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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
第21話 一振りの決着
しおりを挟む先ほどまで、この場を覆っていたのは『剣星』グレゴ・アルバミアの圧倒的なまでの剣気だ。それが、塗りつぶされていく……『剣豪』ヴラメ・サラマンの剣気によって。
肌を刺すような感覚が襲ってくる。圧倒的なグレゴの剣気を上回る剣気……だけど、不思議と威圧感は消えた。グレゴの威圧のある剣気を、ヴラメさんは自らの剣気で抑え込んでしまった。
「あれ、なんか楽になったかも?」
「なんでいきなり?」
証拠に、今までグレゴの剣気により黙ってしまっていた人たちが、声を上げ始めた。
場の空気は、確かに変わった。それでも、常人にはせいぜい『呼吸が楽になった』程度のものだろう。ただ……わかる。グレゴの『威圧感』のある剣気を、ヴラメさんは『静圧』の剣気で押しつぶした!
「いやはや、すごいなグレゴくんは。それだけの剣の道、極めるまでにどれほどの鍛錬を積んだのか」
「それはどうも。でも、この状況で言われても全然嬉しくないですね」
グレゴじゃないけど……嬉しくないってのは、まあわかる。
私だって、ようやく自分の成長を実感した直後に、師匠に明らかにレベルの高い技を見せられると……褒められたって気がしないもん。
ただ、私にとっては師匠相手だったし、この人には一生敵わないとわかっているから半分以上は諦めている。その分グレゴは、いくらかつてすごいと言われた人とはいえ、初対面の人に圧倒的な実力を見せつけられている。
日々鍛えた剣技はそのどれもがヴラメさんには届かず、肌を刺すような剣気をも軽々超えられる。さらに、ヴラメさんはその右目に大きな傷を負っており、こんな緊迫感のある戦いでは視界さえままならないはずだ。
それでいて、グレゴとヴラメさんの間には大きな差がある。これでは身内びいきでグレゴを見ることも、もはや叶わないほどに。
「けど、そう思ったのは本当さ。俺が現役の頃でさえ、キミほどの剣士はいなかったよ」
そう思っているのは、きっと本気なんだろう。そして真実でもある。師匠は剣士じゃないし、私は当時のことは知らないけど、それでもグレゴほどの剣士がいたとは思えない。
私は、グレゴの強さを認めている。それでも……
「勝てない……」
無意識に、私がそう呟いた瞬間……ヴラメさんは、一歩を踏み出す。そこから、一歩一歩とグレゴとの距離を詰めていく。グレゴは、動かない。いや、動けないのか?
ここにいる人たちがグレゴの剣気に呑まれたように、今度はグレゴがヴラメさんの剣気に飲まれてしまったのか?
今や観客と化した人たちは動けているのに、なぜグレゴは動けないのか? それは……正直に言えば、剣気のレベルの違いだ。誰も彼も抑えつける威圧で剣気を放つグレゴとは違い、ヴラメさんの剣気は強者にのみ威圧を与えるものだ。
本人は、威圧とすら思ってなさそうだけど。
「グレゴ……!」
不安げに声を漏らすエリシア。
今の二人は、単純に見れば隙だらけだ。棒立ちのグレゴに、無防備に歩くヴラメさん。だけど、少なくともヴラメさんに……隙は、見当たらない。
そして、両者の距離が、互いの剣のリーチ内に入ったところで……ヴラメさんは、足を止める。
「……やはり、キミは強いな」
そう呟くヴラメさんの目に映るのは……ヴラメさんの剣気に呑まれてしまったかと思われた、グレゴの生きた目だった。グレゴはまだ、諦めていない。動けないんじゃない、動かなかったんだ。
それはなぜか? 単なる剣撃も飛ぶ斬撃も、小細工は無用と考えたのだろう。この人に届く可能性があるとすれば、ただ渾身の力を込めた一振りのみ。
二人の間に流れる緊張感は、こちらにも伝わってくる。いつしか、観客の声もなくなり……辺りには、ただ風の音だけが鳴っていた。唾を呑み込む音すら、瞬きする一瞬すら惜しい。
数秒か、数十秒か、数分か……どれほどの沈黙が流れたあと、唐突にその時は訪れた。
「……はぁ!」
「……むぅん!」
どちらから先に動いたのか……いや同時かもしれない。グレゴの振り上げる一振りと、ヴラメさんの振り下ろす一振りがぶつかり合う。鈍い金属の音が辺りに響き、さっきの剣撃の攻防よりも大きな火花が散る。
おそらくはお互いに、渾身の力を込めた一撃。ぶつかり合ったそれらの、どちらが押し勝つのか……その一瞬の杞憂は、一瞬のうちに決着がついた。
バキンッ……!
金属が、砕けた音が辺りに響く。同時に、一本の剣とおぼしき長いものが、上空に飛ぶ。くるくると回り、それは太陽の光により、青い空に浮かぶ一つの輝きを持って……やがて、地面に落ちる。その際刀身が地面に突き刺さった。
それは、果たしてどちらの剣か……考えるまでもない。そこにあったのは、よく見慣れた、大きな大きな剣。それは、まぎれもなくグレゴの大剣であった。
つまり……先ほど砕けたのは、ヴラメさんの剣ということだ。
「えっと……これって、どうなるの?」
その場にいる誰もが言葉を発せない中、サシェだけはいつもの様子で声を上げる。それを発端として、ざわめきは大きくなっていく。
勝敗は、果たしてどうなったのか? そんなの、考えるまでもない……勝者は……
「いやー参った参った。まさか剣を砕かれてしまうとは……これは、グレゴくんの勝ちということで……」
「いえ……今のは確かに、あなたの勝ちです。その剣が、借り物でなくあなたの使い慣れたものであったなら、明白です」
剣を砕いた、グレゴが勝者……ヴラメさんは、そう言おうとした。だけど、それをグレゴ自身が否定する。
「うぉあー! おいらの剣がー!」
そこへ、人込みをかき分け誰かが試合会場(勝手に命名)に入ってくる。あれは……この集落の門番であり、この勝負のためにヴラメさんに剣を貸してくれたコメット氏だ。
砕け、散らばり、剣というには形を保てなくなってしまった金属の欠片たちに……泣きながら、叫んでいる。
「うぉおー! おいらの剣が、剣がー!!」
「今砕いたのが、ヴラメさん本来の得物なら、自信を持って俺の勝ちだと言えます」
「こ、こんなにバラバラになっちまってぇ……!」
「ですが使っていたのは、借り物の得物……砕けたのは、剣の強度が今の衝撃に耐えられなかったからに過ぎない。むしろ、これまでの打ち合いに耐えたことに加え俺の剣を弾き飛ばした時点で、ヴラメさんの勝ちです」
「いや、そうかもしれないけどさ……もう少しタイミング考えない?」
剣の本来の持ち主が、剣が砕かれたことに泣いている側で冷静に自らの負けを認めるグレゴ……シュールすぎる。というか、あの剣に泣くほど思い入れあったのか。なんか悪いことしたな。
……あれ、この勝負の一番の被害者って、もしかしなくてもコメット氏では?
「俺の完敗です。ヴラメさん……俺を、弟子にしてください!」
「いやだからタイミング考えよう!? しかもなんの脈略もなく!?」
「おいらの剣んん!! シューベルトぉおおお!!!」
……やっぱり、シュールだ。てか、あの剣名前あったんだ。なんでその名前? なにそのネーミングセンス?
こうして、グレゴとヴラメさんの勝負は、グレゴの完敗とシューベルトの全壊により幕を閉じた。
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