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最終章 その先へ
変わった世界、変わらぬ世界
しおりを挟むあの一件から、数日が経った。俺は『喉を斬り裂くほどの重傷』を負ったが、"癒しの巫女"である母上がすぐに処置してくれたことですぐに傷は塞がり、事なきを得た。
しかし、俺がそれほどの重傷を負った理由を、俺以外誰も覚えていない。ぼんやりと、なぜか喉を斬って倒れた……程度の認識に、なっているらしい。
あの日、龍の存在もなければ、崩壊した街並みも綺麗サッパリ消えていた。人々は、いつも通りの生活を過ごしていた。
……ノアリやミライヤたちから、それとなくこれまでの事件について、聞き出してみた。俺が……いや、ライヤが消えたことで、なにがどう影響したのか。
まず、『呪病』事件。これは実際に起こった事件だ。元々の犯人は、国内に突然現れた魔族、ということだった。
しかし、ライヤが消えたこの世界……という表現で合っているかわからないが……では、犯人は誰とも知らない一般人。
ただし、一般人とはいえなんの罪もない人間が罪を犯したわけではない。元々、様々な犯罪に手を染めていた男が、薬物を混ぜ偶然にも作り出した『呪病』。それが猛威を振るったということになっている。
なので、俺は『呪病』を治す手がかりのためにルオールの森林に行っているし、竜族の村にも行ってクルドたちにも会っている。竜王の血をノアリに飲ませたので、ノアリは竜人のままだ。
次に、『魔導書』事件。これはビライス・ノラムが、『魔導書』欲しさにミライヤに近づき、彼女の両親を殺した痛ましいものだ。
これも、やはり事件は起こっている。元々は、セイメイが『魔導書』の在り処をノラムに伝え、事件が起こった。しかし、セイメイの影が今回あったのかなかったのか……それは、わからなかった。
ただ、ミライヤが危惧していたように、セイメイがいなくてもなんらかの手段で、ノラムは『魔導書』に関する情報を得ていた……『呪病』事件を思い返せば、その線はおおいにあり得る。
事件は発生した……なので、ミライヤの両親は亡くなったまま。ヤネッサの右腕も、失われたままだ。
主に、この2つの事件は……経緯こそ変わっているが、事件自体の発生は防げなかった。
それに、シュベルトやガラド……その死に、俺が関与していない場合は、やはりその死はなかったことにはならない。
シュベルトを殺した犯人は今も捕まっておらず、結果的にガラドを殺したのが俺ではないことも、証明された。転生していないため、俺の中の魔王が殺したわけでも、なかったのだ。
犯人は行方知れず……だが、俺が犯人であると、その場に居合わせたゼルジアル校長たちに思われ、実際に捕まってしまった。
以降の流れは、俺も知っている通り。ただ、俺を捕まえた理由が『魔王の生まれ変わり』だからではなく『勇者ガラド殺しの犯人』だからに大きく変更されていた。
これはすなわち、ゼルジアル校長もまた、犯人ではなかった……ということなのだろうか。それとも、俺に罪を被せるために……?
そのゼルジアル校長、元々は魔族のせいで魔物と化し、最期は息絶えたが……どうやら、変わった後の世界では生きているらしい。かなりの重傷で、入院はしているが。
そう、大きく変わったこと……それは、魔族が現れなかったことだ。
魔王の復活が近づいたことで現れ、俺の前に姿を現し……この国に宣戦布告して、この国をめちゃくちゃにした存在。
しかし、ライヤが消え、魔王も転生しなかったこの世界では……魔族も、復活せず。この国が襲撃を受けることも、なかったのだ。
そして、魔族が現れなかったということは……エルフの森、ルオールの森林も、燃やされることはなかった。可能性が高い。
まだ、確認はしていないのだ。それに、『呪病』事件や『魔導書』事件のように、大元は変わっておらず経緯だけが変わっている可能性も、なくはないのだ。
……だから俺は、近いうちにルオールの森林に行くつもりだ。それはもちろん、ジャネビアさんやエーネ、みんなの無事を確認したいという気持ちもあるが……
「それにしても……これから、どうしようかしらねぇ」
「ですねぇ」
「……」
今、俺の目の前にはノアリとミライヤがいる。ここは、俺の家だ。
普段ならば、学園に通っているはずの時間帯。なのに、どうして3人揃って、この家にいるのかと言うと……
「どうもこうも、ノアリ様が言ったんですよ? 学園には行けないって」
「それは……そうなんだけど」
それは、まあ……俺のせいなのだ。
いろんな出来事が変わって。でも変わらなかった出来事もあって。俺が勇者殺人の罪で捕まり、それをノアリたちが助けに来てくれたのは、実際にあった出来事で。
つまり、まあ俺を助けるために、いろいろ大立ち回りをしたらしい。
そのせいで、学園に行きにくくなっている。というか、殺人容疑のかかった人間を逃した、言わば共犯だし。
ちなみに、どういうわけかその場にセイメイは現れず、またクロード先生の妨害もなかった。セイメイが現れなかったので結界も発動せず、代わりにアンジーが結界&透明化の魔法で、慎重に事を運ぶ……まあ、そううまくいくわけもなく。
結果、ノアリとミライヤが暴れまわり、その隙に俺を救出、というシナリオになったのだ。
「でも、ノアリ……ノアリのこともそうなんだが、おじさんとおばさんは……」
気がかりなのが、ノアリの両親。ノアリは、本人が満足しているため、それ以上突っ込むことはないが……彼女の両親は、別だ。
ノアリが派手に動いたことで、その家族にも影響が出たのではないかと、心配になるが……
「大丈夫よ。もう数日前に、家族の縁を切ってきたから」
「へぇ、ならあん…………え?」
本人は、大丈夫だ安心だと言うが……全然、安心ではない。
「なな、なにしてんのお前!?」
「だって、私のせいでお父様やお母様に迷惑をかけるわけにいかないもの。家族の縁を切れば、迷惑もかからないでしょ?」
「いや、その理屈はいろいろおかしいというか……」
なんだ、なんでこいつは平然としているんだ?
俺か? 俺がおかしいのか?
「それより、これからどうすんのよ」
「それよりって、お前……」
「ま、まあ……ヤーク様は犯罪者で、私たちは共犯扱いですからねぇ」
この先……か。
学園どころか、外に出て見つかっただけで、指をさされる始末だ。こんなんじゃ、迂闊に散歩すらできない。
ほとぼりが冷めるまで……といっても、事件の内容が内容だ。勇者殺害なんて、とんでもない内容だし……落ち着きを取り戻すのは、それこそ犯人を捕まえるまでだろう。
この国に、もう俺の居場所はない……か。
……だから、だろうな。
「俺、決めたことがある」
「決めたこと?」
「なんですか?」
エルフ族のみんなの無事を確認したい……そして、この国にはもはや居場所はない……それならば、と。
俺は、ひとつ、決めたことがある。
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