復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第9章 復讐の転生者

普通の人間として

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 ヤークワード・フォン・ライオスとライヤ。この2人は、元は同じ人間のはずだった……だが、それは本人たちが、そう思い込んでいただけなのかもしれない。


『結局さ、"俺"と"お前"が同じ人間だってのも、記憶を引き継いでいるから、そう思っていたってだけなんだよな。セイメイとか何人かは転生者だって見抜いてたし、今となっちゃ同じ人間だったって証明されたわけだけどさ』

『……そう、だな』

『……けど、さ。きっと……ライヤの因果がなくなっても、ヤークワードは生まれてくる。そして、また同じように、大切な輪を繋いでいく。そんな、気がするんだ』

『じゃあ、ライヤの因果が断ち切られたら……"お前"の記憶は、"俺"の中からも、消えるのか?』

『んー、それはちょっと寂しいけど……どうだろうな。案外、ひとつの体の中にずっと居たんだから"お前"だけは、覚えてたりしてな』


 すべての真実を知り……ライヤの中には、死の直前に感じていた憎しみの気持ちも、消えてしまった。

 だから、もういいのだ。たとえヤークワードの因果を断ち切っても、ライヤが生き返るわけではない。その逆、ライヤが消えてヤークワードが生まれるかは。賭けの部分もあるが。

 ただ……ひとつ言えることがある。


『話せてよかった』

『っ』

『あの記憶も、結局は真実を伝えてくれただけ……"お前"にとってどう感じたかはわかんないけど、"俺"はすっきりしたよ。誰も、恨んで逝かなくて済む』


 そう語るライヤの表情は、どこかさっぱりしたもので。


『……嫌いに、なったか?』

『ん?』

『さっき、ガラドが言ってたろ。真実を知れば、ライヤはライヤ自身を許せない、って』

『あー……どうだろうな。確かに、自分の不甲斐なさのせいで、ガラドたちにあんな決断をさせてしまって。そんな自分は、やっぱり許せないな』


 自分を嫌いになってほしくなくて、ガラドたちはあのような決断を下した。そんな決断を下させてしまった自分が、ひどく情けない。


『けど……みんな、"俺"が"俺"を嫌いにならないように、って思いで、あそこまでしてくれたんだ。だから、最期くらいは、爽やかに逝こうと思う』


 だから……と。

 ライヤは、手を伸ばして指をさした。そこには……さっきまではなにもなかったはずの空間に、『断切剣』が浮かんでいる。


『そいつで、"俺"を斬れ』

『なっ……"俺"、が?』

『どうせ終わるなら、最期は自分の手で終わらされるのも、悪くない。あ、この言い方だとなんか自殺っぽいな……自殺はだめだよな……ま、ニュアンスの違いか』


 それに、"俺"はもう終わってるけど……と、ライヤはケラケラと笑う。

 不思議だ……ヤークワードは、自分が形のない存在としか認識できなかった。しかし、"手"を伸ばせば、剣を掴むことができた。

 その様子を見て……


『……国宝、か。結局、"俺たち"が国宝に選ばれた理由は、なんだったんだろうな』


 ぽつりと、呟いた。それは、どちらの漏らした声であっただろうか。

 自分は、ガラドのように、ミーロのように、エーネのように、ヴァルゴスのように……剣術に、回復術に、魔力に、武術に、なにに秀でているわけでもない。

 そんな自分が、国宝に選ばれた。貴族でもない、ただの平民である、なんの才能もない男が。


『"俺"が転生することになったのも、魔王の仕業。"お前"に転生した後も、魔王は来る日のために準備を整えていた……』

『そう考えると、最初から……うん、最初から魔王の手のひらだった気もするな』

『なんだったんだろうなぁ、"俺"の人生』


 己が倒されることも、折り込み済みで……だから、ガラドでもミーロでもエーネでもヴァルゴスでもない。一番寄生しやすい、ライヤを選んで寄生した。勇者たちに倒された後、勇者のいなくなった世界で復活する。

 もしそうであるなら、国宝がライヤを選んだことも、実は魔王からなにかしらの干渉を受けていたのではないか……

 ……さすがに、考えすぎだろう。


『けど、さ……』

『ん?』

『ライヤの存在がなくなれば、確かに魔王は、寄生先を失う……だけど。ライヤがいなくなったらいなくなったで、ライヤ以外の誰かが、国宝に選ばれるなんてことは……』

『あー、それも可能性のひとつではあるよな。ただ……それに関しちゃ、問題ないと思う』

『どうして』

『勘』


 ニヤリ、とライヤは笑った。


『勘ってお前……』

『なんてのは冗談で……国宝は、ガラド、ミーロ、エーネ、ヴァルゴス、そしてライヤだからこそ選んだんだ。ライヤの存在がなくなっても、その因果まで変わることはない』

『なにを根拠に……』

『そんな気がするんだよ』

『……結局勘じゃねーか』


 こんな状況なのに、恐ろしいほどの軽口。

 あるいは、ヤークワードに気を遣わせないためだろうか。



『じゃ、そろそろやってくれ』

『…………』

『おいおい、まだそんな顔してんのか? いいんだよ……今まで、"俺"の記憶で振り回して、悪かった。これからは、"お前"の人生を、楽しんでくれ』

『……あぁ』


 ゆっくりと、剣を振り上げる。顔は……伏せている。だって、相手の表情を見たらきっと、またためらってしまうから。

 後は、剣を振り下ろす……それだけだ。


『……"俺"は……いや、"俺"と『復讐の転生者』としての"お前"はここで死ぬ。これからは、ただのヤークワード……普通の、人間として生きてくれ』

『……あぁ』

『……じゃあな、俺』

『あぁ……じゃあな、俺』


 彼の記憶を、忘れてしまうかもしれない……もう、因果を断ち切れば二度と会えない。ためらいは、ある。それでも……

 ヤークワードは、剣を振り下ろして……ライヤの魂を、断ち切った…………
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