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英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~
第66話 残忍な女
しおりを挟む表通りから聞こえる叫び声が、次第に増えていく。もはやそこは、とんでもない修羅場と化していることだろう。
倒しても倒しても立ち上がってくる……無差別に人々を襲う、まさにゾンビのような存在。『呪剣』がここにある以上、自我を奪われる被害者は増えることはないだろうが……まあ本当にゾンビならわからないけど。
間違いなく、死者は増える。
「じゃ、私たちも混ざるとしようか」
このまま、自我を奪われた奴隷たちがこの村の人間を殺し尽くすのを待っていてもいいけど……それだとちょっと退屈だ。
それに……正気を失っているとはいえ、あの奴隷たちもきちんと殺してやらないと。
「あんた、結構残忍なんだな」
「……そう?」
「あぁ。放っときゃいいのに」
……残忍、か。確かにユーデリアの言うように、わざわざ殺しにいく必要はない。放っておいても、この村はもうめちゃくちゃなのだから。
なのに、自ら殺しにいくことだけを考えている。言われてみれば、残忍であることに間違いはないのだろう。
それも、今となってはどうでもいいことだけど。
「ならキミは、行かないの?」
「……行かないとは、言ってない」
やっぱり……この子も、残忍だ。先に歩きだす私の後ろをついてくるように、歩みを進めている。
その瞳には、確かな殺意が宿っていて。
「……これは」
……表通りに出ると、そこは一言で言うならば地獄絵図だった。予想通りと言えば予想通りだったけど。
逃げ惑う人々、無差別に破壊、殺人を繰り返す者たち。この場にすでに安全な場所なんてものはなく、誰もが目の前の光景に怯える。
ある者は隣にいる人を押し退け、ある者は勇敢にも立ち向かい返り討ち、ある者は事態が終息することを願い身を潜めている。
「すごいね、これは」
「ま、こんなもんだろ」
今人々を襲っているのは、自我を奪われた奴隷……しかしその迫力は、目を見張るものがあった。
もしかしたら彼らも、自分たちを奴隷なんかにしたこの世界に、人々に、恨みを抱いて……自我を奪われなお、世界への反逆を露にしているのかもしれない。
あぁ、惜しいなぁ……正気であったなら、ユーデリアと同じく誘ったのになぁ。もったいないなぁ。
「もう誰も、残ってないのか」
たくさんいた奴隷の中でも、ニファル・カナテラ、カタナム・テンペスト、そしてキャロル・ニーヤはなかなかの素材だと思ってたんだけど……みんな、『呪剣』にやられてしまった。
特に、キャロル・ニーヤはコルマに反逆したり、なかなか見所のある女性だった。彼女ならば、案外いい復讐者になると思ってたのに。
「無い物ねだりしても、仕方ないか」
もはやここには、見所のある人物はユーデリアを除いて誰もいない。だから、みんな殺してしまっても問題はないのだ。
みんな、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな…………
「はぁあああ!!」
気がつけば私は、阿鼻叫喚の嵐の中へと飛び込んでいた。ただ己の本能に従い、拳を振るう。
人を殴る感触が、ダイレクトに伝わってくる。ユーデリアの、言うとおりだ……私の中には、確かに残忍な感情が顔を覗かせている。
もしかしたら……私の本性は、こちらではないのかとさえ思えるほど、今の私は確かに高揚していた。いや、そんなことはない……私の中の復讐心が、この感情を生んだだけだ。
断じて、これが私の本性などではない。
本性では、ないんだ。
「うらぁあああ!!」
この拳を振るう度に、悲鳴が、雄叫びが、私の耳へと届いてくる。もはや生きている人を殴っているのか、死んだも同然の人を殴っているのか、わからない。
視界の端では、ユーデリアが同じく人々を屠っている姿があった。その腕は、藍色の体毛に覆われた獣の腕に変化している。
いや、腕だけじゃない……脚も、獣のそれに変化している。それにより、ただでさえ素早かった身のこなしは、段違いの速さへと進化していた。
なるほど、『獣化』……と勝手に命名したけども、それはユーデリアの身体能力を格段に引き上げるようだな。
「……ふっ!」
暴れまわる自我なき奴隷たち……それに私とユーデリアが加わったことで、平和だった村の景色の姿はもはやなかった。すでに生者よりも死者の数が多くなったのではないだろうか。
それに伴い、悲鳴の数も少なくなっていく。代わりに増えるのは、雄叫び……奴隷たちの、そして私の、ユーデリアの。
獣のようなそれは、残った人々をさらなる恐怖へと突き落としていって……
「がっ、ぁあ……!」
「ひぃっ、た、たすけ……!」
「も、もう嫌だ……!」
逃げる人々を殺して、向かってくる自我なき奴隷を殺して、殺して、殺して、殺して……手が、誰のものともわからない血で塗りつぶされていた。
……どれほど、同じ事を続けていただろう。やがて、悲鳴も雄叫びも、自分のものとユーデリアのもの以外が聞こえなくなり……動く気配がなくなった頃、ゆっくりと辺りを見回す。
そこにあったのは、屍の束。腹に風穴を空けられた者もいれば、首を落とされた者もいる。様々な死体が、ここには転がっていた。
これだけの大きな村だ……自分でも気づかないうちに、いろいろな場所に移動して村人を殺していたようだ。ユーデリアと出会った裏通りから、ずいぶん遠くに来てしまった。
「……」
この気持ちは、なんだろう。さすがにこれだけたくさんの人間を殺したのだ、心がすり減ったのだろうか。それとも……
今自分がなにを思っているのか、自分でもわからなくなっていた。
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