異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

呪いに取りつかれた者の末路

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 厄介な魔物は一匹残らず倒し、残るはあそこで暴れているレバニルのみだ。しかし、厄介とはいってもそれはあの『呪剣』に限った話。

 『呪剣』を使用している影響で、もはや本人の意識は残っていない。体が傷つこうが、動く。村人を切ろうが、斬り続ける。それはもう狂気に呑まれていると言える……が。


「あの様子じゃ……たいしたことは、ないか」


 今のレバニルは、非力な村人にすら押さえられるレベルだ。もちろん完全にとはいかないが、素人でも数を合わせれば対抗できるということ。

 あんな相手、私やユーデリアの敵じゃない。あれと比べれば、まだ変態(コルマ・アルファード)の方が手強かった。あの男も『呪剣』を使用していたが、意識はしっかりしていたし、本人の耐久力を何倍にも引き上げていた。

 コルマが持ち、過去にバーチの手元にあった『呪剣』は"斬った者の自我を奪う"力を持つ。そしてレバニルが使用している『呪剣』は"斬った者を崩壊させる"力。斬られた箇所から、まるで砂のように崩れ落ちる。

 このことから、『呪剣』というのはこの二種類以外にも存在していると考えた方がいい。もしかしたら、あの『呪剣』と同じように、まだこの地面の中に眠っているんじゃ?

 地面を割ったことで、周辺の地面に突き刺さっていた剣は、地上に飛び出してしまっている。……ただ、これらの中には、呪術に関係する嫌な感じは、しない。

 『呪剣』とは、呪術により呪われた剣だ。呪術特有の嫌な感じさえ感じ取ることが出来れば、それが『呪剣』であるとわかる。


「これだけあって、あれだけ……」


 見渡す限りの地面に突き刺さる剣を見て、小さく呟く。

 これだけの数があって、『呪剣』はレバニルの持っている一本のみ……この数の中で『呪剣』が一本だけと思うべきか、この数の中で『呪剣』が一本もあると思うべきか……

 そして、これだけの数がありながら、レバニルがたまたま手に取った剣が『呪剣』であったのは、果たして本当に偶然なのか……


「ぐぅ、ぅ、やめ……ぎゃあ!」


 そんなことを考えているうちに、レバニルを押さえていた村人は次々と斬られていく。その光景を見ているうちに、レバニルに近づこうなんて奴は少なくなっていく。

 それはそうだろう……少しでも、触れるだけ斬られただけでも、死んでしまう。いや、死ぬなんて生易しい表現……消滅だ。

 自分がそこにいた証はなくなり、あとにはなにも残らない。死体も残らなければ、誰に埋葬されることもない。それは、到底受け入れがたいものだろう。


「ぐぅう……」

「あくまで、狙いは私たちか……」


 ついに村人から解放されたレバニルは、焦点の合わない目で私たちを睨み付けてくる。睨んでいる、という表現が正しいのかはわからないけど。

 村人たちも、災難だな……初めから狙いが私たちだとわかってれば、ああも苦労して押し止め、その上で数を減らすことなんてなかったのに。

 ……ま、向こうで勝手にやったことだ。私には関係ないどころか、好都合。それに……


「あんな奴、今さら敵じゃない」


 まるでゾンビみたいに、呻きこっちへ向かってくるレバニルに対し、ユーデリアは冷気を放つ。その冷気はレバニルの足を地面と同化させ、凍りつかせる。

 それにより、レバニルは簡単に動けなくなってしまい……


「う、あぁ……」


 無理に歩こうとして、体勢を崩し……倒れてしまう。なおも這ってまで動こうとするが、足と地面が凍っていては当然、その場から少しも移動できはしない。

 哀れなものだ。同情の余地はないが……せめてもの情けとして、早々にとどめをさしてやろう。


「……ん?」


 そう思い、足を一歩前に出したとき……妙な違和感を、感じた。なにか、大切なことを忘れているような気がする。

 今なお、レバニルの手に握られている『呪剣』。『呪剣』に関してなにか、大切なことを忘れている。なんだっけ……


「っ、危ない!」


 その違和感の正体に気づいたのと、変化が形になって表れたのは同時だった。レバニルの手に握られていた『呪剣』が、彼の手元を離れひとりでに飛んでくる。

 それを、私とユーデリアは斬られる直前にかわす。あと一歩遅かったら、あれに斬られていた……!


「そうだった、なんで忘れてたんだ……!」


 『呪剣』の恐ろしさは、斬っただけで発揮されるその力だが……本当に怖いのは、別のところにある。剣であるのに、まるで意志があるかのように動くことだ。

 動くといっても、別に足が生えて歩き回る訳じゃない。空中を、自在に飛ぶのだ。飛ぶことに比べたら、まだ足でも生えて地上だけを走り回ってくれた方がかわいげがある。


「ったく、凍らせれば済むだろ!」


 言って、ユーデリアが冷気を放つ。だが、剣は冷気の届かない場所まで移動したかと思えば……その場で、自身を振るう。するとどうだ、刀身から、飛ぶ斬撃が放たれる。


「はっ?」


 目の前の光景に、目を疑う。だってまさか、使い手のいない剣が勝手に動くどころか、飛ぶ斬撃を放ってくるなんて思いもしない。

 その動き自体は、単調だ。簡単にかわせるが……冷気の届かない場所に移動してから、遠距離攻撃。あれ、ホントに意志があるんじゃないのか。


「う、うぅ……!」


 そこへ、およそ人が出すとは思えないほどの呻き声が聞こえる。まさかまた魔物が……と一瞬頭をよぎったが、どうにも違うようだ。

 その声の主は……レバニルだ。まだ必死に動こうともがいているのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。


「あ、あぁ……っ、いた、いたいぃい……!」

「なに、あれ……」


 うつぶせに倒れたままの、レバニル……その姿を見て、目を疑った。体が…………溶けて、いる?


「いぁあ、あつ、いだいぃいい!」


 体が、溶けている……しかも、その痛みをちゃんと感じているらしい。皮膚がどろっとして剥がれていき、体からは蒸気が上がっている。まるで、なにかに焼かれているかのように。

 やがて、髪も、あちこちの皮膚も、溶けて……顔の形すら、原型がなくなっていく。目玉は地面に落ち、鼻の形は変形し、口は大きく広がっていく。数秒としないうちに、レバニルの全身は溶けて、溶けて、溶けて……

 ……その場に残ったのは、なにかの液体のように溶けて残った、レバニルだったものだけであった。
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