異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
256 / 522
英雄狙う暗殺者の罠

追い詰められる元『英雄』

しおりを挟む


 重い、重すぎる一撃は止まることはなく、貫かれる。このまま、勢いのままに腕ごと持っていかれるんじゃないかと思えるほどに、その一撃は強烈だ。

 これが、両手で防ぐことができていたなら、また結果は違っていたかもしれない。だけど、残念ながら今の私には片手しかないし、呪術による腕も出てこない。

 片手で防ぐだけでは、防ぎきるには至らず押されるのみ……いや、むしろそれでよかったのかもしれない。その場で攻撃を受け止め、踏ん張ることができていたとしたら……グレゴたちに、総攻撃を受けていただろう。

 片手しかないのに、その片手を封じられてその場から動けなくなってしまえば、それは袋叩きのいいカモだ。


「とは、いえぇ……!」


 このまま地面を抉りながら、後退し続けるわけには……だから、受け止めた状態の手のひらに残る魔力を溜めていく。身体強化しているから、反撃に使えるのは少しだけだけど……

 これなら、反撃しても避けられまい!


「えいや!」

「ぬぅ!?」


 魔力の塊を放ち、拳を打ち付けていた師匠を引き離す。その際、手から放った魔力はその場で爆発。本来手から放たれるはずのそれは、師匠の拳で蓋をされていた形になっていたのだ。

 だから、魔力を放ってもその場で爆発してしまう。師匠を引き離すことには成功しても、私にも反動がくる。


「っく……」


 ただ、これで一応は引き離すことに成功した。またどうせすぐに、攻撃が始まるだろうけど。

 そうなる前にこちらから仕掛け……たいところだけど、他のメンバーともずいぶん引き離されてしまった。この位置じゃ、私が距離を詰めるよりも先に、エリシアの魔法やサシェの矢が飛んでくる方が早いだろう。

 しかも、離れている分攻撃を察知しにくい。どこからどんな形で狙ってくるか……


「……っ!?」


 しかし、その瞬間体に異変が起きた……体が、突然動かなくなったのだ。なんの前触れもなく、いきなりだ。

 これは……かすかに、エリシアの魔力を感じる。金縛りのような、動きを封じる魔法だろう。確かマルゴニア王国で再会したときも、そんな魔法を使っていた……


「ぐっ……油断した……!」


 いつどこから攻撃がくるかの注意をしていたからか……これは、予想外だった。攻撃どころか、動きを止めるためのものだなんて。

 あのときは、力ずくで拘束を解いた。今だって、同じことはできるだろう。ただ、そうしてもがいている間に、向こうの一斉攻撃をくらいかねない。

 私の使える魔力で拘束を解ければいいが、残念なことにエリシアの半分の力しか出せないこれでは無理だろう。

 くそっ、エリシア……以前は、自分の視界に入った相手しか拘束できなかったはず。今は、あんなに遠くにいるのに……幻覚のエリシアだから目がすごくいいのか、さっきのボルゴみたいに私の知らない技を使っているのか……

 どちらにせよ、エリシアの魔力を動きを止められたという現実は変わらない。


「ぐぬぬ、くぅの……! ……っ、うぉ!」


 この際力任せでも、構わない。拘束を解くためにもがく……が、拘束の力は強力だ。いくら私でも、少しもがいたくらいじゃ抜け出せない。

 そこへ、なにかが飛んでくる。そのなにかはギラリと光り、サシェの放った矢であろうことは想像するのに難しくはなかった。それは額に一直線……寸前に、腰を後ろに曲げる形で、矢の軌道上から額を外し回避。

 動けないとはいっても、まだかすかに……それこそほんの少しだけど、動けはする。おかげでなんとか、かわすことはできたものの……


「あーあ、また外しちゃった。残念。でも、いつまで続くかな」


 見えないはずの、サシェの声が響く。サシェの声は無邪気な子供のようだが、それがここにきてこんなに恐怖を煽るものに変化するとは思わなかった。

 その言葉が止んだ直後、一本、また一本と放たれる。動くことはできない……が、魔力は使える。正面に、透明なバリアを張るイメージで、魔力を展開。矢を、弾き落としていく。

 これだけで、防げればいいんだけど……


「ぐっ、ぅう……!」


 左腕に、痛みが走る。サシェの矢が、正面のバリアをかいくぐってきたのだ……それが、左腕に突き刺さった。

 さっきのボルゴみたいに、全身にバリアを張るなんてことはできない。そんな精密なやり方はよほどの集中力がないと無理だし、この状態ならなおさらだ。

 曲がるサシェの矢は、なんの障害もなく私の左腕に……!


「いっ、たぁ……!」


 刺さったままのそれは、本来もう片方の腕を使って抜けばいいんだろうけど……抜くためのもう片方の腕が、ない。矢が抜けなければ、当然刺さったままな訳で。

 魔法を使えば抜けるけど、そっちに気を回す余裕もないし。今はとにかく、この金縛りから解放されることが大事……!


「……っ、な、に……?」


 もがいてもがいて、金縛りを力ずくに解くことに成功……すぐに、少し移動しなければいけないところへ、体に異変を感じる。その場に、膝をついてしまう。

 なんだ、急に……体が、痺れる……? これは……


「ふふーん、痺れ矢。さすがのアンズでも、効いたみたいだね」


 原因は……この左腕に突き刺さった、矢のせいか! この矢の先端に、痺れ薬でも塗ってあるのか元々そういう効果があるのかわからないけど……

 とにかく、この矢のせいで、体が痺れて動けなくなっている……のか。


「うっ……ちょ、待った待った待ったぁ!」


 エリシアの金縛りに、サシェの痺れ矢……それにより私の動きが大きく制限されてしまい、その間にグレゴと師匠の体勢も整っていくわけで。

 二人が、迫ってくる。正面に展開した、魔力の盾に……グレゴの大剣と、師匠の拳が、衝突する。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...