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氷狼の村
副作用
しおりを挟む呪術を使う連中……そこに、理性を失ったユーデリアまで加わる。ただでさえ厄介なところに、新たに厄介なものがやってきた。
もし、ユーデリアが理性をなくしていなければ、強力な味方となっただろうけど……私にも敵対の意思を見せている以上、それはない。
普段のユーデリアであれば、まあ敵対したとしても対処のしようはあるけど……今のユーデリアは、なにをしでかすかわからない。
今のユーデリアはまるで、過去の映像で見た、あの姿みたいだ。
「ガルルル……!」
「こいつ、さっきまであそこで鳴いてたくせに……!」
突然の乱入者に男たちは動揺を隠せない。ただの子供であれば、鼻で笑っていただろう……だが、そうできない理由は今、目の前で見せられた。
呪術の炎を纏った男が、氷付けにされたのだ。自分たちの今ある力が通用しない相手だというのは、バカでもわかること。
「おま、えらが……!」
「ひっ……!」
ユーデリアの牙はすでに獣のように鋭く、爪も伸びている。目も鋭く変化し、シルエットこそ人間の子供だが、その中身は……
「猛獣……」
氷狼である以上、獣であることは間違いないのだが……それを考えないとしても、今のユーデリアは獣よりももっとおっかない、猛獣と表現すべきだ。
これじゃ『呪剣』で自我を奪われた状態とそう変わらないよ。まあ、あれは斬られたが最後永遠に暴れ続けるから、今のユーデリアの状態とはそこが違うけど。
ユーデリアは、気を戻せば元に戻るはずだ。多分。だから殴って目を覚まさせれば問題はない。きっと。
「やることは、変わらないか……」
厄介な状況には変わりはないけど、結局やることは変わらない。要は、ぶん殴ればいいのだ。敵も倒せるし、ユーデリアも元に戻せる。はず。
……ぶん殴るなんて、私の考え方もずいぶんと脳筋になったなぁ。
「ちくしょう、ふざけやがってぇ!」
まあ、この状況を嘆きたいのは私よりも、むしろ男たちの方だろう。なにせ、ただでさえ私を相手にし、呪術という謎の力に振り回されているのだ。
そこで、強力な冷気を放つユーデリアも参戦。こちらは敵味方の判別がついていないとはいえ、男たちにとって脅威じゃないわけじゃない。
ま、敵味方の判別がついてないユーデリアが適当に男たちを倒してくれれば、私にとっても楽に……
「ガルルルァ!」
「って真っ先に私かよ!」
ユーデリアが、その爪で切り裂くと決めたのは……どうやら、私のようだ。その目に獲物を捉え、まっすぐに向かってくるではないか。
しかも、その右腕は獣化し、体からは冷気を放ったままだ。あれじゃあ、近づくだけで……
「お、おいやめ……!」
「ぅわぁああ……!」
私とユーデリア、直線上にいる男は、巻き添えをくらい次々に凍っていく。ユーデリアはまっすぐ私に向かってくるのだから、周りなんか見ていない。
ゆえに、逃げ遅れた男たちが犠牲になっていくのはもはや必然で……
「って、分析してる場合じゃないか……!」
理性を失った獣、というのが今のユーデリアには正しい表現だろう。そんな相手が、真っ先に私を敵と見定めたってことは……獣の本能的ななにかが、そうさせたのだろうか。
「はっ!」
「グル……!」
獣の腕は、大きく振るわれる。それをかわすものの、ユーデリアの追撃はやまない。大振りな分、避けるのは大したことないけど……氷狼としての速さも、理性と共に失われてくれればよかったのに。
この素早さは、厄介だ。しかも、冷気により邪魔されて、半端な攻撃は効かない。
「な、なあ……あいつら、なにしてんだ?」
「仲間割れ、か?」
ユーデリアが私に襲いかかることによって、男たちは唖然としている。仲間割れ……か、まあそう見えるよね。
とはいえ、このままじゃ男たちにとって有利になるだけだ。疲弊したところを一斉に狙われる可能性だってある。
「ガルルァ!」
「いい加減に、しろ!」
追撃をやめないユーデリアを引き離すには……これしかない。目の前で、火属性の魔法を使い爆発させる。その衝撃に近くにいたユーデリアは、そして私自身も巻き添えをくらい吹き飛ぶ。
「っ、つつ……!」
けど、仕方ない。それに、爆発の衝撃によるダメージも、回復魔法で回復させれば問題はない。
「グォ、ルル……」
もろに爆発に巻き込まれる形となったユーデリアのダメージは、私の比ではない。結構魔力を込めたから、それなりに効果がないと逆に困る。
このまま寝ててくれればいいんだけど……そうも、いかないか。
「ったく、こっちはあんたの故郷をめちゃくちゃにしようとしてるおっさんから、守ってあげようとしてるってのに……」
正確には、私とユーデリアを狙う過程で故郷がめちゃくちゃになるかもしれないだが……まあ、そんなことはどっちでもいい。
いくらトラウマスイッチオン状態だからって、私にまで牙を向くのはどうかと思うよ。
「けど、片腕だけでユーデリアの相手は、骨が折れるな……」
理性を失っているとはいえ、平常時よりも冷気の威力が上昇しているユーデリアに対して、私は腕一本失っている。腕一本の戦いには慣れたとはいえ、相手が強者ならば話は別だ。
腕がないことに、後悔はない。けど、やっぱり不便だと思うことはたくさんあるわけで……
「隙ありだこのやろう!」
「そう思うなら、叫ぶな!」
不意に、右方向から男が襲いかかってくる。右腕がない私の、死角をついたつもりなのだろうか。けど、隙だと思うなら、わざわざ声に出さなければいいのに。
私は、条件反射で男を蹴り飛ばす。当然、足には見えないグローブを纏わせているため、炎によるダメージはない。けれど……
「!?」
「へへ、捕まえたぜ……」
蹴り飛ばしたと思っていた男は、私の足にしがみついていた。こいつ……まさか、最初からこれを狙って!?
右腕のない私が、右方向から攻撃を仕掛けられたとき……咄嗟に反応したら、足で対応する。そう考え、突撃してきたのか。それとも単に、足でも左腕でも、対応されたそこにしがみつくつもりだったか。
どちらにせよ、これは予想外だ……まさか、しがみついて動きを封じてくるなんて!
「へへへ、ゆっくりいたぶってやるぜ……」
「くっ……」
いくら今は炎を防げているとはいえ、ずっとしがみつかれていてはいつ、炎に侵食されるかわからない。それに……
「ひゃっはー! くたばれぇ!」
私が動けないうちに、仕留めるつもりか。他の男たちが、迫ってくる。拳には、呪術の炎を纏わせて。
こうなったら、魔法でまとめて吹き飛ばしてしまうか……
ドクッ……
「ぅ!?」
魔力を発動させようと、したところへ……突如、左目に痛みが走る。この、痛みはいったい……?
まさか、魔力の使いすぎによる副作用? いや、今までの経験で、そんなことはなかった。なら、もしかしたら……過去の光景を見たことによる、影響?
原因はなにか、わからない。とにかく、魔力を発動させるための源、左目にどうしようもないほどの痛みが走っているということで……
「もらったぁ!」
痛みに動けなくなった私に……炎の拳が、打ち込まれて……
ドゴッ……!
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