復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

リィの覚悟

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「俺は、行かない」

「……はい?」


 ポツリと、その場に響いたのは……他ならぬ、ヤークワードの声……のはずだ。一瞬、聞き違いかとも思った。

 だが、この部屋には二人だけで。リィはせっせと動いているとはいえ、彼女が出した声ではない。

 だから、今の声は、ヤークワードのものに他ならないのだが……


「今、なんて?」


 もう一度、聞き返す。もしかしたら、似たような言葉を勘違いしてしまったのかもしれない。だって、「行かない」だなんて……


「俺は、行かない」


 しかし、聞き返して返ってきたのは……先ほどと、やはり同じ言葉。それも、声量の問題か意識を集中させていたからか、今度ははっきりと聞こえた。

 それは、助けを……拒絶する、ものだ。


「なんで……」


 今度は、リィの口から、ヤークワードが先ほど漏らしたのと同じ言葉が漏れた。

 それも、当然の疑問だろう。助けてと、求められたわけではない。それでも、彼は自分を助けに来てくれた者を、むやみに拒絶なんてしない人間のはずだ。

 彼が捕まっているのが冤罪なら、なおのこと……


「……まさか」


 まさかとは思うが。報道された通り、本当に彼が、父であり勇者ガラドを殺したと、いうのだろうか?

 罪を償うために、逃げることはできないと。


「ガラド様を、殺したんですか?」

「……殺してない……少なくとも、記憶の限りでは」

「?」


 その言葉の意味するところを、きっとリィは理解できないのだろう。だって、ヤークワード本人にも、わからないのだから。

 しかし……リィにとってそれは、考える時間のない問題だ。


「だったら……いえ、たとえヤークワード様が犯人でも。こんな、なにも言わずに一方的に連れて行かれるなんて、納得できません」

「納得、って……」


 もしもヤークワードが犯人だったら、納得もなにもない。それが事実、ただそれだけ。

 ヤークワードが犯人なら、犯人を奪い返そうとここまで来てしまったリィたちは、それこそ罪に問われてしまうだろう。


「だから、えっと……あぁ、うまい言葉が出てきません……! とにかく、みんながヤークワード様を救おうとしてるんです!
 そもそも、みんなヤークワード様が犯人とは思ってないみたいでしたよ!」


 言いたいことがまとまらないのか、乱暴に頭をかいて、最終的に叩きつけるように、言葉をぶつける。

 みんなが、ヤークワードを助けに来た。それが全てだと。


「……そう。でも、悪いけど……みんなにはこう言ってくれ。俺は、ここに残る……俺のことなんか気にせず、みんな帰ってくれ」

「……ヤークワード様」

「そういう運命だったんだよ。みんなには、後でなにか処分が下らないよう……俺から、校長先生にでも伝えてみるよ。だから……」


 みんなが、自分を助け出すためにここまで来てくれたのは、嬉しい。素直に、嬉しい。

 だが、だからこそそれは、だめなのだ。ガラドを殺したかもしれない、こんな自分を助けになんて。みんなは、信じてくれている。ヤークワードはやっていないと。

 ヤークワードも、そう思っている。少なくとも、自分の記憶の中では。

 本当にどうかはわからないし、すでに世間にはガラド殺しの犯人としてヤークワードの名が挙げられている。それを奪いだそうなど、逆賊もいいところだ。


「だから、俺のせいで、みんなが危険にさらされるのは……」

「……ヤークワード様。先に、ご無礼を謝罪しておきます」

「え……」


 バチーン……!


 顔を上げた瞬間、鋭い音が響いた。ヒリヒリと頬が痛む。なんだ、今なにをされた?

 帰ってくれと、そう頼んだ。自分は、もう運命を受け入れたのだ。魔王の生まれ変わりとして、この先一生幽閉される……いや殺されるだろう。

 みんなには、幸せになってほしい。こんな自分のために、道を踏み外さないでほしい。

 そう、思っていたのに……今、リィに、叩かれたのだ、頬を。リィはビンタした状態で、そこにいた。


「え……」

「みんながヤークワード様のためにここまで来てるんです! このままでは、ヤークワード様はもちろん、ミーちゃんたちもただではすみません!」

「う、うん。だから、俺のことは気にせず、ここから……」

「帰れませんよ! ミーちゃんたちはヤークワード様を助けに来たんです、ですからヤークワード様がここから逃げないと、他のみんなも逃げられません! 第一、今の言葉伝えたところで、ミーちゃんやノアリ様、ヤネッサさんが素直に引くと思いますか!?」

「いや、その……」

「みんなが危険にさらされる? ヤークワード様がここに残ることで、みんな危険が大きくなっていくんです! 誰も帰りなんてしませんから! そもそもなんで帰れなんて言うんですか!」

「それは……だって、俺は、生きてちゃだめな、やつで……」

「どうしてそんな結論になったのか知りませんが、ヤークワード様が死にたいなら勝手にすればいいです! でも、みんなの見てないとこで勝手に死ぬのは、だめです! 死にたいならみんなの前で死んでください!」

「む、むちゃくちゃな……それに、別に死にたい、わけじゃ……」

「だったらなおさら、ここから逃げるんです! 死にたくないのにむざむざ殺されるんですか? 運命とかなんとか、そんなの知りません! とにかくみんな、もうここまで来ちゃってるんです! ヤークワード様を連れ出さないと、収まりがつかないんです! それとも、みんな仲良くここで死にますか!?」

「し、死にたくない……です」

「それが嫌なら、さっさと逃げますよ!」

「あ…………はい」


 抑えていた感情が、溢れ出した……これまでに見たことのない、リィの迫力に。ただただ、ヤークワードはうなずくしか、なかった。
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