばたきを繰り返し、それから周囲を見回す。
ここは、部屋の中……だろうか。冷たい、室内だ。
見覚えが、あるような、ないような。
「……学園の、教室か?」
まず、頭に浮かんだのは、ここが騎士学園の一室ではないか、というもの。どことなく、教室の一室に作りが似ている。
だが、それにしては、こんなところに来た覚えも、見た覚えもない。
「目を覚ましましたか」
「!」
未だ頭の中がぼーっとしているヤークワードに、ひとつの声がかけられる。
瞬間的に、ヤークワードの意識はそちらへ向く。
そこには、ひとりの老人が、立っていた。
「……誰?」
その男に、ヤークワードは、見覚えが……なかった。
ここが騎士学園であるならば、教師のひとりかとも考えたが……あいにくと、ヤークワードは見覚えのない顔だ。
ヤークワードの言葉を受け、男は、小さくため息を漏らした。
「やれやれ、予想はしていましたが、実際に知らないとなると、少々寂しいものがありますね。
それとも、まだ頭が働いていないだけか」
「? それって……」
残念だ、とばかりに、男は首を振っている。はて、それはどういう意味だろうか。
男が、残念がる理由が、ヤークワードにはわからない。
その様子に、男は長く伸びた白ひげを撫でつつ、口を開いた。
「私は、この騎士学園の校長。ゼルジアル・フランケルト。
ま、よろしくと言っておきましょうか?」
「!」
男は、自らを騎士学園の校長であると、名乗った。その言葉に、さすがにヤークワードも思い出す。
どこか、見覚えがある気はしたのだ。だが、最初は王子であるシュベルトの顔も出てこなかったヤークワードだ……校長の顔を覚えていなくても、まあ無理もないだろう。
ということは、見覚えのあるこの部屋は、騎士学園内のどこか、だろう。
「私の顔も忘れてしまうほど、気絶直前の衝撃が大きかったか。それとも、他者に興味がないほど、己の目的に執着していたのかな?
『勇者』殺しの、ヤークワード・フォン・ライオスくん」
「っ……」
それは、ヤークワードの胸を抉るには充分な言葉だった。それと同時に、思い出す……気を失う直前に、なにがあったのかを。
『勇者』であり、父親であり……己の仇でもある、男。ガラド・フォン・ライオス。
彼を殺すため、この人生を費やしてきた。いつか、復讐を果たすために……
しかし……
「ち、違う……俺じゃ、ない……!」
ヤークワードは、覚えている。血に塗れた地面に倒れている、あの男の姿を。
自ら手を下す前に、何者かにその目的を奪われたことを。
今日まで、あの男を殺すために生きてきた。それがすべてではないにしろ、ヤークワードという男の大半を占めていた。生きる意味だ。
それを……奪われた。
「俺は……!?」
ガラド殺し……そう突き付けられ、俺はやっていないと、己の無実を主張しようとして……間抜けにも、ようやく気が付いた。
自分が、椅子に座らされ、その上で縄のようなもので体をぐるぐる巻きにされていることを。
まるで……いや、これは拘束されている。
しかも、この縄は……
「セイメイを、捕まえた時の……?」
見覚えが、あった。シン・セイメイと戦った、あのとき……リーダ・フラ・ゲルドが、使用していた、それに。
それは、確か……魔力を封じる、拘束術。身をよじっても、動けない。
ヤークワードはエルフ族ではなく、人間なので魔力はないが……なるほど、ただの拘束にも、かなりの威力を発揮するらしい。
「いや、そうじゃなくて! 誤解です、俺はガラド……父上を殺していません!」
身を揺らし、己の無実を訴える。
あのとき、国の復興に奔走していたヤークワードは、少しは休めとガラドに連れられ、移動していた。
そうしたら、いきなり、ボーッとしてきて……意識を、失って……
そうだ、だんだん思い出してきた。
「誰かに、殺されたんです!」
目が覚めたとき、ガラドは倒れていた……すでに、殺されていたのだ。
そして、わけもわからないままにここへ連れてこられた。逮捕すると言われ、気が動転して逃げようとしたところを、また気絶させられたのだ。
その後、今こうしている……
「……誰かに殺された、か」
「そうです!」
校長は、長いひげを触りながら、ヤークワードの言葉を聞いていた。
そこに、どんな感情が含まれているのか……ヤークワードには、わからない。
「口でそう言うのは、簡単だ。やってないと言うのなら、それなりの証拠を出さねば」
「証拠……」
詳しいが、正論だ。やってないと主張したところで、あの現場を見れば誰だって、ヤークワードが犯人だと思う。
あそこにいたのはヤークワードとガラドだけ、俺の剣には血がついていて、誰が見たって……
「……」
それに、あのとき気絶してしまった……が、無意識下でヤークワードがなにもしていないと、言い切れる自信がない。
そんなのあり得ないと思っても、ここしばらくの間、わりとあり得ないことが続いたから……ヤークワードの中の、復讐心が反応して、とか。
「……いや」
だめだ。自分で、自分の無実を信じないで、どうするというんだ。
ヤークワードは、諦めない。なんとか己の無実を証明して、ここを出るのだ。
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