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氷狼の村
呪術との戦い
しおりを挟むこいつらの背後に何者かがいるのは、もはや疑いようがない。問題は、それが誰かということ。
わかっているのは、それが男であるということだけ。……なんだけど、引っ掛かるものがある。
もしも、今目の前に立ちはだかる男たちの背後にいる人物と、私が見た過去の光景で氷狼の村を襲わせた人物が、繋がっている……いや、同一人物だとしたら……
「やっぱり、偶然じゃない……?」
この左目が過去を見せたのは、偶然ではない。なにかしらの意味があって……? そう、勘ぐってしまう。
もしそうなら、その人物についてこいつらからなにか聞き出せるかもしれない。氷狼の……ユーデリアの故郷を襲わせた、その理由を。
「『英雄』だからって関係ねぇぜ! ビビって動けなくなっちまってるんだからよ!」
数の優位、呪術という圧倒的な力……それらを手にし、男たちはもう勝った気でいる。
この男たちは、いわゆる雇われている状態。金を貰う、とはそういうことだろう。過去で見た、ノットも雇われていたようだった。
ノットは呪術使いであり、この男たちも同様だ。ただ、男たちの場合は自らの力ではなく、おそらく与えられた力だ。
呪術の力を与えたのは、雇っている男だろう。もしかしたらノットも、その男に呪術を与えられた可能性もなくはないけど。
「……あー、ダメだ。わけわかんないや」
考えても、わからないものはわからない。それにどれも、可能性の話だ。
考えるのは、こいつらを全員倒した後だ。この場を切り抜ける方法を、まずは考えろ。
この呪術が与えられた力ならば、持続時間に限りがあるのではないか。まさかあんな少量の液体を飲んで、永久的に呪術が使える、なんてことはないだろう。
もし時間制限があるなら、時間が切れるまでひたすらに逃げればいい。ただ……
「どれだけ制限があるか、わからないか……」
それも可能性の話である以上、確証はない。時間制限があったとしても、十分かもしれないし、一時間かもしれない。そんな曖昧な時間、ずっと逃げ続けるわけにもいかない。
だから結局、やることは一つになるんだ。
「ビビって動けない今のうちに、数で押しきれ!」
男たちは、揃って火の玉を放ってくる。先ほどと同じ攻撃手段だが、今度は一ヶ所に固まってそこから攻撃しているから、物量が全然違う。
単純に考えて、火の玉一つの十倍以上の威力……!
「なら、これで……!」
あの威力では、力押しに押し返すのは難しい。ならば、今度は弾く!
目の前に、魔力の盾を出現させ、火の玉を受け止める。ただし、正面から受け止めるのではなく……少し、角度をずらしている。地面に対して垂直ではなく、傾けて。
そうすれば、攻撃を受けるでなく、受け流すことが可能だ。これならば正面から受けるより、力は少なくて済む。
「ちっ! 鬱陶しいんだよ!」
足を燃やし、まるでローラースケートのようにして地面を滑る男が叫ぶ。その男は、普通に走るよりも速く、そして滑らかに地面を駆け、燃える拳を放ってくる。
「それは、お互い様、だ!」
迎え撃つように、私も拳を放つ。拳と拳がぶつかり、燃える拳に触れた私の拳は、あっという間に燃えていき……
「……なにっ?」
……となるはずだったが、そうはならない。なぜならば、この拳同士はぶつかり合っていないからだ。
「なんだ、こりゃ……!」
「これなら、燃える心配もない!」
男が驚くのも、無理はない。炎を纏う男に対して、私が拳に纏うのは、言ってしまえば空気。空気の膜を拳に纏わせ、炎に触れないようにしたのだ。
まあ簡単に言うと、見えないグローブを付けて殴っていると解釈してもらえればいい。グローブを付けてれば、皮膚に炎が燃え移ることはない。
「はぁ!」
「うぐっ!?」
ただの殴り合いならば、こんな奴らにまず負けはしない。相手の拳を弾き飛ばし、代わりに相手の腹部に拳を打ち込む。
触れなければ、どうということはない……考えてみれば、簡単なことだ。
「なにしてやがる、だらしねえ!」
「やっちまえ!」
それを見て、他の男たちも行動を起こす。それぞれが足を燃やし、先ほどの男と同じようにローラースケートみたいに地面を滑ってくる。
あれも、呪術の一種なのか……? 魔法と同じく、応用が効くものみたいだけど……
「さすがに、これは……」
十余人が、右往左往して辺りを駆け、呪術を放ってくる。この状況は、さすがに余裕とはいかない。
触れたらアウトなんて……炎といい『呪剣』といい、呪術ってのはそういうものなのか?
「なら……!」
魔力で身体強化して、自らの速度を高める。そうすることで、回避率がアップするし……ただ避けるだけでは、ない。
「おらおらお……ぇ、おいちょっ……!」
バシュッ……!
「お、ぎゃああぁああ!?」
これだけ複数の人間が、辺りを駆け回りながら好き好きに呪術をぶっぱなしてたら、その狙いは自分の思った通りにいかないだろう。つまり、同士討ちの可能性が高くなる。
始めに比べてチームワークが上昇してきているとはいえ、所詮は付け焼き刃。それに、己の力が上昇したことでまた、自分勝手に暴れだしているのもいる。
だから、こうして二人の男が一直線上になるように、動けば……あいつらは、自分たちの放った呪術で自分たちを攻撃することになる。
「おぉお、も、燃え……て……!」
呪術の炎により同士討ちとなった男は、全身が炭となり……数秒と持たず、その場から消え去ってしまう。
自ら纏った炎とは違い、他者からの呪術は防ぐことができないようだ。
……燃やし尽くされた男は、もはや影も形もなく。これが、呪術……か。
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