異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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世界に復讐する者たち

揺れ始める世界

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 マルゴニア王国……それは、この世界の中でも一際ひときわ大きな国、大国である。国というものは数あれど、大国と呼ばれるものの数は少ない。

 その理由は、人口や領土の大きさはもちろんのこと、他国との交流が深い点が大きい。あらゆる物資を輸入輸出し、交流が深まることで大きな国へと発展していた。

 他にも、魔法が発展した国として、一番に名が挙がるのがこのマルゴニア王国であろう。それほどに魔法の発展は著しく、優秀な魔法術師も多い。特に、『魔女』と呼ばれるほどの人物はこの国にしかいない。

 さらに、『剣星』、『剛腕』、『弓射きゅうしゃ』、『守盾もりたて』といった優秀な人材を次々輩出している。

 そして、マルゴニア王国が各国から注目を集めるようになった一番の理由……それはなにをおいても、この世界を救った『英雄』を召喚したことに違いない。

 この世界は、危機に瀕していた。魔王の出現により世の生態系は一気に変わり、魔物と呼ばれる獣が、世界各地で見かけられるようになった。

 魔物とは凶暴性のある生き物で、相手が動物であろうと人間であろうと、容赦なく襲いかかる。非常に危険な生き物とされていた。

 しかしある日を境に、各地から魔物の消滅が確認された。その理由は一つ……魔王が、討ち倒されたからだ。魔王が滅んだことで、魔王の生み出した魔物は、消滅した。

 そして魔王を倒した人物こそ、マルゴニア王国が召喚した異世界の『勇者』。彼女は、先に挙げた五人の猛者と共に勇者パーティーを結成、この世界の害である魔王を討伐する旅に出た。

 そして、『勇者』は『英雄』となり、『英雄』を召喚したマルゴニア王国は、世界中から注目されるほどの成果を挙げた。

 ……そのはず、だった。


「今、なんと言った!?」


 広々とした一室。やたらキラキラしたものがあちこちに配置され、一目でここは単なる部屋ではないということがわかる。

 ここは王室。ガタンッ……と、椅子から立ち上がるのは、がたいが良く、白い髭を蓄え、しわが深く刻まれた貫禄のある老人だ。

 彼こそ、このゴルディアス王国の国王、シューベリ・サラサランダである。マルゴニア王国との交流を定期的に行っていた国の、一つだ。

 彼は、目の前でこうべを垂れる部下の言葉を聞き、その内容の驚愕に思わず立ち上がったのだ。


「聞き違い、か? 今お主、なんと……?」

「はっ! 我が国と交流を深めていたマルゴニア王国ですが…………国が滅んだと、マルゴニア王国に出向いていた商人から、情報が……」


 聞き直しても、その内容は変わらない。よほどの緊急を要しているためか、その言葉はただありのままの事実のみを伝える。

 その、あまりに壮絶な内容に、シューベリ・サラサランダは力が抜けたように、椅子に座る。


「ほ、滅んだ、だと? バカな……いったいなぜ……」


 マルゴニア王国は、国に住む人同士の交流もよく、笑顔の絶えない国だったはずだ。王族と民の関係も、悪くない。

 国が滅んだと聞き、まず一番に浮かぶのは、民の反乱だ。それはどの国とて、無関係ではない。しかし、マルゴニア王国に至っては、そのような心配はないと断言できる。


「ならば……」


 ならば、なにが原因だ? 食料危機? それとも外部から何者かに攻められた?

 前者は、まず考えにくい。先に挙げた通り交流の盛んな国だ、いかに人口が多いとはいえ、食料関係で国が滅びるまでに追いやられるとは思えない。

 そもそも、以前マルゴニア王国に訪れたとき、国の民は幸せそうで、食べるものに困っている様子はなかった。表だけそう見せたという可能性もあるが、この足で国を歩いたのだ。その可能性は低い。

 後者は、もっとあり得ないとも言える。なんせ、勇者パーティーの五人を輩出した国なのだ。

 魔王討伐の旅で半数が亡くなったと聞いているが、それでも残る二名がいる国を、誰かの手で滅ぼせるなんて思えない。

 つまり、どちらも現実的ではない。


「マルゴニア王国は……なぜ、滅んだと?」


 そもそも、なにをもって滅んだと言うのか。考えても答えの出ぬ問答に、ついにシューベリ・サラサランダは部下に問いかける。

 部下は一瞬、なにかに困ったように顔を上げると……言葉を探すようにして、口を開く。


「その、なんと言いますか……国全域が、雪に覆い尽くされ、埋もれていまして……」

「……はぁ?」

「建物も、人も……雪に埋もれ、凍りついていたのです。それも不思議なことに、国のある範囲だけ。出向いていた商人は、運良く国から帰るところだったので、巻き込まれずに済んだらしいのですが……あの状況では、どこかに逃げてもいない限り、生存者は……」

「待て……待て待て、待て」


 部下に問いかけた、マルゴニア王国が滅んだ理由……それは、思いもしない言葉で返された。突拍子がなさすぎる。

 この部下はなにを言っているのだと、開いた口が塞がらない。しかし、部下が嘘を言っているとも、思えない。


「雪……だと? それが、国を覆って? ならばマルゴニア王国は、自然現象で滅んだとでもいうのか?」

「今のところは、そうとしか……」

「バカな! そこいらの村や町ならいざ知らず、国を覆い尽くすほどの雪だと!? 国の範囲と言ったな……それほどの雪が、他の場所には被害を与えることなく、国だけを滅ぼしたと!?」


 そんなことは、あり得ない。国に危害を及ぼしておきながら、その近隣の村や町にはなんの被害もないというのだ。

 まるで、その雪がマルゴニア王国だけを狙ったかのような。そんなもの、あり得ない。ただの自然災害が、一帯のみを狙うなどと……


「そんな魔法のようなことが……!?」


 言いかけて、シューベリ・サラサランダは押し黙る。一つの仮説にたどり着いたからだ。

 国一つを覆うほどの雪……それも、的確にそこだけを狙ったものとなれば、自然に発生したものとは考えにくい。

 ならば、残る仮説は一つだ。その雪は、魔法によるもの。それも、そんな大規模な魔法を使うなどと、並大抵の人間にできることでない。

 ……『魔女』と呼ばれる人間を、除いて。


「まさか……」

「すでにこの事実は、他国にも知れ渡っています。真相はどうあれ、マルゴニア王国が滅んだのは、もはや事実です」


 自身の推理……実際にはまったくの勘違いだが……それが浮かんだ瞬間、そうだと思った瞬間、疑惑は確信へと変化していく。

 人間とは不思議なもので、これに間違いない、と思ったものは、それが真実だと疑わない傾向にある。周りに考えを指摘する者がいなければ、なおのこと。

 人間の本質は、世界が違っても変わらないらしい。


「しかし、これは一大事だ……マルゴニア王国との交流が、断たれたとなると……!」


 その心配は、このゴルディアス王国に限ったものではない。食料を、物を、人を、武器を……物資を、マルゴニア王国と交流していた国は、決して少なくない。

 しかも、大抵はマルゴニア王国を頼りにしていたところが多い。つまりマルゴニア王国が、交流元と言っていい。

 交流元が断たれてしまったという事実は、どう考えても一大事だ。下手をすれば、国の存亡に関わりかねないところだってある。


「その商人を呼んで話を聞くのは、後回しだ。……今は……」


 国が滅んだ理由の追及……それはこの際後回しだ。部下の言葉をすべて信じるわけではないが、わざわざ国が滅んだなんて嘘をつく理由もない。

 それに、他国にも知れ渡っているのなら、確認すれば済むことだ。その目で見たという商人に聞くのも、今は後回し。

 今すべきことは、マルゴニア王国が滅んだことにより、具体的にどのような影響がもたらされるか。そして、その影響への対応策を練らなければならない。

 必要とあらば、マルゴニア王国との交流を同じくしていた他国とも連絡をとり、早急な対策を……


 バタンッ!


「失礼します!」

「なんじゃ! 騒々しい!」


 今後のことを考えるだけでも、頭が痛くなる。しかしその気持ちをかき回すように、また別の部下が部屋へと入ってくる。

 普段ならば、この王室へとノックをもって入室の許可をとる必要があるわけだが……この部下の慌てよう。よほどの緊急事態ということか。

 だとしても、タイミングが悪い。今はマルゴニア王国関連の対策を考えなければならない。それ以外の問題など、些細なものに過ぎない。


「今は忙しい! 用なら大臣にでも伝えておけ」

「はっ! しかし、緊急事態で……早急な連絡が必要と思い、直接出向いた次第であります!」

「緊急事態? こちらもそれどころでは……」


 ない……と、その言葉を言い終える前に、部下が口を開く。


「……このゴルディアス王国が、何者かの襲撃を受けています!」

「な…………は? な、なん、じゃと……!?」


 額から汗を流し、青ざめた顔をした部下の口から放たれたのは……現状最悪の事態に、さらに最悪を塗り重ねるものであった。

 ……国だけでない。世界を揺るがす事態が、起ころうとしていた。
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