復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

文字の大きさ
263 / 307
第8章 奪還の戦い

かすかな勝機

しおりを挟む


「キミたちの目的はわかっています。ヤークワード・フォン・ライオスくんの奪還ですね?」


 落ち着いた様子で、淡々と話す校長ゼルジアル・フランケルト。

 一見隙だらけのように見えて、その実隙がない。戦いを挑んでも返り討ちにあうだろうし、逃げることさえ……


「ここでおとなしく帰ると言うのなら、私としては望ましい。愛する生徒に手を上げたくはないので」

「……リエナをこんなにして、よくも……」

「そちらのエルフのお嬢さんがいれば、顔は元に戻るでしょう。外にも、あなた方のお友達はいるのでしょう?」


 珍しく、アンジェリーナが激情を露にする。しかし、校長はそれを軽口で受け流す。

 確かに、エルフ族のヤネッサやアンジーがいれば、よほどの傷でない限りきれいに治してくれるだろう。

 ……だが、そういう問題では、ない。


「おとなしく、帰れ……ですって?」

「えぇ。彼のことは、きれいに忘れなさい。それが、キミたちのためです」


 本当に、こちらのことを思ってくれているかのような……そんな、優しい声。思わず、うなずいてしまいそうになる。

 しかし、ここではいわかりました、とうなずくわけには、いかない。


「そんなこと、できません!」

「……」

「というか、おかしいです! ヤークがやったって確たる証拠はなにもない! もし彼が本当にガラド様を殺したのなら、証拠を……」


 持ってきてください……その言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

 なぜならば……


「く、ぁ……!?」

「やれやれ、聞き分けのない子だ」


 つい今まで、わりと離れたところにいた校長……それが、いつの間にかノアリの眼前に現れ、その首根っこを掴み上げている。誰も、反応できなかった。

 老人ではあるが、そうとは思えない力でノアリを、持ち上げていく。背が高いゆえに、持ち上げられるノアリの首は自然と締まっていく。


「っ、かぁ……!」

「納得できないことを素直に受け止めきれず、こんなことまで……子供ですねぇ。世の中には、従っておいたほうがいい流れというものがあるのですよ」

「な、が……!?」

「ヤークワード・フォン・ライオス……彼は、ここで死んでおく、べきなのです」


 ノアリの耳元に寄せられた口から、聞くのもおぞましいものが囁かれた。全身を、悪寒が走っていく。

 その話す校長の顔は、生徒に語りかけるような優しい表情は、していない。

 ……無感情。そう言うべきだろう表情が、そこにはあった。ヤークワードは死ぬべき存在、死んで当然の存在だと……そのためなら、なんでもすると。

 その気になれば、生徒含めたここにいるメンバーなど、あっという間に……


「ノアリさん!」

「動かないでください。私はこのまま、穏便に済ませたいのですよ」


 捕まったノアリを助けようと、アンジェリーナとヤネッサが戦闘態勢に入るが……冷たい声が、響く。

 この手に、力を加えれば少女の首など、簡単にへし折ることができる……それがわかるからこそ、下手に動くことができない。


「ぐっ……んぅぁ……!」

「ん?」


 しかし、やられっぱなしではないのは他ならぬノアリだ。体を持ち上げられ、もがくことすら危うい状態……

 そのはずだが、ノアリは、ゆっくりと腕を動かして……己の首を掴む、校長の手首を掴む。瞬間、校長は眉をひそめた。


「っ……なるほど、これが、竜族の……」

「はな……せ……!」


 肌色の腕が、朱色の鱗に覆われていく……ノアリは、己の中に流れる竜族の血を感じ取る。血が、熱くなっていくのがわかる。

 首根っこを掴む手首を剥がそうと、力を加えていく。しかし……


「ぐぇ……っ」


 己の首を掴んでいる手……それを剥がそうと、掴んだ手に力を入れた結果、首が締め付けられる感覚に陥る。

 それでも、ノアリは力任せに……


「ぐ、ぁ……!」


 手を引き剥がし、すぐさま距離を取る。

 その場で大きく深呼吸をし、しかし大きく息を吸い込みすぎたせいかむせてしまう。


「げほっ、けほ……!」

「おぉ、それが竜人の姿ですか。長年生きてきましたが、見るのは初めてですよ」


 すでに涙目になり、なんとか呼吸を繰り返すノアリに、校長はやや興奮した様子だ。

 肌を覆う鱗、腰から生えた尻尾、背中から生えた羽、そして頭に生えた小さな角……その姿は、人と竜とが混ざりあった姿とも言える。

 純粋な竜族との違いは、ノアリはクルドたちのように、竜の姿になることはできない、というところだろうか。


「ヤネッサは、リエナをお願い!」

「わかった!」


 相手はひとり、だがそう簡単にはいかない相手だ。ノアリとアンジェリーナは、それぞれいつでも動き出せるように構える。

 ここでノアリたちが、諦めて帰ると言うのなら校長も必要以上に追っては来ないだろう。が、ノアリたちは諦めるつもりはない。

 ならば逃げるか。おそらく、それも難しい。となれば、取れる手段はひとつ。


「……あなたを倒して、進む」

「ほぉ、なかなかおもしろいことをいいますね」


 普通ならば、勝てるとは思えない。普通ならば。

 今のノアリは、竜人となっている。あの魔族とも、渡り合うことができたのだ。目の前の老人ひとり、なんとかなるかもしれない。

 かすかな勝機を見出し、構えるノアリは……


「……っ!?」

「遅いですよ」


 とたんに、腹部に打ち込まれた拳に、喘ぐ間もなく崩れ落ちた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...