外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―

文字の大きさ
3 / 164
死者と女神

光の十字架

しおりを挟む

晶が呼び止めた女性は、いきなり現れ肩をつかんだ晶に対し何も言わず、なんの反応もしない。
そう、なんの反応もなかったのだ。
返事がなく表情を変えないどころか、まるで自分の邪魔をしている者などいないかの様にそれまでと変わらぬ足取りでふらふらと前に進んでいった。
結局は彼女もまた人形達と同じであって、晶の求めるではなかった。
彼女の肩をつかんでいた晶の手がだらりと力なく落ちると、彼女は変わらずふらふらと歩いて行った。
晶はとっさに去っていく彼女に手を伸ばし再び声をかけようとするが、その事の無意味さを思い出し力なくてを下ろした。
そしてその場に頽れた。

その後、何をすればいいかわからず、また何もする気が起きない晶は去っていく彼女の背を眺めていた。

(彼女は何処に向かっているんだろう、何処かいく場所があるなら俺もついて行こうかな)

徐々に遠くなっていく彼女の背を見ながら、ふとそんな事を考える。
それがなかなか良い考えに思えてきた晶はこうしてはいられないと立ち上がり、彼女の後を追うために足を踏み出す
が、その足も数歩と歩かないうちに再び止まることとなる。

突如空から光が降ってきた。
今までなかった出来事に晶は足を止め空を見上げる。
その光は降り注ぐ様な自然の光ではなく、光の粒といえる小さなものだった。
光の粒は徐々に大きくなっていきその輝きも強くなっていく。

しかし、ゆっくりと眺めているわけにはいかない。
その光は晶に向かって落ちてきているのだから。

「…ッ!くそっ、なんなんだよっ。」

晶は降ってくる光を眺めていたが、その光が自分の方に降ってくるとあってはそのまま眺めているわけにはいかない。
光から少しでも離れるために後ろに振り返り自分が来た方向へと全力で走る。

この1秒を争う緊急事態においてわざわざ後ろに振り返るなどという時間の無駄をおこなったのには当然ながら訳がある。
晶はこの場所にそう長くいたわけではないが、光が降ってくる事などなく異常な事であった。
現在この場所において起こっている異常は何も光の事だけではない。
それは他でもない晶本人である。
この場所には意思が無く列に並んでいる人形だけであった筈だ。
そこに自分のような意思を持ち勝手に動き回る者がいたのなら、なんらかの対処があってもおかしくはない。
ふらふらと歩いていたハグレもいたが、それだって晶がここに来たからおかしくなった可能性もある。
なんにせよ、晶が狙われていてその方法としておこなわれたのがあの光である可能性は非常に高い。
ならば、先程までいた彼女を巻き込むわけには行かない。

もちろん一瞬でそんなことを考えたわけではないだろうが、晶は本能とも呼べるものでそう判断した。
そうして必死になって走る晶の後方に遂に光が落ち、それによって大きな音と衝撃が起こった。
その衝撃によって転んでしまった晶は少しの間呆然としていると、光のことを思い出し弾かれたように後ろに振り返った。

「な、なんとか、生き残ったか?いや、そもそもなんだよあれ。」

晶はゆっくりと立ち上がり、光の落ちたところを見る。
するとそこには巨大な十字架の形をした光が地面に突き刺さっていた。
十字架の大きさは10mを超えているのではないかと思われる。
よくこの大きさのものが落ちてきて怪我しなかったなと晶は感心していると、ふいに直前まで一緒にいた女性のことを思い出す。

「そうだっ、あの人はどうなったんだ」

慌てたように辺りを見渡すがそれらしき影はない。
巨大な十字架を挟んでちょうど反対側にいるのだろうと思いそちらに向かって歩いていく。
そんな事いちいち確認する必要などないのだが、なぜか晶はそうしなければならないような嫌な感じがしていた。

晶は十字架の根元まで行きその先端を見上げると、改めてその大きさに恐怖を感じた。
もしかしたらこれが自分の上に落ちてきたのかと思い、身が竦みそうになるが恐怖を押し殺して確認を続けようとしたところで、途端に十字架の輝きが増した。

「なんだよ!まだなんかあるっていうのか!」

晶はその場を跳びのき十字架から目を離さないようにして距離を取る。
輝きはさらに増していき、もはや眼を閉じても光で埋め尽くされる程になっている。
しかし、その輝きは途端に消滅した。

閉じていた眼を恐る恐る開けるとそこには既に十字架は無く辺りも暗くなっていた。

「消えた、のか?」

無くなった光の十字架を疑問に思いつつも、十字架のあった場所へと近づいていくが、やはりそこには何もない。
いや、よく見れば十字架のあったはずの地面にナニカがあった。

──やめろ

あの十字架はなんだったのか、それを知る手掛かりになればと思い近づく。

──見るな

地面にあるナニカはいくつかに分かれていて、全体的に黒く所々が赤い塊だった。

──ダメだ!それはっ…

それは人間だった。
そう、人間ものだ。
既に生きていた頃の面影はなく、人間だったというのもおそらくはそうであろうというものでしかない。
そして、その場にいた人間は晶の他には一人しかいなかった。

「?……ッ!…ま、さか」

その考えに至ったのだろう。晶は弾かれたように顔を上げ、首がもげるのではないかという勢いで何度も周囲を確認する。
しかしそこには自分以外誰もいない。
自分が追おうとしていた女性すらも。



晶はその場に座り込んだまま暫くの間虚空を見続けていた。
無理もない。突然こんな何処ともしれない空間にいて、直前までの自分の状態と今の状態の差に混乱し、周りにいたものに尋ねればそこにいたのは不気味な人形。そこから逃げ出すが周りの景色は変わらず、やっと人に会えたと思ったらそれもまた人形だった。そしてその人形さえも空から降ってきた光る十字架に潰された。

晶はその光景を見てやっと理解をした。
あの者達は人形などではないことを。
あの人形の様な者は全てが本物の人間だった。そんなことは晶も既にわかっていた。彼らがどんな存在でなぜこんなところにいるのかを。
ただ、その事実を認めたくなかっただけで。
それを認めてしまえばもう目を背けることができなくなってしまう。

──自分が既に死んでいるという事実から。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...