263 / 522
英雄狙う暗殺者の罠
五人の戦士
しおりを挟む「っ、おらぁああ!」
「うおっ」
ガンッ、ガンッ!
何度も何度も、守りの力をぶん殴っていく。壊れこそしないが、衝撃を与えることは可能だ。まあ、ダメージがいくまではないだろうが。
それでも、これを続けていれば……
「ボルゴから、離れて!」
……さすがに、続けさせてはくれないか。サシェがボルゴから私を引き離すために、矢を放つ。素直にそれを受けるわけにもいかないので、飛び退く。
サシェの矢は、普通の矢、追尾してくる矢、それに痺れ矢……もしかしたら他にもあるかもしれないが、わかっているだけでもこれだけの手段を使ってくる。
ボルゴを助けるサシェ……か。この二人って、記憶の中のどの段階の二人なんだろ? ボルゴから告白して、付き合ったあとの二人なんだろうか。
……ま、そんなことどうでもいいか。それに、助けたのだって恋人だからじゃなく、単に仲間思いってだけかもしれないし。まあ仲間思いなのは、サシェに限った話ではないけど。
「……ふん!」
ふと、背後に気配を感じ……裏拳の要領で、拳を背後へと打ち出す。そこにいた師匠に、腕でガードされてしまうが……
「よく、気づいたな……」
「気づかないほうが、無理でしょ……!」
気配を殺していた。師匠レベルなら、それくらいのことは簡単にできる。だけど、私だっては相手の気配を感じとることはできるんだ。簡単に背後は、取らせない。
それに、師匠ほどの巨体が音もさせずになんてのは、ちょっと無理に近い。私にだって、それなりの危機察知能力はある。
「ぐ、ぬぬ……!」
私の裏拳を腕で防いでいる師匠の顔が、歪む。丸太のように太い腕だが、どうやら効いている……!
それに、メキメキ……と、普段なら聞こえてはならないような音が、聞こえている。骨が何本か、逝っているということか!?
「好きにはさせないぞアンズ!」
「……」
続いて、この場に向かってくるはグレゴ。しかし、グレゴには今得物となる剣がない……丸腰の状態だ。
グレゴは、剣士。とはいえ剣がなければなにもできないというわけではなく、素手でもかなり強く戦える。素手で魔物だってぶっ飛ばしたことがある。
並の相手ならば、素手でも苦戦することなく勝つことができるだろう。……並の相手なら。
「なっ……ぐっ!」
師匠に拳を打ったまま、地面を蹴り……その勢いでグレゴの顔面めがけ、蹴りあげる。それがもろに直撃することはなかったが、ガードしたグレゴの腕に確かな手応えがあった。
裏拳を踏ん張る師匠とは違い、蹴り飛ばされてしまったグレゴは地面に転がる。剣を持たない『剣星』は、もはや私の敵ではない。
「ぁああぁ!」
「ぐふっ……!」
続けて、グレゴを蹴り飛ばしたその足で師匠の腹部に、膝を打ち込む。裏拳のガードに集中していた師匠は、予想外のところからの打撃に苦悶の表情。
その一瞬、緩んだ力……そこに力を込め、思い切り腕を振り抜く。裏拳は師匠のガードを突き抜け、本人を吹っ飛ばしていく。
「っ、ふぅ……」
「アンズぅううう!」
ぞわっ……
背筋を撫でられるような、感覚。それは、エリシアの魔力によるもの……エリシアの魔力を、こんなに強大に感じられるなんて。これが、魔力を持ったことによる影響か。
以前は、なんかでっかい力使ってるな、くらいにしか思ってなかったし。
「さすがエリシア……この魔力じゃ全然足んないよ」
「いっ、けぇ!」
エリシアは自身の魔力を手のひらへと集中させ、それを凝縮していく。まるで、強大な力を圧縮しているかのようだ。
見た目は手のひらに収まるほどのそれを、放つ。それは、見た目とは正反対のかわいらしくない、強大な力を持っていることはわかる。あれは、私の使う魔力じゃ防げない。
ならば……
「せぇえええい!」
向かってくるそれに、拳を打ち込む。触れたら爆発するタイプだったらどうしようと思ったが、どのみちこうする以外に防ぐ方法はないんだ。逃げようにもさっき思い切り走ったせいか、足が限界に近い。
拳が衝突したそれは、爆発することはなかった。それは、元々爆発するようなものじゃなかったのか、それともこの黒くなった左手に触れた影響かはわからないけど……
エリシアの表情を見るに、触れたら爆発する……爆弾のようなものだったのだろう。危なかった……なんの策もなしに触れていたら、爆発していた。
まあ策、というか本能的に拳を打ち出しただけというか……なぜだろう、直感のようなものがあった。このまま殴っても問題はないと。
「うぅ、らぁああ!」
そのまま、拳を思い切り振り抜く。そう、今拳に衝突している爆発を、エリシアのところへ弾き返すように……
ヒュッ……!
「えぇえええ!?」
そんな思いはあったが、ただがむしゃらに、拳を振り抜いた。直後、聞こえるエリシアの慌てたような声……その声に視線を向けると、驚くことに本当に、爆弾を弾き返していた。
それは、爆弾を放ったエリシアのところへと、跳ね返っていく。驚愕が大きいためか、魔力による防御は見られない。
「あっ……」
それは、誰の声だったか……それが聞こえた瞬間、エリシアへと跳ね返った爆弾は、大きな音をたてて、爆発した。
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる