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第二章 四度目の勇者の10年後
魔王退治と思いきや?
しおりを挟む防具屋の店主に装備品を揃えてもらい、準備が整った。
「よし、じゃあ、準備も整ったことだし、“さっさと魔王倒して公園造り計画”開始といくか!」
「祐人さんのネーミングセンスって……というか、祐人さん剣だけでいいんですか? これから魔王と戦うんですよね? 防御面は……」
不安そうに聞いてくるマルクス。
そんなマルクスの肩をポンポンと叩きながら、こう返した。
「今までもこんな感じたったから大丈夫。それに、いざとなったらお前を盾にするから気にするな」
そう言ってニッコリスマイルと同時に親指を立てる。
「えぇ!? 今、物凄く聞き捨てならないことが聞こえたんですけど!?」
「よし、じゃあ出発するか!」
「華麗なスルー!? ねぇ、ちょっと、聞いてます!? 祐人さんってば!」
俺は何も見てないし、何も聞いてない。
マルクスが必死に俺を呼んでいることなんて知らない。
まぁ、本当は魔法で防御するから問題はない。
少しからかってみただけだ。
という考えは口にせず、未だに俺を呼んでいるマルクスと共に魔王のところへ向かった。
それから、国を出たところまで行ったところでマルクスが質問をしてきた。
「祐人さん、もしかして、歩いていくつもりなんですか?」
「本当はそうしたいけど、早く公園造りを始めたいからな。今回は転移魔法で行く」
俺がそう答えると、マルクスは安心したのかホッと一息ついた。
そんなマルクスに俺が手を差し出す。
「えっ?」
「ほら、早く握れ。じゃないと置いてくぞ?」
「説明も無しに言われても……」
「はい、ご~、よん~……」
「わわっ、ちょっと待ってくださいよ!」
つべこべ言わずにさっさと握れという意味を込めてカウントダウンを始めると、そう言って慌てて俺の手を握るマルクス。
握ったのを確認した俺は、【転移】と唱え、魔王の所まで転移した。
◆◇◆◇◆
「はい、到着」
周りの風景が変わったところで俺がそう言った。
マルクスは俺の手を握ったまま辺りを見回す。
「ここって、魔王城ですか?」
「というかもう、魔王の目の前に居るぞ?」
「えっ? あっ、本当だ。魔王居ました」
「なんだその今まで気づかなかったような言い方は! 数回目が合ってただろうが!」
マルクスの一言に魔王がツッコミを入れた。
「銅像かと思ってたんですよ。一ミリたりとも動かないから」
「それは、そちらがいきなり目の前に現れて驚いていたからだ! 我輩こそ魔王だ!」
立ち上がって自分を親指で指しながらポージングする魔王。
それを見た俺とマルクスは、数秒くらいジト目で黙って魔王を見る。
「な、なんだ!? なぜそんな目で我輩を見るんだ!!」
「いや、だって祐人さんに5回も負けてるんですよね? そんな人が、自分が魔王だぞってカッコつけても、迫力が無いと言うか……」
「なっ……!? お、おい、勇者ユウト、その無礼な奴は誰だ!?」
マルクスの言葉にショックを受けた魔王がそう聞いてきた。
「あ、俺もう勇者じゃないぞ。次からはコイツがお前を倒しに来るから」
俺がマルクスの頭に手を置きながらそう答えると、魔王は心底驚いた表情をした。
「……は? はぁ!? おい、どういうことだ!?」
「どうもこうも……俺いまギルド長なんだけど、副ギルド長に今回で魔王退治に行くのやめろって言われたんだよ……」
「なっ……!? こちらはまだ一度も勝てたこと無いのだぞ! 勝ち逃げする気か!」
「知るか! 勝手に悔しがってろ!」
俺と魔王が言い合いしていると、マルクスからクスッという笑い声と共にポツリと一言聞こえてきた。
「二人って、仲良いんですね」
「「良くない!!」」
マルクスの言葉にツッコミを入れると、魔王とハモってしまった。
お互いにジト目で相手を見る俺と魔王。
む、魔王と被った……これじゃあ仲が良い証拠になるじゃないか。
そして案の定、マルクスの次の言葉がこうだった。
「やっぱり仲良いんじゃないですか」
「だから良くない!!」
次は俺が黙っていたので、魔王だけ叫んだ。
なのになぜか魔王が、「なんでやってくれないの?」という寂しそうな表情で俺を見てくる。
「なんだその顔。ここでまたハモったら仲が良い証拠になるだろ?」
「なったらダメなのか?」
「俺とお前は勇者と魔王だぞ? 仲が良いなんて……」
「ダメなのか?」
俺の言葉を遮って、イケメン顔で目をうるうるさせて上目遣いで聞いてくる魔王。
魔王としての威厳が全く無い。
というか、男としての威厳も無い。
そもそもこの魔王に威厳は微塵もないけど。
「……ダメなのか。仲良しだと思っていたのに……。それに、もうここに来ないということは、剣で止めを刺される時のあの快感も味わえなくなるのか……」
えっ、なにコイツ、何に目覚めてんの!?
俺が止めを刺した死の間際にそんなこと思ってたのか!?
通りでいつも清々しいほどの満足そうな顔で粒子になってた訳だ……。
「そ、それは、今後はマルクスで味わってくれ……」
俺がそう言いながらマルクスを俺の前へやる。
「えっ!? ちょっ、祐人さん!?」
背中を押されるのを必死に抵抗するマルクス。
しかし、魔王から返ってきた返事は予想外のものだった。
「ダメだ! 勇者ユウト……いや、ユウトでなければダメなのだ! 今ではそれが5年に一度の楽しみなのだ!」
うげぇぇぇ!? 何その楽しみ!? Mか!
いや、変態だ! ド変態だ!
魔王の言ってることに付いていけない……。
「うわぁ、二人ってそういう関係だったんですね……」
「マルクス、次そういうこと言ったら、お前にクエスト受けさせないからな?」
「僕の勘違いでした。ただ魔王がヤバい人ってだけでした」
「わかればよろしい」
危なかった……。
変な汚名を着せられるところだった。
というか、魔王はいつの間にこんな変態魔王に変貌していたんだろうか……。
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