519 / 522
最期の英雄
最後の死
しおりを挟む腕が、消滅していく。これはケンヤの腕が消滅したときのそれと、同じだ。始まったのは、ケンヤの死の体験……私が、ケンヤにやったこと。それが自分の身に、跳ね返ってくる。
ついさっき、ガニムの受けた消滅の力を体験したばかりなのだ……その消滅の力は、想像を絶するほどにキツい。それを、また体験させられる……それだけで、身の毛もよだつ。
だけど、この死の体験から逃れることはできない。腕が消滅していき、けれどそれを見ていることしかできず……
『ぅ、わ……!』
先ほども味わった感覚、それが再び胸の中に芽生える。嫌だと思っても、それから逃れることはできず、腕から体へ、そして全身へと消滅は及んでいく。
体が、自分の体がなくなっていく光景。それでいて、不思議と痛みはない……痛みがないから、余計に恐怖に煽られる。人間ってのは、痛みがあるから危機を感じることができるし、痛みがストッパーとなってそれ以上の傷を広げないようにする。
だけど、痛みがなければ自分で気づかないうちに、傷はどんどん悪化して……思っていた以上に、傷が広がってしまう可能性だってある。
痛みがなく、けれど確かに自分の体が消滅していっている……それは、どうしようもなく恐怖が大きくなり、自分がなくなっていくその感覚に、再び頭の中が真っ白になっていき……
『ぁ……』
意識が……途切れた。
----------
『ん……』
目を覚ますと、そこは白い空間だった。視線を動かしてみても、そこにあるのは……白。なんだろう、ここ……目を覚ましたらそこは、見知らぬ天井がって文はわりとよく見るけど、ここにら天井と呼べるものがない。
周囲を見回して、そこに人影を見つける。その人物は私を見て笑みを浮かべている……それは、純粋なような、それとも含みを持たせたような、そんな笑顔だった。不気味とまではいかないけど、なんだか妙な感じで……
『おはよう、アンズ』
『……エリシア?』
自然と、口をついて出ていた。彼女の名前は、エリシア……そうだ、ここは私の頭の中。そして、ついさっきまで私が殺した人たちの死の体験を受けていて……消滅の力に呑まれて、気を失っていた。
『うっ……』
頭が痛い、気がする。実際に頭が痛いかどうか、それよりも、その感覚があるの方が表現が正しい。あれ、頭の中の空間にいる私の頭の中って、いったいどういう……
ダメだ、混乱してきた。二度目の……消滅の力に呑まれて、こんがらがってる。自分が自分でないような……二度目、だよね?
自分がなくなっていく……けれど、今私の体はここにこうして存在している。それが安心するべきなのか、それともひどく動揺するべきなのか……わからない。でも……
『おめでとう、って言っていいのかわからないけど。とりあえずおめでとう。後、一回だよ』
……あと一回、同じ思いをしなければならない。
ガニム、ケンヤ……最後は、ユーデリアだ。これで終わる、この死の連鎖から解放される……それは喜ばしいことなのに、終わりの時が近づく度、頭に浮かぶ疑問があった。
この死の連鎖を終えたら、私はどうなってしまうのか。
死んだ人間がどうなるのかといった疑問であれば、その先の答えは実際に体験した者にしかわからない。けれど、これは単なる死とは違う……ユーデリアたちのように、消滅させられたのでもない。
あと一回、それはある意味救いだ。永遠と死の体験をさせられる、その最悪の結末に比べたら。でもすべての死を体験し、それが終わった後……私は、いったい……
『ほら、始まったよ』
『!?』
エリシアの言葉に反応し、自然と首元に手を伸ばす。ユーデリアの時は、首を掴んで消滅させたからだ。触れない。首から、消滅の力が全身に侵食していく。
『最後の死……せいぜい、楽しみなよ』
0
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる