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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
『剣星』の父親
しおりを挟むグラジニ・アルバミア……このおっさんは、今確かにそう名乗った。聞き間違えるはずも、ない。
なんせ、アルバミアとは……私と一緒に魔王討伐の旅を共にした勇者パーティーのメンバー、『剣星』グレゴ・アルバミアの姓であるのだから。
それに、この村がグレゴの故郷であろうことは、すでにわかっている。だから、この村に身内がいたって当然のこと、それほど驚きはしないけど……
「グラジニさん!」
「た、助かった……」
おっさんの出現に、村人は希望に満ちた声を弾ませる。さっきまで、絶望に泣き叫んでいたのに……
つまり、この男がそれだけの実力者ということだろう。魔物を倒してきたのもあるし、なにより……あのグレゴの父親なのだ、多分。だって同じ姓だし、おっさんだし。父親だろう。
エリシアの件を見習うなら……血筋は、バカにできない。あの男が『剣星』の父親であるならば、あの男自身の実力もまた、かなりのもの……
「……ぇ……」
ザクッ……!
「消えろ!」
警戒は、してたはずだ。油断なんかしていなかった。ちゃんと、あの男に目を張っていた。……のに。
まるで一瞬のこと。いつの間にか、ついさっきまで立っていた場所から消え……剣を、振り下ろす。それも、不可視の腕の、生え際を。
鋭い一閃は、黒い腕へと食い込み……切り裂いていく。まるでナイフでニンジンでも切るかのように、ザクッと。それにより、斬れてしまった黒い腕は……黒い霧のようになって、消えていく。
「これさえ、消えれば……」
村人を襲っていたのは、この腕だ。だから、村人を助けるためにはまず、この腕をなんとかする必要がある。それはわかる……のだが。それを、実行するだなんて。
いや、実行云々よりも……なんで、この不可視の腕が見える?
今までこの腕を認識することができたのは、私を除けばエルドリエ・タニャクのみだ。それも、彼女は目が見えていなかったから、呪術の感覚を感じ取っていたのだ。
実際に、腕を見て、対応をしたのは……この男、グラジニ・アルバミアが初めてだ。
「何者だ……?」
グラジニと距離をとりつつ、その正体について考察する。グラジニからは、魔力を感じない……つまり、エルドリエのように魔力とかで呪術を感じ取る、なんてことはできないはずだ。
なら、呪術の嫌な感じを、感じ取っているのか? だとしても、それが実際に見えているのか、に繋がるとは思えない。
「ったく、こんなおっさんくらい!」
男の正体を考察、するまでもなく、ユーデリアは冷気を放つ。そりゃ、呪術の腕が斬られた私だからこそ、グラジニの正体を考察していたわけで、そもそもなにも見えていないユーデリアには考察もなにもない。
さっきグラジニが呪術の腕を斬ったのだって、なにもない空間で剣を振った、くらいにしか見えないだろう。
放たれた冷気は、グラジニを凍らせるために周囲の気温を急激に低下させていく……
「氷狼か……この、程度!」
ズバッ!
迫る冷気に向かって、剣を振るう。刀身からは飛ぶ斬撃が放たれるが、並みの威力では斬撃ごと凍ってしまう。
だが……斬撃は、冷気を"切り裂き"、切り進み、ユーデリアへと迫る。
「な、に!?」
冷気を斬られる……そんな経験、ユーデリアは初めてじゃないだろうか。私もだ。
飛ぶ斬撃をユーデリア自身は避けるが、その着地点を予測し、グラジニは突っ込んでいく。氷狼相手に生身で突っ込むなんて、正気か!?
「ちっ……こ、の!」
ユーデリアは、冷気により額に氷の角を生やせる。それは鉄以上の強度を誇る凶器だ。振るわれるグラジニの剣と、角がぶつかり合う。
ガキン、とまるで金属が打ち合うような音が、辺りに響き渡る。並の剣なら、ユーデリアの角に対抗することすらできず、折れるというのに……拮抗、している。
「ふ、んん!」
「おわっ!?」
それどころか、ユーデリアの角を弾き飛ばした。子供とはいえ、氷狼であるユーデリアの力は、人間の大人でも敵わないほどに強い。それを、あっさりと……!
体勢を崩すユーデリア。その隙を狙い、グラジニは剣を振り上げる。あれは……まずい!
「させない!」
私はその場で踏み込み、ロケットスタートの要領でグラジニへ突撃。拳を構える。
たとえユーデリアが冷気により身を守っても、冷気ごと斬るあの斬撃の前では無意味。ならば、ユーデリアの身を守るためにはグラジニの気を散らすしかない。
拳を、ロケットスタートの勢いを載せ、打つ!
「せい!」
ガッ……ギン!
「っ……!」
打ち出した拳は、グラジニに止められた……腰に差していた、"もう一本の"剣によって。細身の剣が、私の拳を打ち止めている。
グレゴが使っていた、グレニアのような大剣でもない、細身の剣。その辺にあるような、それこそ周囲の地面に刺さっているようななんの変哲もない剣に、止められるなんて……!
「こいつ……!」
冷気を斬る芸当といい、私の拳を受け止めるといい……できる! しかも、どうやら二刀流であるらしい。意外と、今まで会わなかったタイプだ。
それに……片手なのに、力が強い。まったく、押しきれない!
「ふん!」
「わっ、と」
ついに押し返され、後方に飛ぶ。その間にユーデリアも距離をとり、体勢を立て直す。
二刀流の剣士、『剣星』グレゴ・アルバミアの父親か……なんていうか、やりにくいな……!
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