異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
421 / 522
英雄vs氷狼vs……

新たなる乱入者

しおりを挟む


 迫ってくる、鉄の塊のようになったガニム。真っ向からぶつかり合うのはいろいろと不利だ、それに冷気も炎も通用しない。どこか、攻撃の穴となる場所が見つかればいいんだけど……


「ちっ、逃げ続けられると思うな!」

「!」


 その瞬間、足がなにかに掴まった……いや、固まったように動かなくなる。ユーデリアが私を置いて、冷気で足元を固めた……わけではない。これはさっき、ガニムに袋叩きにされていたときの、あれと同じだ。

 証拠に、ユーデリアもその場から動けなくなっている。いつもは動きを封じる側にいる奴が、動きを封じられる側に回るとは……って、言ってる場合じゃないな。

 ガニムとは、付かず離れずの距離を保っていたんだ。少しでもこっちの動きが止まってしまえば、それはつまり短時間でのガニムの接近を許してしまうということで……


「く、そ!」


 パチンッ、と指を鳴らして炎を放つが、やはりガニムには効果がない。まずいまずいまずい……ただでさえ袋叩きされてあと一撃で危ないって段階だったのに、このままくらってしまっては……

 ガニムとユーデリアがやりあってるときに、少しは回復したけど……それも、本当に少しだ。それに、今のガニムはなんか巨大化してるし、あんなん全快してる状態でもまともに受けたらやばいのに……


「覚悟、『英雄』!」

「!」


 動けないなら、せめてもの足掻きとして魔力の盾を展開。脚力に持っていっていたものを、今度は盾にすべてだ。これでも、あの拳を防ぎきれる自信はない。

 それでも、諦めてそれをもろに受けることだけはしたくない……!


「し……」

「とぁー!」

「ぶ!」


 ……殴られる覚悟をしていた。魔力の盾を破られても、それでももろにはくらわないように、腕でガードをして。心もとない守りで、それでも命を繋ごうとしていた。でも、その覚悟は無駄になった。

 なぜなら、そこにいたはずのガニムがいなくなっていたから。いや、いなくなったというより……横からの飛び蹴りにより、強制的に視界から排除された。

 横からの飛び蹴り……それは、見間違いではない。それは、私のものでもなければユーデリアのものでもない。当然ガニム本人でもない。それはつまり、この場に第四の人物が現れたということに他ならないわけで……


「っと」

「あっ……」


 着地したその人物の横顔に、思わず名前を呼びそうになってしまう。とっさに口を押さえられたのは、自分でも自分を誉めてやりたい。

 そこにいたのは……ここに来られる前にこの場のケリをつけたかった、この場で起きているゴタゴタに気づかれたくなかった人物。

 ……あこだ。


「なんですかあのでかいの……っと、大丈夫ですか?」


 と、ガニムを吹き飛ばした彼女が、こちらに振り返る。まずい、この顔を見られるわけには……


「えぇ、問題ないよ」

「……本当に?」


 ぼろぼろになってしまったフードを、手早く集めてそれを顔に巻いていく。まるでミイラのように。

 今の私は、目元だけ残してあとはフードを包帯代わりにしてぐるぐると顔を覆い隠している。これなら、顔を見られてもバレることはない。


「ところで、なんでここに?」

「……ええと」


 とりあえず、顔を隠していることを追求される前に、さっさと話題転換といこう。それは、あこがここに現れた理由だ。

 実際は、その理由はわかっている。この場所での戦いは、結界を作ることで外にはその気配を感じられないようにした。だけど、その結界はガニムの手により破られてしまった。

 完全に消滅しつつある結界は、この場所で起こっている激しい戦いの余波を外へと知らせた。それを感じ取ったあこが、ここへ来た……と。本当なら、あこに気づかれる前に終わらせたかったけど。


「いきなりここで、大きな力がぶつかっているのに気づいたから……来てみたら、あのでかいのにお二人が襲われていたので、つい。……さっきのお客さん、ですよね?」


 いきなり、というのは、結界が消滅したことで感じたのだろう。それで、魔獣と戦った後なのに飛んで来たと。

 どういう状況か、わかってはいない。それでも、あのでかいの……ガニムに襲われている私たちを、助けたと。


「え、あぁ……うん」


 あ、そっか。私はミイラ状態、ユーデリアは獣状態だから、パッと見誰だかわからないのか。でも、さっき話していたのと同一人物だと、当たりをつけている。

 違うと言う理由もないので、肯定するが……察しが、いいな。ますます私の正体に気づかれないように、気を付けないと……


「ところで……あのでかいの、えいゆうとかって言ってませんでした?」

「!」


 き、聞かれてたのか……気を付けないとと思った矢先にこれだ。私が『英雄』であることがバレたら、イコール私が杏だってバレる。『英雄』の名前なんて、もはや世界中に広がっている。

 なので……


「あ、いやー……気のせいじゃないかな? ほら、私の名前エイユって言うんだよ! だから……」


 我ながら苦しい言い訳だと思うが、仕方ない。なんとかごまかされて……


「あぁ、そうなんですか。私勘違いしちゃってたみたいです」


 セーフ! あこがある意味純粋で助かった。

 とりあえず彼女の前では、下手に名前を呼ばせることもしないほうが……


「っと……話し込んでる余裕は、なさそうですね」


 ビリビリと、肌を刺すような気配……いや殺気。その正体は、先ほどあこが吹き飛ばしたガニムから放たれるもの。起き上がり、こちらに凄まじい殺気を放っている。


「やって、くれたな……誰だか知らんが、邪魔をするな!」

「そういうわけにはいかない! なんだかわからないけど、こんな暴力行為、見過ごせない!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...