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英雄vs氷狼vs……
氷と炎の衝突
しおりを挟む「うりゃああああ!」
凍った地面を、突き進む。凍った地面なんて、まるでスケートリンクみたいだけど、私が進めているのはスケートのように地面を滑っているから……ではない。進む度、足元の氷が溶けていくからだ。
今私は、"魔力解放"により身体中の魔力を、一時的に飛躍的に上昇させている。上昇……とはいっても、これが本来の私の持つ魔力らしく、普段はそれを抑えつけている状態、らしい。
この世界に召喚される際、自称女神の光る人に言われたことに、そんなことが含まれていた気がする。大きすぎる魔力は、普通に生活するには不便だから、抑えつけておく必要がある。だから、普段は本来の魔力よりも抑えた状態だ。
ま、高い魔力を持つ人は、ほとんどそうやって魔力を抑えてるらしいけど……あまり魔力が高すぎると、人によっては暴走したり、魔力が漏れだして疲れやすくなってしまうらしい。
私の使った、というか名付けた"魔力解放"は、文字通り抑えつけていた魔力をすべて解放したもの。その際、魔力が暴走はしないようになっている。ただし、これをやると当然、魔力の減りはぐんと早くなり……短時間で、魔力が尽きる。
おまけに、あのケンヤとかいう男に、魔力を吸いとられてしまった。だから、これは本来使える魔力の量よりは少ないし、魔力切れになる危険性も早まった。
それでも……
「ガルルルァ!」
この相手に、手加減をして勝てるとは思えない。見た目は狼のような獣だけど、魔獣ではない……と思う。あの嫌な気配を感じないし、今までこの国を襲ってきたどのタイプとも違う。
さっきこの国を襲ってきた魔獣ほど大きくはない。けど、全身が氷の鎧のようなもので固められていて、体から冷気まで出している。あんな生き物、見たことがない。
すごい生き物だ。さっきまで戦っていた、あの大きな魔物まで氷付けにしてしまうなんて。でも……
「みんなを、元に、戻せぇ!」
あの魔物と同じように、この国の警備隊のみんなまで凍ってしまっている。多分、死んではいないはずだ……凍っているだけならば。
でも、そのままにしておいていいはずがない。凍死してしまう可能性だってあるんだ、あのまま氷付けにしておいて、いいはずがない。
「しつこいなっ」
氷の鎧を纏った狼に対して、私は"魔力解放"をして炎を纏っている。炎のように燃え上がる魔力、とかではなく、正真正銘の炎だ。
狼の冷気は、私の炎で打ち消せる。逆に、私の炎も狼の冷気で打ち消されるんだけど……この力ならば、凍ったみんなを元に戻せるかもしれない。
けれど、それは可能性の話。氷を炎で溶かそうとして、万が一にも割れてしまわないとも限らない。もし割れちゃったら、本当に死んじゃうことになる。
すでに"時間巻戻"は使い、一日一回の制限は使ってしまった。時間を巻き戻し、死者さえも死んでいなかったことにできる力……それはもう使えない。だからこそ、誰も死なせないようにしたい。
「はぁ!」
「ガゥルル!」
炎を纏ったパンチは、放たれる冷気で相殺される。このユーデリアと呼ばれていた狼を掴まえ、みんなを元に戻す方法を聞き出す……凍らせた本人ならば、それを安全に溶かす方法も知っているはずだ。
「無駄だよ、その炎は強力だけど、ボクの冷気を圧倒的に上回るほどじゃない」
……その通りだ。氷を溶かすことはできても、それは一時的なもの。氷と炎、相性だけ見ると炎が断然有利だけど、実際にはあの冷気が強すぎる。炎をも凍らせるほどに。
おまけに、こっちは時間制限つき。向こうも、まさかあんな強力な冷気を出し続けられるわけがないとは思うけど……このままじゃ、こっちが先に参ってしまう可能性は高い。
そうなったら、みんなを助けることができない! 仕方ない……もっと火力を、魔力を上げる!
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