異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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世界への反逆者 ~精霊との対峙~

世界の理に反すること

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 グレゴの故郷であったガルバ村……そこを経ってから、しばらくの時間が経った。

 その間も、小さい町から大きな村まで、目につくものは片っ端から潰していった。正直、手応えのないものばかりだった。

 まあ、魔王を倒して平和になったとはいえ……それまでに、魔物たちに蹂躙され、場所や人をめちゃくちゃにされているのだから……いきなり訪れた脅威わたしたちに為す術がないのは、当然と言える。

 むしろ、ガルバ村やラーゴ村のように、あんな苦労をさせられる方が異常なのだ。あんなのは、そうそうあってほしくはない。


「さあ、水をお飲み」

「ぶるるぃいん!」


 旅の最中も、適度な休憩は欠かさない。私はコアに乗っているから、お尻が痛くなる以外はたいして疲れない……よってこれは、コアのための休憩というのが大きい。

 ひとえに休憩と言っても、ぶっちゃけて言うなら、回復魔法さえ使えばダメージだけでなく、疲労も回復させることができる。つまり、回復魔法さえ使えばほぼ永遠と、疲れを回復しながら走り続けることができる。

 できるが……それはそら、これはこれだ。いくら疲れを回復できると言っても、だから走り続けさせることなんて、できない。自分のことならまだしも、この子のことを考えるとそんなひどいことはできない。

 それに私だって、経験したからこそわかる。魔王討伐の旅で、エリシアの魔法を使ってもらえばどれだけ疲れていても、あっという間に回復した。だけど、それじゃダメだ。

 いくら体の疲労を回復しても、疲れた心まで、回復するわけじゃない。これまで歩いてきた道のりはしっかりと心に刻まれ、頭で考えてしまう。休みたい、もう動きたくないと。

 だから、そうなってしまわないために……そう思わないために、こうして休憩を挟むことは、なによりも大切なのだ。


「あーむっ。むぐむぐ……」


 休憩中、パンを頬張るユーデリア。その右手に持っているパンは、フランスパン……のように長く、ちょっと固そうだ。でも、食べごたえはありそう。

 口に含んだそれを、右手に持つ紙コップに注いだ飲み物で喉の奥へと流し込んでいく。それはまるでコーラのような味で、ぷしゅっとした炭酸の独特な感じが、懐かしさを思わせる。


「ん……なんだよ、やらねーぞ」


 じっと食べる様子を見ていたためか、ユーデリアは若干警戒したようににらんでくる。私は人の食べているものに手を出すほど、食いしん坊じゃない。


「取らないよ。子供なんだからそんなこと気にせずしっかり食べなさいっての」

「……子供じゃねぇ」


 ムッとした様子で、それでもパンを頬張るユーデリアの姿に……つい、あこの姿を重ねてしまう。いや、年齢はともかくとしても、性別は全然違うんだけどさ。

 ただ、あこも……生きてたら、こうやって少し反抗期っぽくなって、小生意気な口聞いたりして、それでもやっぱりかわいくて……なんて、もうどうしようもないことを考えてしまう。

 そして、家族のことを思い出す度に……この世界に対する憎しみを、思い出す。

 憎しみというのは、抱き続けるのは難しいことだと、私は思う。人間っていうのは、誰にどんな感情を抱いていたとしても、時間の経過と共にそれらを忘れてしまう生き物だからだ。

 時間が解決してくれる……とは、よく言ったものだ。よほどの理由がない限り、人は誰かを、なにかを憎しみ続けることはできない。

 ……そして私の場合は、よほどのこと……というわけだ。こうして、少しの感傷に浸るだけで、あの頃感じていた憎しみがしっかりとよみがえってくる。


「ごめんごめん、拗ねないでよ」


 年齢的には私よりも子供だが、その人生は壮絶なものだ。目の前で家族を、友達を、隣人を殺され、自身は奴隷にされたのだ。

 私はユーデリアの過去の、一部始終を見ている。見ているだけでも、吐き気がするものだった……が、今よりも幼く、当事者であるユーデリアの心情は計り知れない。

 でも、大切なものを失った気持ちは、私と同じだ……


「……ねぇ、死んだ人が生き返ってくれたら、思ったことない?」

「……は?」

「いや、なんでもない。忘れて」


 気づけば私は、そんなことを口走っていた。自分でもまったく意識しないうちに……

 自分でも、バカなことを言ったなと思う。そんなの、思わない人なんて、いるわけないのに。


「そりゃ、思わないわけじゃないが……まさかアン、禁術にでも手を染めるつもりか?」

「……なんて?」


 素直なユーデリアの答え。その中に、なにやら聞きなれない言葉が、あった。


「きん……?」

「なんだ、知らないのか。禁術……死んだ人を生き返らせるとか、この世のことわりに逆らうようなことは、禁術って呼ばれるんだ。ま、聞いた話だけどな」


 禁術、か……呪術に続いて、また変な単語が出てきたな。ま、ユーデリアの説明にもある通り、字の通りだろう。

 禁じられた、術……人を生き返らせるなんて、どんな大魔法を使っても成功するはずのないだろう行為。いや、それを試すことすら、ユーデリアの言う、世界の理ってやつに反するのだろう。

 そういうものを、禁術と呼ぶのか。そういうもの、ってことは、他にもあるんだろうな。人を生き返らせるみたいな、非現実的且つ、世界の理に反する行為は総じて、禁術なのだろう。


「ちなみに、禁術ってやつを使ったら、どうなるの? てか、成功するの?」

「知らねえよ、聞いた話なんだから。この世界には、そういう危ないのもあるから、変なこと考えちゃダメだって、言われただけだ」


 禁術の存在は知ってても、禁術を使ったらどうなるかは知らない、か。まあ禁術って言うくらいだし、やろうと思ってできるようなものじゃないんだろうけど。その代償も、想像できるようなものじゃないのかも。

 ……禁術……か。
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