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氷狼の村
再生能力の宿る炎
しおりを挟む『あ、ぁ……』
「……っ」
そこでは、目を疑う光景があった。ユーデリアの小さな体を、バーチの腕が貫いたのだ。それは、命さえも危ぶめる一撃。
だけど、バーチはユーデリアを捕らえたいはずだ、殺しはしない。なにより、今ユーデリアは生きている。これで死ぬようなことは、ない。
……とわかっていても、あまり見ていたい光景じゃあない。
『お、おい、なにしてんだ?』
ノットも、困惑の声をあげる。それはそうだろう。せっかくユーデリアに近づくことができたのに、そのユーデリアを突き刺すなんて。
しかし、それに対してバーチから返ってくるのは、ただ不気味な笑みだけで。
『くふふ……また暴れられても、面倒だからな。それに、これくらいじゃ死にはしない』
『これくらい、って……』
また先ほどのように、近づけないほどの冷気を出されても面倒……それが、バーチの行動の理由だ。
しかし、先ほどの冷気は、ユーデリアの無意識下で起こった。だからどんなにユーデリアを痛め付けようと、意識を飛ばそうと、あの冷気が出てこない保証にはならないが……
『なあに、傷なら治してやればいいさ。それに、こうして中を探ればわかる……このガキに、あんな力はもう残ってない。最後の悪あがきというやつだろう』
『……へぇ』
どういう原理かはわからないが、ユーデリアの先ほどの冷気は、火事場のバカ力ってやつだったようだ。それは、恐ろしい力を発揮したと共に……おそらく、もう放たれることはない。
一度冷気が途切れたことで、まるで緊張の糸が切れてしまったかのように。
『治すっても、そんな傷どうやって……』
『あるだろうノット。お前の炎には、再生能力が』
自分から腹に穴を開けておいて、その処理はノットに任せると言う。それにしても、再生能力がある炎?
それを聞いて、ノットは露骨に嫌そうな顔を向ける。
『なんで、私が。そのガキのせいで、この腕は……』
『それはキミのミスだろう。それに、ここにいる者にこんな傷を治せる者はいないし……それに、聞いたろ。もうこの村に生き残りは少ない。このガキを逃すと、氷狼一匹を捕まえる依頼を果たせなくなるが? 裏の世界じゃ名高い暗殺者"疾風"の名が泣くぞ?』
『……くそ野郎め』
バーチの言い分はめちゃくちゃだが……ノットは、どうやら暗殺者で、依頼を受けているらしいというのはわかった。おそらくはバーチが"あの人"と呼ぶ人物からだろう。
つまり、ノットはマルゴニア王国の人間でもなければ、"あの人"とやらの部下でもない。雇われ兵、みたいなものか。
それにしても……
「裏の世界……暗殺者……」
私が知っているこの世界とは、もはやなにもかもが違っている。奴隷なんて見たこともなかった存在を目にした時点でわかってはいたが、やっぱり私が見ていたのは、この世界の一部だけだったんだ。
奴隷、暗殺者……この世界には、いやこの世界にだって、見えない一面がたくさんある。
『ちっ、わかったわかったよ。治せばいいんだろ。けど、知ってると思うが……』
『その炎はあくまで傷だけを治すもの。ダメージは回復しない……だろ? 構わない、むしろ好都合だ。困るのは、失血死されることだけなんでね』
と、バーチは腕で貫いたままのユーデリアを、乱暴に投げ捨てる。そこに、ノットが近づいていく。
ノットの右腕を含めた、右肩から腹部にかけて痛々しい傷を残したのはユーデリアだ。傷を負わせたその本人を、自らの手で治す……それはノットにとって、複雑な心境だろう。
……が、それよりも私には、気になることがある。気になる一文が、あったからだ。
「……傷だけ、治す……?」
ノットの持つ炎に宿る再生能力……それは、傷だけを治し、ダメージは治らないのだという。つまり、ユーデリアの腹に空いた穴や、傷をつけられたであろう内臓も形だけは治るということだが……
その力は、私がこの世界に戻ってきた当初に宿っていた力と、非常に似ている。ていうかそっくりだ。
ダメージは回復しないから、見てくれだけの回復方法。失血死を止めるには最適だが、それ以外に使い道のないと思われる力。
それを、ノットも持っている?
『じゃ、始めるぞ』
と、ユーデリアの腹部に手をかざしたノットは告げる。手のひらから、ゆらりと炎が燃え上がり……それは、ユーデリアの腹部、正確には穴が空いた部分を、包み込んでいく。
傍目から見ると、それは体を焼き尽くすだけの炎だ。だが、先ほどまで見ていた炎と大きく違う点がある。それは……炎が、青いのだ。
赤ではなく、青い炎……それはゆっくりと、確実に体に変化をもたらしていき……
「……なおっ、てく?」
メラメラと燃えているため、細部までは確認できない。けれど、その炎は確かに、ユーデリアの腹部に空いた穴を塞いでいっているように見える。
これが、再生能力の宿る炎。おそらく、赤い炎は攻撃能力。青い炎は、再生能力があるのだろう。
炎が消える頃には、すっかりユーデリアの腹部は元に戻っていた。ただダメージは回復しないので、気絶したままだが。
『……これで、いいだろ』
……再生能力を持つ、炎。ノットの炎の力は、魔法ではなく呪術だと、確か言っていた。
今でこそ『魔女』の左目のおかげで回復手段には困らない私だけど……当初は、アレと似た力を、確かに持っていた。
あれは……出来損ないの魔法だと思っていたアレは、呪術と呼ばれるもの、だったのか?
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