439 / 522
英雄vs氷狼vs……
詰め戦
しおりを挟む呪術も魔法も通用しない……そんな相手に、どう立ち向かえばいいのか。
……そんなこと、考える必要もない。考えてもみれば、元々私はこの拳で、体術で、戦ってきたんだ。この世界に召喚されて、魔王討伐の旅の道の中で。そのときのことを思い出せ。
剣はグレゴが、魔法はエリシアが、弓はサシェが、防御はボルゴが……そして師匠に教わったこの体術で私が。それぞれが、それぞれの分野でできることをしていた。私が一番得意なのは……
「この、拳だ……!」
魔法で強化も、いらない。この拳を、思い切りぶつけるだけだ。
「……」
相手をよく観察しろ。一見ただ突っ立っているだけのように見えるが、隙がない。だけど、必ずどこかに隙はあるはずだ。
どこか、弱所はないだろうか。ガニムにやったときのように、その者の弱所さえわかれば、そこを突くことで大ダメージを与えることができる。これはエリシアの左目の力だけど、まあこれくらいならばいいだろう。
弱いところを見つけ、そこを殴る。それだけのこと。それだけのことのはずなのに……
「見えないな……」
左目のみを開き、目を凝らして見つめる。だけど、見えるのは右目とも同じもののみであり、弱所を指す光は見えない。少しだけ期待していたが……ちぇっ、使えない。
まあ、これまでケンヤにまともな攻撃を入れられてないから、弱所がわかったとしても攻撃を当てることができなければ意味はないんだけどね。
「なら、ただ殴るのみ……!」
これまで魔物や魔獣、そしてこの世界に戻ってきてから戦ったグレゴやエリシア……それらとの戦いは、純粋に体術のみの戦い方だった。
小細工なんか、一切使わない。単純な力勝負だ! その場で踏み込み、ロケットスタートを切る。その勢いを乗せた拳を、打ち放つ。
パァンッ……と、渇いた音が鳴ったのは全力の拳を受け止められたからだ。この速さで打ち込んでも、見切られるか……しかし、ケンヤの足元を見ると、地面にかなり踏み込んでいる。それどころか、押されてさえいる。
どうやら完全に勢いは殺しきることはできなかったようだ。見えてはいても、その力までは足りなかったということか。
「もう、一発!」
受け止められたのとは逆の手を振りかぶり、打ち込む。それも受け止められてしまうが、やはり後退りしていく。この両手の力を、殺せてはいない。
そのまま、力で押しきっていく。一歩一歩前へと踏み込むと、踏ん張るケンヤが徐々に後ろに下がっていく。相手が男だろうと、私は負けない……!
「おぉ、おお……!」
「ぐっ……」
「おぉお、りゃあ!」
力で押しきり、ケンヤを吹っ飛ばす。吹っ飛ばすといってもよろけた程度ではあるけど、それでも力比べに勝てたのは事実だ。
この隙を、見逃さない……!
「くらえ!」
「くっ……!」
無防備なケンヤの腹部目掛けて、拳を振り下ろす。このまま直撃してくれれば、たとえ魔力で防御しようともそれごとぶち抜いてやる!
腹部へよ直撃はまずいと思ったのか、ケンヤは咄嗟に足を上げて、膝でガード。拳を受け、膝に直撃する。それも一瞬の打ち合い、ケンヤは拳が接触した膝を強引に振り抜き、パンチの軌道をずらした。
その勢いのまま、今度はケンヤからの反撃。バランスを崩していたはずが、膝を振り抜いた足で着地。同時に逆の足を使って、回し蹴りを放ってくる。
バランスを立て直しながらの反撃、しかもその狙いは私の頭部だ。それをもろに受けるわけにはいかず、私は拳を繰り出した方とは逆の手でガード。踵部分を手のひらで受け、吹っ飛ばされないようにその場に踏ん張る。
「吹き、飛べ!」
「くぅ!」
先ほどとは立場が逆転だ。バランスを崩し、なんとか攻撃を受け止めた状態。だけど、攻撃を受け流すことができず、頭部に直撃こそしなかったものの弾き飛ばされてしまう。
地面に転がり、しかし自ら後天していくことで受け身を取るのと、距離を取る。二、三回転した程度で前方……ケンヤがいた場所を見る。距離は、取れたはずだが……
「! いな……」
顔をあげると、そこにケンヤはいなかった。まさか方向を間違えた? いや、そんなはずは……
瞬間、左方向に気配が。そちらに視線を移す……前に、左目を閉じた。そこになにがいるのかわからない、それでも目を閉じたのは防衛本能だ。
なぜなら、それは……
「っ、あ、ぐ……!」
いつの間にか、前方から私の左方向へと移動していたケンヤが、私の左目を狙って足を蹴り上げていたから。咄嗟に目を閉じたとはいえ、直撃し突かれるような痛みが、走る……!
「うぅ、あ!」
「よっ」
左目を中心に、蹴り上げられた私の体はボールのように転がっていく。その際、ケンヤの追撃を防ぐために地面に転がっている小石を拾い上げ、ケンヤへと投げ放つ。
それをケンヤは飛び退いて回避し、なんとか距離を取ることには成功する。が、足が閉じたまぶたに直撃した痛みが、ズキズキと襲ってくる。それに、今のやり取りで切れてしまったのか、額から血が流れ……左目の上を、流れていく。
く、そ……呪術も魔法も、通用しない。。それだけでなく、体術でも、徐々に差を詰められていっている……!
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる