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予期せぬ再会
アコ
しおりを挟む「あのー、こっちも注文いいですかー」
「はーい! ごめんアコちゃん、お願いできる?」
「わかりました!」
……そのやり取りは、言葉は、いや名前は……私にとって、衝撃だった。
いや、そんな名前、珍しくもない名前だ。元の世界ではもちろん、異世界であるこの世界でだって、多分珍しくないはずだ。
グレゴやターベルト、ユーデリアなんて特徴的な名前が多いこの世界。特徴的な名前が多いからこそ、逆に私の思う普通の名前ってやつに会うことはあまりない。あまりないけど……この世界にも、その名前は存在しているはずだ。
アコ、なんて……この世界でも、どこでもある名前のはずだ。
「……」
そう、どこでもある名前。ダメだ、そんな名前にいちいち反応していては……
ダメ……なのに。アコ、という名前は、嫌でも妹のことを思い出させる。
熊谷 あこ、私の妹。私より二つ年下の、かわいい妹だ。私が異世界、つまりこの世界に召喚されている間に、事故に遭って亡くなってしまった。最後に見た妹の顔は、仏壇の写真に映ったもの。
ダメダメ、なにを思い出してるんだ私は。アコって名前に過敏になりすぎだ。それとも、昨夜あの夢を見てしまったから、余計に思い出したのか……?
「お待たせしましたー!」
アコと呼ばれたお面の店員は、料理をせっせと運んでいる。彼女がアコで、間違いないようだ。
多分背も同じくらい、体格だって……さっき後ろ姿があこに重なったのも、彼女がアコって名前だからかもしれない。いや、名前が判明したのはその後のことだし、無意識に妹と似た体型の子を目で追ってたのかな?
はは、気持ち悪いな私。
「……?」
正面にいるユーデリアは、私のことを不思議そうに見つめて首をかしげている。だって、さっきからうつむいたり、顔を手で覆ったり、自分でも不審なことをしているんだもん。
それでも、どうかしたのか、なんて聞いてこないのは……疑問よりも、食欲の方が勝っているからだろう。ま、私たちは別に仲間ってわけじゃないし……気になったことなんでもかんでも聞くより、目の前の料理に夢中ってわけだ。
私だって別に、聞かれてもどう答えればいいかわからないから、別にいいんだけど。まさか死んでしまった妹のことを思い出したなんて、言えない。
……ユーデリアにも、妹がいる。実際に会ったことはないが、氷狼の村に行った際、エリシアの左目に映し出された過去の映像で見たものだ。ユーデリア本人やその家族、村の人間が、どのようにして滅んだのか……その一部始終を見た。
そういえばあれ以来この目はあれと同じ現象を起こさないな。エリシアの半分の魔力を宿している、以外で過去を映すなんて、そんなことは起こっていない。
「あむっ」
……別にあんなの、なくてもいいんだけどね。そんなことを思いながら、料理を口に運んでいく。
手は動かす、口も動かす……目は、自然とお面の店員を追っている。軽やかにまるで踊っているかのように動いている。きっと、この仕事をして長いんだろう。
アコと呼ばれていた……けど、きっと性格はあことは正反対だ。人見知りで、私にべったりだったあの子は、こうして接客なんてできやしないだろう。
「アコちゃーん」
「あ、また来てくれたんですね!」
「そりゃもー」
「相変わらずかわいいねぇー」
「やだもう、お上手なんですから」
中には、親しげに話しかける客もいる。そのやり取りから、常連なのだろう。あれは、この店の料理よりも、あの店員目当てで来ているのだろう。
あんなお面をしているのに、人徳があるというか、結構慕われているらしい。それは顔なんか見なくても、彼女の人柄がそうさせるのだろう。
というか、ここ料理の店だよな……やり取りがもう、そういう店っぽいんだけど。
「……あむ」
……名前が同じで、体型が似てるだけだ。中身は全然違う。妹の影を見るなんて……長旅や、昨夜の夢の影響で余計にそう見えてしまったいるのだろう。
「しっかしアコちゃん、なんでいつもお面なんてしてるんだい? 顔もかわいいんだろうに」
「もー、セクハラですよ。このお面は……顔にできものができちゃって、それを隠すためです」
「なんでぇ、いいじゃねぇかそれくらい」
「よくありません。接客業だし、女の子にとっては大問題なんですからね」
……楽しげに話している客と、応対する店員アコの会話。離れていても聞こえてくる。なるほどできものね……
そういや私も、元の世界にいたころにできものができたとき、それを見せたくなくて絆創膏で隠したりしたこともあったっけ。学校で友達にからかわれるのも嫌だったし。男子に見せたくなかったし。
同じ女の子としては、その気持ちはよくわかる。ま、今の私はできものどころか身体中はボロボロ、この右腕も左目も自分のものじゃないという有り様だ。もしもお母さんが、お父さんが、あこが……今の私を見たら、どう思うか。きっと私だとは、わからないだろうな。
「……おいし」
柄にもなく感傷に浸ってしまったな。ユーデリアはもう半分以上ご飯を食べてるし、急がないと私の分まで食べてしまいそうだ。
食べるの、再開といきますか。
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