異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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氷狼の村

呪いの剣の脅威

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 まさか、また見ることになるとは思わなかった。呪いの剣、『呪剣』を。

 なぜこれが、ここにあるのか……その疑問は、あまり問題ではない。これは過去の光景なのだ、誰がなにを持っていたって不思議じゃない。

 問題なのは……ここでバーチが持っている『呪剣』が、どういう経緯でコルマの手に渡ったのかだ。まさか、この過去話にあの男まで出てこないだろうな?


『その剣……なんだい? あんま趣味のいいもんじゃなさそうだ。妙な感じがする』


 『呪剣』を目にしたノットの反応は、あまりいいものではない。どうやら初めて目にしたらしいが……その声色が、拒否感を表している。

 まさか、一目見ただけでその異常性を見抜いたのだろうか? そりゃ私だって、初めて見たときはへんな剣だと思ったけど。


『まあ、見てなって。面白いことが起こるから』


 持ち主であるバーチは、当然その効果を理解しているのだろう。怪しく、笑みを浮かべている。

 その余裕も、当然であろう。その剣の力があれば、いかなる戦況差であっても、ひっくり返すことが可能なのだから。

 『呪剣』という呪われた剣の、その一振りだけで。


『よくも仲間や村を……許さんぞ!』


 対峙する氷狼の一匹が、痺れを切らしたかのようにバーチへと襲いかかる。その身に纏う冷気は、近づくだけで凍りついてしまうほどに強力なのだろう。

 だけど、バーチはそれをものともしない様子で……


『遅い』


 次の瞬間には、氷狼の体を『呪剣』で一閃していた。それは本来ならば、その一太刀で氷狼の命を奪えたほどに鋭く、速い一撃だった。

 ……本来ならば。


『おい! 大丈夫か!?』


 仲間が斬られたことにより、別の氷狼が駆け寄る。仲間思いの、優しい行為……だけど、それがこの時ばかりは、完全に裏目に出る。


『……ガァルルルァ!』

『ぇ……ぐぎゃああ!?』


 近寄る氷狼は、斬られた氷狼に襲われ……首に、噛みつかれる。牙が皮膚に食い込み、首を、喉を、容赦なく噛み千切っていく。

 それは、一瞬の出来事。首に噛みつかれ、抵抗する間もなく命を落とす仲間を他所に、正気を失った氷狼は狂ったように、死体を貪っていく。

 ……それは、共食いだ。


『な……なにを、している!!』


 あまりの光景に、氷狼たちも兵士たちも、ノットでさえも反応出来ないでいた。しかし、そこからいち早く我に帰ったのは、ユーデリアの父親だ。

 彼は凄まじいまでの怒りを冷気に乗せ、狂う氷狼へと放つ。冷気はあっという間に、顔以外の部分を氷付けにしてしまい、身動きをとれなくする。

 これならば、自我を奪われようと関係ない。動けないのだから。


『エリネット! なにを、している! なぜ仲間を……答えろ!』


 エリネット、とは、狂った氷狼の名前だろう。いきなり仲間を襲い、命を奪った行為を咎めている。

 よほどの怒りを感じさせる形相だ。それに対してエリネットは……ただ、唸るように吠えるだけ。自我を、奪われているのだから仕方ないが。


『くっ……貴様が、なにかしたのか!』

『はて、なんのことやら』


 言葉のキャッチボールが無駄だと判断したユーデリアの父親は、バーチへと向き直る。それは、バーチがなにかしらの行為をしたせいでエリネットがああなってしまったのかという、一種の確信があるものだ。

 鋭い洞察力だ。エリネットがいきなり狂ったのではなく、狂った原因が別にあると、即座に考えた。

 しかしバーチが、それに素直に答えるわけもない。


『よっ、と』


 ボゥッ……


 そして、その問答の間に、ノットが指を鳴らして……エリネットを捉えていた氷を、溶かす。

 人の内側から燃やすアレは、普通の炎としても扱えるのか。


『ガルルルァ!』

『エリネット、目を覚ま……!』


 ガキンッ!


『おぉっと、惜しい惜しい』


 氷の拘束から解放されたエリネットは、再び同族の仲間を襲う。その凶行を止めようとしたユーデリアの父親だが、それはバーチによって妨害される。

 バーチは『呪剣』で斬りかかり、ユーデリアの父親はそれを額から生えた氷の角で受け止めている。

 あれならば、『呪剣』の呪いを受けることはない。呪いの発動条件は、斬られることなのだから。


『その剣、なにか嫌な感じがする……!』

『さすが氷狼の長。鋭い鋭い』


 ユーデリアも、額から氷の角を生やしていたけど……あれとは、太さも大きさも全然違う。それに、見かけ倒しってわけでもない。

 バーチの剣擊を、一つ一つ受け流している。動きに、一切の無駄がない。


『ノット!』

『ったく、うるさいわね。このために、私を呼んだのか』


 流れるような剣擊を繰り出しながらも、バーチはノットへと声をかける。その直後だ……ノットが指を鳴らすことで、辺りを吹雪く雪が次々に燃え上がる。

 つまり、冷気は熱気へと変化し……それにより、あちこちを覆い尽くしていた雪が、氷が、溶けていく。

 氷狼にとって有利であったはずのフィールドは、あっという間にその優位性を無くしていく。


『なっ、冷気が……!?』

『これなら、兵士ごときでもヤれんだろ』

『総員、かかれー!』


 熱気は冷気を上回り、それにより寒さで麻痺していた手足も、動くように。そのタイミングで、兵士たちは一斉に氷狼たちへと襲いかかる。

 冷気はもはや、封じられたも同然……しかし、それだけが氷狼の力ではない。獣としての実力は、なにも低下してはいない。牙を、爪を輝かせ、迎え撃つ。

 兵士たちと氷狼たちが、バーチとユーデリアの父親が、ぶつかり合う。加えて自我を奪われた氷狼が、敵味方関係なく襲いかかる。

 ユーデリアの父親がバーチを抑えている以上、これ以上『呪剣』の被害者は出ない……と、楽観的な考えは出来ない。なにせ、斬れば効果が発揮されるのだ。


『ぐぁあ! ……グ、ルル……!』


 わざわざ正面から正々堂々戦うつもりのないバーチは、片手間感覚で近くの氷狼を斬り、その自我を奪っていく。

 普通に考えれば、戦闘力の高い氷狼がこれだけの数いれば、滅ぼされるなんてことはない。……荒れる戦場は、その状況がすでに変わりつつあることを示していた。
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