聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

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三章

誘拐犯の処遇

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 ——◆◇◆◇——

「んへ? あ! アルフじゃない。そっちも襲われたりしたの?」

 襲撃があったと思わしき場所へと急ぎ向かうと、その場所には確かにスティアがいた。だが、すでに襲撃者達は倒されており、襲われたスティア本人はなんでもないかのように間抜けヅラを晒して首を傾げている。

 なんとも気の抜ける姿だが、何事もなかったようで一安心といったところだ。

「いや、俺の方はなにもない。だが、そちらには来たようだな」
「うん。あ。あとルージェの方にも来たみたいね」
「ルージェの方とは……」

 そういえば、なぜか知らないが、ルージェも共にいるな。こいつらは別行動をとっていたはずなのだが、事が起こって合流したのか?

「ああ、ボクはさっきまでここにいなかったから。自分の方を処理してから合流したんだよ」
「そうだったか。だが、両方とも狙うとは敵も欲張りなものだ」
「そのおかげで簡単に終わったんだからありがたいことだけどね」

 確かにな。ここで襲ってきた数は十前後と言ったところだろう。それと同数をルージェの方にも向けたのであれば、合計二十。それらをばらけさせないで片方に当てれば、今とは違った結果になったかもしれない。
 とはいえ、それは可能性がある、という程度の話で実際にこいつらを捕える事ができたのかと言われれば微妙なところだろう。

 もっとも、敵としてはこれで十分だと考えたのだろうし、こいつらが普通の旅人であればその考え通りになっただろう。
 だが、あいにくとこいつらは普通ではなかった。一人は戦闘種族である獣人の姫で、もう一人は貴族を相手にしても逃げ仰る『貴族狩り』。言ってしまえば、相手が悪かったのだ。悪すぎたと言える。

「そうだな。それで、生き残りはいるのか?」
「いるわ! ちゃんと捕まえたんだから!」

 俺の問いかけにスティアが自慢げに答えた。
 相手の思惑がなんであれ、襲撃者を生かして捕えることができたのであれば、むしろこちらとしては得をしたと言える。何せ、こちらはさほど損害が出ておらず、にもかかわらず敵の情報が手に入るのだから。

 なので、結果そのものに不満はない。
 だが、よくこいつが敵を殺さずに捕えようとしたものだな。

「そうなのか? お前のことだ。全滅させるものと思っていたがな」
「うーん。まあそれも考えたんだけど、そんなに強くなかったし、せっかくだから捕まえてもいっかなって」
「俺としてはありがたいことだがな。だが、道中で見かけたが、あれだけの攻撃を受けて生き残りが……いや、周辺がそれほど壊れていないことを考えると、実際に攻撃する前に終わったのか」

 ここに辿り着くまでの間に、天へと伸びる巨大な槌が見えた。遠目ではあったが、あれを使われたのであれば敵を殺さずに捕えるというのは厳しいだろう。よほどの強者であれば別かもしれないが、俺とて死を覚悟する一撃だ。

 だが、思い返してみれば実際にあの武器が振るわれてはいなかったな。あれで攻撃を受けたのでなければ、まあ、死んでいなくてもおかしくはないか。

「ああ、さっきの? うん。あれ単なる囮だったし、実際に捕まえたのはルージェだから」
「お前が捕まえたのか? ……感謝しよう」

 こいつがやってきたことやその思想は完全に認めることはできないが、それでも今の状況では感謝すべきだろう。

「どういたしまして。それから、ここにいるそいつらだけじゃなくて、ボクを襲った方も何人か生き残ってるよ。焼いたまま放置してきたから、まだそこにいるかはわからないけどね」
「どうだろうな。身動きが取れるのであれば、おそらくそちらは自力で逃げるか、衛兵に捕えられているだろう」

 ルージェがいつこちらに合流したのかはわからないが、数分も経っていれば逃げだすくらいはするだろう。身動きが取れなかったとしても、市民達に囲まれているだろうから、今から捕らえに向かうのは難しい。

「まあいい。こちらで捕まえているのだ。であれば、これから聞き出せば良い」

 ルージェを襲った方は不可能だとしても、こちらにもいるのだからなんの問題もない。

「聞き出すのは良いけど、どこで聞き出すのさ? 宿に連れて行くわけにもいかないだろ? 街の外も、衛兵に咎められると思うけど?」
「この場で聞き出す」
「できるの? 時間がかかればこっちにも衛兵が来ると思うよ」
「だろうな。だが問題ない」

 そう言いながらフォークを作り出し、それを倒れている襲撃者の頭部に向け、一つ魔法を発動させる。

「催眠術?」
「その系統の魔法だ。あまり得意な分野ではないが、魔法は全属性の基本程度は修めている」
「全属性? ……本当に化け物じゃないか」
「何か言ったか?」
「なんにも。気にせずやっちゃってよ」

 ルージェが何か呟いた気がしたが、今はそのことを詳しく問い詰める時間もないので特に気にする事なく事を進めることにした。
 まあ、この辺りは慣れたものだ。……慣れたと言ってもここ最近のことではあるし、あまり褒められたことではないがな。

「聞き出せたのは大したことではないな」

 そうして魔法をかけて襲撃者から話を聞き出したのだが、わかったことはそう多くはなかった。所詮俺たちが狙われているという程度のことと、あとは今回スティア達を捕らえて俺への対抗策とすることくらいなもの。

 もっとも、その策は失敗に終わったわけだが。
 だが、ここまで踏み込んだ策を実行に移した以上、こいつらが……『樹林の影』とやらが手を引くことはないのだと再認識する事ができた。
 おそらく、近いうちに主戦力が襲ってくるのではないだろうかと思うが、さてどうすべきか。

「まあ、狙われてるのはわかってたことだからね」
「でさー、こいつらどうすんの?」
「……放置でいいのではないか? 聞きたいことは全て聞けた。これ以上はこいつらを確保していたところで意味はない。あとは衛兵に任せておけば良い」
「りょうかーい。それじゃあゆっくりできるわね! 今撃退したばっかりで襲い直したりはしないでしょ」
「そうだとは思うが、絶対とは言い難いな。所詮こいつらは下っ端だ。本人達は自分達だけしか動いていないと言っていたが、他にいないとは言い切れない」

 もしかしたら、本人たちも知らないだけで囮として使われていた可能性もあるのだ。油断してはならない状況であるということは変わっていない。

「んー、そっかぁ。まあいいわ。なんにしても、さっさと逃げましょ。ずらかるわよ!」
「ん? 逃げるの? 別にこのままでも平気だよね。何せ今回はボクたちが悪い事をしたってわけでもないんだし」

 ルージェも疑問に思ったように、今回も逃げても構わないのだが、必ずそうしなければならない理由もない。むしろ、逃げることで無駄な疑いをかけられる可能性すらある。
 なので、ルージェの言ったようにこのまま留まり続けても問題ないといえば問題ない。

 だが、懸念もある。もし衛兵まで奴らに抱き込まれているのであれば、ここで衛兵と会うのはまずい。なので、やはりここは逃げておくのが無難だろう。

「いや、この場を離れるぞ。衛兵の中に敵が混じっていると面倒だ」
「あー、そっか。そうだね。そういう可能性もあるか」

「残念だなぁ。今回ボク達は何にも悪いことしてないんだから、堂々としていられると思ったんだけど」
「堂々と? お前は衛兵を嫌っているものだと思ったがな」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いだよ。でも、好んで逃げ隠れしてるわけじゃないのさ。隠れずに済むならそれに越したことはないと思ってるしね。今回なんて、やましいことがないわけだし、堂々としたいと思ってもおかしくないだろ?」
「やましいことがないだと? どの口が言う」

 確かに〝今回は〟何もやましいことはないだろう。だが、お前の成してきたことそのものはやましいことに塗れているはずだ。お前の通り名である『貴族狩り』など、その最たるものではないか。

「別に、この街で何かやらかしたわけでもないし」
「この街でやらかしておらずとも、手配書が回っているだろうに」
「手配書なんて、所詮貴族狩りって存在に対する警戒を促すだけだよ。顔を見た奴なんて誰もいないんだから」

 ……確かに、こいつが全力で逃げたのであれば、よほどのミスをしない限りその姿を捕えることは難しい。その影を見ることはできても、似顔絵を描けるほど詳しく見る事ができるのかと言ったら、まずできない。
 であれば、ルージェの言うように手配書など気にする必要はないのかもしれないな。

「……まあ、バレないのであればそれでいい」

 考えるのをやめ、話を流すことにした。こいつが捕まったとしたら、その時は知らぬ存ぜぬで通させてもらうとしよう。

 そうして俺達は襲撃者を動けないように拘束した後、すぐさまその場を離れて大通りへと向かった。
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