復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第8章 奪還の戦い

手薄な警備

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 ついに、見つけた……ヤークワード・フォン・ライオスの姿に、ヤネッサは我をも忘れて、飛びついた。

 ヤークワードは、それを驚いたように、しかしキチンと受け止める。


「ヤネッサ、本当に……」

「ヤーク、ヤークぅ……!」

「はは、心配かけてごめんな」


 その姿を見て、アンジェリーナは思わず涙目になる。ここからではヤネッサの顔は見えないが、声が涙混じりだ。

 ともあれ、ヤークワードを見つけて一安心だ。

 ふと、隣を見る。ヤネッサとヤークワードが、抱き合っている姿を眺めている、エルフの姿。


「…………」


 アンジェリーナは、そっと己の手を、エルフの肩に置いた。


「……なんだ」

「いいえ、なんでも」


 ポンポンしてやった。


「やめろっ」

「あら、失礼。さて……」


 そこで、改めて捜し人ヤークワードを見つめる。

 ……正確には、彼の隣にいる女の子の姿を。


「まさか、あなたがこんなに大胆な人だなんて思ってませんでした……リィさん」

「はぅわっ、あ、アンジェリーナ様!」


 その女の子、リィは、アンジェリーナに話しかけられたことでわかりやすく取り乱す。

 平民である彼女は、その性格も相まって、未だアンジェリーナを前にすると緊張してしまうようだ。

 正直、こんな大胆なことをした彼女が、自分に話しかけられた程度でうろたえているのが、少し面白い。


「ヤネッサさんから、リィさんがヤークワード様と一緒にいると言われた時は、正直半信半疑でしたが……」


 アンジェリーナも、ノアリとミライヤ程ではないがヤネッサの能力にそれなりに理解はある。しかしだ。

 このような、危険な場所に……それもひとりで。さらにはヤークワードを助け出してしまっただなんて。


「今も、この目で見なければ疑っていたでしょうね」

「あははは……」

「いったい、どうやってここへ……」

「おい、悠長に話している暇があるのか」


 聞きたいことは山ほどある……しかし、それは後回しにしろと、今まで黙っていたエルフが告げる。それも、その通りだとアンジェリーナはうなずいた。

 ここでじっとしていては見つかる可能性も高くなる。

 なにより、ここまで自分たちを送るために時間稼ぎに徹してくれている、ノアリとミライヤも心配だ。

 本当は、2人もヤークワードを助けたかっただろうに。


「そうね、行きましょう!」

「おう!」


 一同は、走り出す。図らずも、先頭はエルフが走ることになった。


「なあ、彼……だよな。は、誰なんだ?」


 ふと、ヤークワードが前を走るエルフを見て、問いをかける。

 ローブを被っているため、その顔は見えない。だが、声色から男だと判断したようだ。


「えぇと……詳しい話は、後で。でも、今は味方ですわ。安心してください」

「今……?」


 理由はわからないが、同じくヤークワードを救出する目的を持ったエルフ。なにより、あのシン・セイメイの関係者だ。

 それらを語るには、今はそんな状況ではない。

 なので、本人も言っていた……この場においては、味方だということだけ伝えた。


「そうそう! 私のことも助けてくれたんだよー!」

「そうなのか……誰だか知らないけど、協力感謝します」

「……お前が気にすることではない」


 一同は、移動しながら現状の情報交換。とはいっても、簡単に情報交換できるものは、校長ゼルジアルをヤネッサとミライヤが食い止めている、ということくらいだ。

 その情報に、ヤークワードは無意識に息を飲み込んだ。2人の実力は、もちろん知っている。

 だが、自分が捕まっていたときに目の前にした、ゼルジアル・フランケルトという男からは……なにか、得体の知れないものを感じたのだ。


「とにかく、急ごう!」

「うん!」


 2人が心配という意味でも、ここから早く脱出しなければという意味でも、一同は急ぐ。

 先ほどの様子では、ゼルジアルはヤークワードが逃げ出したことを知らないようだった。だが、いつまでそうであるかはわからない。

 それに、他に教師も見回りに来るだろうし、時間は……


「……そういや、全然教師たちに出くわさないな」


 ヤークワードは、周囲を見る。やけに、人気がないのだ。

 こうしてヤークワードを捕まえていた以上、相応の警備はあって然るべきだし、手薄どころの問題ではない。


「それはね、この人が事前にやっつけてくれたおかげだよ!」


 そんなヤークワードの疑問に答えるのは、ある一点を指差すヤネッサだ。

 彼が事前に教師たちを倒してくれたから、今スムーズに移動できているのだと。どうやら、ヤネッサたちもその恩恵を受けることができたらしい。

 何者かはわからないが、助けてくれていることに変わりはない……そう思っていたヤークワードだったが、エルフは緩く首を振った。


「確かに、いくらかの教師は倒したし、王の結界により幾分かは外に弾かれている。だが、それを差し引いても……手薄すぎる」

「? 王、結界?」


 エルフは、自分の功績は微々たるものだと話し……そのまま、黙り込んでしまった。

 つまりは……現状に、エルフは納得していないとのことだ。あまりにも、手薄な警備に。

 エルフのおかげだと言っていたヤネッサ、しかしそのエルフも、すべてを把握しているわけではないらしい。

 ……まだ、ヤークワードたちの知らないなにかが、動いているのかもしれない。
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