復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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最終章 その先へ

旅立ちの時

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「旅に……」

「出る?」

「……本気なのね、ヤーク」

「はい」


 数時間後、俺はノアリ、ミライヤ、母上を前に、先ほど決めたことの内容を語っていた。

 それは、この国を出て、旅に出るというもの。


「それって……」

「この国にもう俺の居場所はないしさ。ほとぼりが冷めるのも、いつになるかわからないし」

「でも……」

「それに、前々から考えていたことでもあるんだ」


 居場所がなくなったから旅に出る、なんてまるで逃げているようにも聞こえるが……今回の一件が起こる起こらないに関わらず、前々から考えていた。

 転生前、今はもう消えてしまったライヤ……俺の記憶にある旅の景色は、魔王討伐という名目上のものだった。なので、旅とはいってもそんなにのんびりしたものでもなかった。

 だから、今回は……そういった、しがらみを全部放り出して、純粋に、旅をして、いろんなところを見てみたい。


「ただ、母上とキャーシュには、その……」

「気にしなくていいのよ。あなたが気にすることじゃないわ。というか、私も後押しはしてたしね」


 気がかりは、いくつかある。そのうちのひとつが、母上とキャーシュのややこしい立場だ。

 勇者であり、夫、父上でもあるガラド・フォン・ライオスが殺された、ミーロとキャーシュは被害者家族。しかし同時に、俺が殺人の容疑者でもある、加害者家族ということにもなっている。

 だが、それを考えてか違ってか、母上は数日前から、俺に「自分たちのことは気にしなくていいから、世界を回ってみるといい」なんて言ってくれた。


「あなたは、なにも悪いことをしていない。そう信じているから、誰がなんと言ってこようと平気。むしろ、真犯人を見つけて引っ叩いてやるって、キャーシュと盛り上がってるのよ」

「あはは、それは心強い」

「世界を見て回ることは、いい経験にもなると思うから」


 それは、以前魔王討伐の旅を経験したことのある、母上だからこその言葉。

 俺の弟でもあるキャーシュは、今は自分の学校に通っている。こんなときだし休んでもいいのではないかと言ったが……こんなときだからこそ行くのだ、こっちは悪いことをしていないのだから胸を張ればいいのだ、と笑っていた。

 ついでに、そのキャーシュの眩しいほどの言葉と笑顔は、ノアリとミライヤに流れ弾だった。


「このことは、キャーシュには?」

「いえ、まだ……というか、この話をするのは3人が初めてです。キャーシュは帰ってきてから話そうかと」


 みんなにも、追々話すつもりだ。

 ちなみにいつもはこの家にいるアンジーだが、今日はヤネッサのところに行っているため、この場にはいない。


「……」

「……」


 で……だ。先ほどから、黙り込んでしまったこの2人を、どうしよう。

 ノアリとミライヤは、俺が旅に出ると聞いてなんて思っているのか。やっぱり寂しいとか思ってくれているんだろうか。

 でも、もし止められても、俺の決意は固いからな。なにを言われても……


「ねえヤーク……」

「あぁ、だめだぞ、俺はもう……」

「私たちも、行きます」

「行くと決めて……うん?」


 てっきり引き止められると思っていた……だから、確固たる意思を持って、否定しようと思っていたのに。

 2人から出てきたのは、意外な言葉だった。


「……なんて?」

「私たちも、ヤークについていくって言ったのよ」

「言ったんです」

「……」


 だめだ、聞き間違いではない……2人は真剣だ。そして、母上はなぜかニコニコしている。

 まさか、知っていたのか……いや、そんなことはどうでもいい。


「いや、あのな? これは別に遊びで言ってるわけじゃ……」

「む。なによ、私たちだって遊びで言ってるわけじゃないわ」

「そうです。それに、私たちだってヤーク様と同じお尋ね者ですし」

「お尋ね者って……」


 言い方は物騒だが、まあ似たようなもの……か。

 この数日、母上が必死に呼びかけてくれたおかげで、憲兵はひとまず俺を積極的に捕まえようとはしておらず、事件の再捜査を行っている。


「いや、でも2人とも、今の生活とか……」

「私は、両親はいないですし、学園にも行きづらいから寮にも帰れてないです。リーちゃんと連絡は取ってますけど」

「……」


 思わぬ地雷を踏んでしまった……しかし、ミライヤは俺以上に居場所がなくなったと言えなくもない。

 だが、ノアリは……


「私も、前々から思ってたのよ。なんか窮屈だーって。だから、外に飛び出してみたいって」

「でも、今じゃなくても……」

「ええいうるさい! あんたたちを2人きりにはさせない!」


 と、俺とミライヤを指さしてきた。こうなると、なにを言っても聞きそうにない。

 まあ……最終的に決めるのは、ノアリ自身、ミライヤ自身だから……俺がとやかく言うことでもないか。

 それにしても、まさか俺が旅に出るって話から、逆に驚かされるとは……


「こりゃ、この先も賑やかになりそうだな」

「そうよ、ひとりになんてさせてあげないから!」

「これからも、お願いしますね」


 この先はひとり旅、なんて考えていたりもしたが……どうやら、そんなことにはならなさそうだ。実はちょっとだけ、嬉しい自分がいる。

 その後、帰ってきたキャーシュやアンジー、それにヤネッサ……今回の騒動で世話になった人たちに、同じように話をした。

 その中でもキャーシュは人一倍に悲しんでいたが、最終的には納得してくれたらしい。


「まずは、ルオールの森林に行こうと思ってて……」

「え、ホントに!? じゃあ私も行く!」


 国を出たあとの行き先を伝えたところで、はいはいとヤネッサが手を上げる。俺がルオールの森林を訪れるのは、エルフのみんなの無事を確認するため……そしてヤネッサは、目の前で森を、仲間を焼かれた。

 もちろんその記憶は、ヤネッサには残っていない。ただ故郷に帰りたいという気持ちなのかもしれない。だが、もしかしたら、根本にはみんなの無事を確認したいという思いが、あるのかも……


「わかったよ」


 どういう理由であれ、故郷に帰りみんなに会いたい……その気持ちを、俺は尊重した。

 アンジーは、ヤネッサが行くなら自分は残ると、辞退した。念のために、連絡用の魔石を、ヤネッサに持たせていた。

 これで、関係者には言って回ったか……あ、ノアリの両親にも一応、話を通しに行った。ノアリは、家族と縁を切ったなんてことを言うから、物騒なことになっていると、思っていたのだが……


『ヤークくん、娘をよろしく頼むよ』


 なんて言われてしまった。どうやら、縁を切ったと言ってもそれは形式上のもので、家族間の仲は良好なままだ。

 それぞれ、ノアリとミライヤも、別れを伝えるべき人とちゃんと、お別れを済ませてきたようだ。


「……いいのか? いつ戻れることになるか、わからないぞ」

「もう、いつまで言ってんのよ同じことを」

「それも、覚悟の上ですよ」


 2人は、なんとも頼もしいことを言ってくれる。

 そして……旅立ちの時。


「ヤーク、元気でやるのよ」

「兄上……」

「えぇ。母上とキャーシュも」

「私たちは、私たちでできることをやっておくから。ノアリちゃん、ミライヤちゃん、ヤネッサちゃん。ヤークのこと、頼んだわよ」

「えぇ!」

「わかりました!」

「任せてよ!」


 俺はそんなに頼りないだろうか……いや、ただ心配なだけか。

 この家とも……国とも、しばらくのお別れか。そう実感すると、少し寂しい気持ちもあるが……俺の気持ちは、変わらない。

 あまりこの場にとどまり続けると、別れが名残惜しくなる。


「じゃあ……行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


 最後に、短く別れの挨拶を告げて……母上、キャーシュ、アンジー……見送ってくれる人たちに、背を向ける。他のみんなとも、もう別れは済ませた。

 気ままなひとり旅のつもりだったが、なし崩し的にノアリ、ミライヤ、ヤネッサがついてくることに。

 だがまあ……こういうのも、いいかもしれないな。


「なんだか、ワクワクするわね!」

「もー、ノアリ様ったら……でも、実は私も少し」

「みんなで、たのしーこといっぱいしよーね!」


 この、賑やかな仲間たちと気ままに旅をするのも、悪くない。

 このゲルド王国を出て、その先になにがあるかわからないけど……"あいつ"も言っていた。この先が、俺の、ヤークワードとしての、新しい人生の始まりだ。

 俺も、若干高鳴る胸を押さえつつ……これから待つ、未知へと足を、踏み出した。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

せんざわ
2022.07.18 せんざわ

タグが復讐ではなく復習になっていますよ。

プロローグの殺害シーンでは、加害者4人の言動がただのクズであるように受け取れるのですが、意図された表現なのかな。
復讐時、こういう手合いに手心を加えるとモヤモヤしそうなので。

今後も楽しく読ませて頂きます。

2022.07.19 白い彗星

感想ありがとうございます!

!!なんてこった…タグ知らせてくれてありがとうございます!!

一応、その描写にちゃんと意味は持たせるようにしています。
それがおおかたに受け入れてもらえるかは、ちょっと不安なところでもありますが…

頑張らせていただきます!

解除

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