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英雄vs氷狼vs……
命のやり取り
しおりを挟む「せいや!」
でかい的には、考えなくてもこちらの攻撃がよく当たる。だけど、そこにダメージが通らなければ意味がない。手応えがないならともかく、手応えを感じてこれとはなんとも……悔しい感じだ。
これまで、雑魚魔物程度なら拳一発で倒すことができた。だけど、拳一発どころかなにも攻撃が効かないとは。
……そういえば、魔族と戦ったことってあまりないな。四天王や魔王とは当然戦ったけど、かつての仲間と一緒だったし……こうして、一人で向かうのはまずなかったな。
それを差し引いても、ガニムが圧倒的に強いのは間違いないんだけど……
「いい加減、倒れて、よ!」
持久戦になると、不利になるだけだ。体力も魔力も消耗し、弱りきったところを仕留められる。そうなってしまうのは、一番まずい。
そうなる前に、手早く倒してしまいたい。ガニムの固さは、巨大化に直結しているものだと思われる。だから、巨大化の時間切れを待てば勝機が生まれると思ったのだが……
「そもそも時間切れ、あるのかな」
明らかなパワーアップというのは、時間制限付きが主流だ。なので、ガニムのそれもいずれ終わる……と思っていたのだが。
あれが明らかなパワーアップであることは間違いないが、こっちの勝手な期待を勝機に結びつけるわけにもいかないか。
これまでにでかい魔獣となんかは戦ったことがある。でも、これほどまでにでかい、知能を携えた魔族というのは初めてだ。知能のあるなしで、やはり厄介さはけた違いだ。
「俺を目の前によそ見とは、ずいぶん余裕じゃないか!」
そう吠えるのは、もはや私を見下ろすほどに巨大化したガニム。彼を前に余裕なんて、あるはずもない。こうして考え事をするのだって、一か八かの状態だ。
少しでも意識をそらせば、やられる……そう思えるほどの圧迫感。命のやり取りがひしひしと肌に、心臓に伝わってくる。この感覚が、妙に懐かしい。
「よそ見ついでに、あんたの背後に誰がいるのか、教えてくれたりしない?」
「戯言を!」
やはり、ダメか。振り下ろされる拳が、返事だ。それを受けとめることはせず、回避に専念する。拳一発で地面にクレーターを空けるこれほどの破壊力は、もはや災害だ。ともなれば、国の警備隊だけでなく本隊が来てもおかしくはないが……
その様子は、まだない。あこと警備隊がいることで充分だと、判断して先ほどの戦場の後片付けでもしているのか……
まあ、あの程度増えたところで、ガニム相手になにができるわけでもない。国を守る隊なだけあって相当強いみたいだが、それでも今のガニムには及ばない。
「いつまでも避けていられると思うな、このまま踏み潰して……ぬ?」
今のガニムは歩くだけでも周囲に被害をもたらす。そのまま私を踏み潰そうとするが……その足元が、凍りついている。
ユーデリアの冷気により、足元と地面が氷により接着される。普通ならそれで動けなくなる……だがやはり今のガニムには通用せず、少し力を加えて足を上げただけで、バキバキと氷は剥がれていく。
「ちっ」
ユーデリアにとっても、自分の冷気がこうも通用しないというのはもしかしたら初めてのことかもしれない。私だって、あの冷気は今のところ呪術の炎を使って打ち払うくらいしかないのに。
ユーデリアの冷気、あこの打撃共に大打撃とはならない。あこは時折魔法も混ぜているが、それでも同じこと。
「ったく、私としては狙われる理由がわかんないっての!」
魔族を滅ぼした復讐、というのなら理解はできる。これまでに私が殺してきた、その報い……それに文句は言わない。
けれど、ガニムは他の魔族のことなどまったく気にもかけていない。むしろ憎んでいる節すらある。魔族であるガニムが、私が殺してきた人間たちのために立ち上がった、というのも考えにくい。
すべては、あの人とやらの邪魔に私がなるから……それだ。それ以上のことはなにもわからない。
「よっ、と!」
繰り出されるガニムの拳を避け、ジャンプし、腕を伝って登っていく。そのままガニムの肩へと、着地。
「あんたの裏にいるのが知らないけど、そこまで私を憎んでるの? 同じ世界の人間なら、仲良くできると思うんだけどなぁ?」
「ふん、無理だな」
ガニムに話しかけるために肩へと登ったのは、会話の内容をあこに聞かせないためだ。こことは別の世界の話など、あの子に聞かせられるはずもない。
それに、もしも"あの人"と同じ世界の人間だから、という理由で私が狙われているのだとしたら……あこも同じ世界の人間だとバレた場合、今はただ邪魔物としてでも本格的に狙われかねない。
「わ、体揺らすな!」
「黙れ、どけ!」
ガニムに激しく体を揺らされ、振り落とされてしまう。その際に、腹部に魔力を込めた拳を二発程度ぶちこんでやったが、やはり手応えはあってもダメージは通っていない。
攻撃がここまで通用しないってのも、このまま続けても無駄だって思わせてくる。いや、実際に無駄なのだろう。
「……」
またあの炎を出せればいいが……拳に宿った炎。ホント呪術ってのは、勝手に私の体を蝕むくせに私の思い通りにはなってくれないらしい。
呪術といえば、ガニムの不思議な力はガニムが巨大化してから発動してないな。こちらの動きを止める、あの力。ま、今の巨体であんなの発動されたらたまったもんじゃないけど……
「ちょいやー!」
「ぶっ!」
見上げると……あこの、見事な膝打ちがガニムの顎に直撃していた。あそこまで、ジャンプしたのか。
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