ニュートンの林檎のアップルパイ

はなえ

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「なに、どうした?」
「・・・・これ、パイ生地作るのに、一晩寝かせろってかいてあるわ」
「いいじゃん、どうせ明日もヒマなんだから」
「え~、今日食べたかったのに」
 軽く絶望している。もうめんどくさい。やめよう。けど、材料どうしよう。
 教訓。アップルパイが食べたいなら、アップルパイを買うべきだ。材料じゃなく。
「あ、ちょっと待って」
 よっこいしょ、と立ち上がった母は、冷凍庫を漁り始める。
「あ~、あった。はい、これ使っちゃいな。」
 母~~~~~~~~!! 今だけ、女神に見えなくもないよ、母!
 母に手渡されたパイシートにより、絶望中の私に希望がもたらされた。
 邪道だとおもってたけど、こうなったら使うしかない!
 臨機応変って、大事じゃん!
 気を取り直し、私は台所に立って、りんごを洗い始める。
 洗ったりんごの皮をむき、よっつに切り、それをさらに小さく銀杏切りにしていく。
 鍋にバターを入れてとかし、りんごと砂糖を加えて煮る。
 ああこれ、幸せな匂いがする。これだけで、すでに美味しそうだ。
 お鍋の中で少しくたくたになってきたりんごを木のしゃもじで混ぜると、自然と口角が上がってくるのが分かる。お菓子作り、なんてことをやってる自分に酔う私。
 お鍋の中が飴色に近づいたら、シナモンパウダーを振りかけて、またよく混ぜる。
 うん、アップルパイの匂いだ。火を止めて、一口味見する。よし、美味しい。
「あら、良い匂いがしてきたね~」
 リビングでテレビを見ていたお母さんが後ろからのぞきこんでくる。
「ちょっと味見して。」
 どれどれ~、といいながら、お鍋に手を突っ込んで熱々のりんごを二本の指でつまむ母。
 おばちゃんて、時々こんな芸当を披露する。手の皮が分厚いのかな。たくましい。
「ん!美味しい。」
 お母さんがもう一切れ食べようとしている横で、まな板を取り出して、小麦粉を撒いた。
パイ生地を袋から出して、これまた小麦を塗した麺棒で伸ばしていく。
「あんた、料理しないくせによくこんなこと知ってたわね~」
「これくらい出来るって」
 高校の頃は、お菓子作りとかやってたし、パイ生地を使ってスティックパイみたいなの作ったこともある。
 そもそも、パイ生地の伸ばし方、お母さんが教えてくれたんじゃん、って心の中で思ったけど、声には出さなかった。
 伸ばしたパイ生地の半分をパイ皿に敷いて、オーブンを余熱しておく。
 パイ生地の残り半分を1.5センチくらいの幅に切る。それから、少し冷めたりんごをパイ皿に入れ、その上に細く切ったパイ生地を格子状に被せていく。
 そして、つや出しのたまごを塗って、オーブンに入れる。
 よし、もう出来たも同然。
 白い粉まみれのまな板と麺棒、それから、りんごを煮た鍋を洗い、テーブルの上を拭く。
そうこうしているうちに、パイ生地の焼けるいい匂いが漂ってきた。
たまらん!
ソワソワと見にいくと、格子状に覆った部分のパイ生地がふっくら膨れてきているのが分かる。けど、どんな色になってるかまではよく分からない。
一応、レシピ通りの時間に設定したけど・・・・どうなんだろう。
 迷いに迷って、設定した時間まで待ち、「チン!」という音を聞く。
 鍋つかみを使って、オーブンからとりだし、テーブルの上に出来たてのアップルパイを置いた。
 うん!焼き加減はちょうど良かったみたいだ。食欲をそそる良い色に焼けている。ちょっと形がいびつなのも、ご愛嬌ってことで。
 Facebookに載せる気も、誰かに見せる予定もないけど、スマホのカメラをアップルパイに向け、角度を変えて何枚か撮影していると、母が近づいてきて、にこりと笑って言った。
「あら、上手く焼けたね!」
 なるほどなー、と思う。
 料理って食べたら形がなくなっちゃうから、上手くできたら写真を撮っておきたいし、できれば誰かに見てほしいって思うよなー。それは自然な欲求なのかもしれない。
撮影を終え、ナイフを入れると、リンゴの上に格子型に並べたパイ生地がカシャッと崩れた。フォークで食べようとしたけれど、リンゴの下の部分のパイ生地がしんなりしているから上手く切れなくて、食べたい気持ちが抑え切れなくて、手で掴んでかぶりつく。
 パイが崩れる音、とろっとした甘酸っぱいフィリング、シナモンの香り。
 うまっ。
 大きめに切った一切れは、あっという間にお腹の中に収まった。
 ふぅ。
 食べた。
 満腹だ。満足だ。
 久しく感じていなかった、充実感、というものを、若干感じたかもしれない。
 我ながら単純。

 ふと、facebookで見た山野さんの言葉を思い出した。

美味しい物を食べたら嫌なことなんか忘れちゃう?

んなわけない。
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