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五章
お呼び出し
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——◆◇◆◇——
「お疲れ~」
「お疲れ様、アルフ君。大丈夫だった?」
ロイドを処理し、予選を勝ち抜いた後、受付のあった広間へと戻るとそこにはスティア達が待機しており俺のことを出迎えた。
「問題ない。見ていただろうが、怪我はしていない」
さすがは天武百景。中々に筋のいい者もいたものだ。だが、こちらはこれでもこの国を代表する武門の直系だ。現在は廃嫡されているものの、積み上げてきた経験は消えるものではない。筋がいいだけで負けるはずがなく、怪我をするほどのものではなかった。
「それもだけど……」
俺が意図的にやつ……ロイドについて言及しなかったことで、聞いていいのか迷ったのだろう。マリアは言葉を途中で止めてこちらの様子を伺ってきた。
とはいえ、今はあえて話さなかったが、ロイドの名が話に出てきて不快になるというわけでもない。
ただ、あいつのことはすでに俺の中ではどうでもいい存在へと成り下がり、その関係も過去も自身の中で割り切ったのだから言葉には出さないだけだ。
……だが、本当に割り切ったのであれば、むしろ自分から話に出すのではないか? 話に出したところで、心を揺さぶれらることなどないはずなのだから。
詰まるところ、割り切ったと考えていても、実際にはまだ心のどこかには引っ掛かっているのだろう。
とはいえ、引っ掛かっているとはいえ大部分は清算できたのだ。であれば、普通にしていればそのうち自然と消えていくだろう。
「あの愚か者のことを言っているのであれば、それも問題ない。所詮は過ぎたことだ。少なくとも、俺は気にしていないつもりだ……ふむ。過去の亡霊、とでも言うのか? とにかく、気にする必要はない」
あの者に関して説明するのであれば、それが一番相応しいだろう。
実力は物足りない、決して俺に届くことのない程度のものではあったが、俺たちの間には因縁があった。
ライバルというほどの間柄ではなく、仇というほど執着もしていない。戦ったところでまず間違いなく俺が勝つだろうという予想もあった。だが確かに俺は心の片隅では奴のことを意識していた。
恩があるわけでもなければ恨み辛みがあるわけでもない。そんな俺たちの関係を……いや、奴への思いを言い表すのであれば、『過去の亡霊』というのが相応しいだろう。
「過去の亡霊なんて言うほど昔のことでもないし、そんな大したものでもないんじゃない?」
「確かにな」
冗談めかして言われたルージェの言葉に軽く肩をすくめるが、ルージェの言ったように大した呼び名をつけるほどの相手でもないか。
「っていうか、本当にフォークもマントも使わなかったね」
「本戦では使うさ。だが、今から手の内を見せる必要もあるまい? そのために槍を持ち出したのだからな。もっとも、マントに関しては使用自体はしていたが」
マントはすでに身に纏っているので使用しているといえなくもない。実際には一度も攻撃を喰らっていないので効果を発揮したかと言われれば微妙なところではあるが。今回は身体強化の機能も切っていたので、本当に活躍する場面はなかったな。
「でも、なんの補助も使ってないんだろう?」
「まあそうだな。純粋に防具としての機能だけだ」
「それであんなに余裕で勝つんだから、やっぱり大したものだね」
「それはそうでしょ。なんたって、私が認めたくらいなんだからね!」
「なんでスーちゃんが自慢してるの?」
俺にかけられた言葉にスティアが自慢げに胸を張って答え、マリアが苦笑している。
なんとも緊張感がないいつも通りと呼べる状況ではあるが、これでいいのかもしれないな。
「しかし、槍はもうダメだな」
ふと手の中にあった槍へと視線を落としたが、この槍の状態は眉を顰めるものだった。
まだ使うことはできるだろうが、本戦で使用するとなると途中で壊れる不安がある。そんなものを使って戦うくらいであれば、初めから使わないで素手で戦った方がマシだ。
「まあ、あれだけの敵を相手にしてればそうなるよ。むしろ、よくもった方じゃない?」
「そうね。アルフ君の相手をした、あの人の武器。本人の技量はまだまだだったけど、武器だけは結構強いものだったんじゃないかな?」
「曲がりなりにも父が認める程度のものだからな。歴代のトライデン当主達が使う最低限の質にはなっていたはずだ」
技量も、最低限トライデンを継げる程度にはあったといえなくもない。
最低ラインとはいえ武器も技量もトライデンに相応しいだけのものを揃えた相手に勝ったのだから、言葉には言い表せないがなんとも感慨深いものがあるな。
「姫様」
「んえ?」
「あちらから誰かが」
スティアにかけられた護衛の言葉に、俺たちは一斉に示された方向を向いたが、確かにそちらからは何者かが俺たちのいる方向へと向かってきていた。
見た目は女性。それも、メイド服を着ていることから察するに貴族などの遣いだと考えられる。
だが……ふむ。どこかで見覚えがあるような気がするが、どこだ? 使用人ということは、トライデンで雇っていた者の一人か? トライデンで雇われていた者は、深い関わりがなくとも一通り顔を合わせたことがあるはずだから、顔を知っている、程度の者がいてもおかしくはない。
だがそうなると、トライデン公爵が送り込んできたか? ロイドという次期後継者が廃嫡したはずの俺にやられたのだから当然といえば当然の対応かもしれないが、あまりにも対応が早すぎるな。もしトライデンからの遣いであれば、どうしたものか……。
「アルフレッド様。シルル殿下がお呼びです」
などと思っていると、女性は俺の前で立ち止まり、一度丁寧に礼をしてからそう告げてきた。
「シルル殿下? ……ああ、確か其方は殿下の付き人の一人だったか?」
「覚えていただき光栄です」
見覚えがあると思ったらそちらだったか。確かに、挨拶を交わしたことはなかったが、殿下の側にいた者であれば顔を見たような気がして当然か。だが、シルル殿下からの呼び出しか……。
「なぜ殿下が……」
いや、思い当たることなどいくらでもあるな。
姉のミリオラ殿下の勝手な行動に対する謝罪。
今回の天武百景にて本戦出場を決めた選手に対する激励。
トライデンを廃嫡されたことに関する事後経過。
俺を襲った者達に対する処理報告。
それから……オルドスの言っていた俺に対する好意について。
シルル殿下が俺を呼び出す理由など、それこそいくらでも思いつくことができる。
「どうするの?」
俺と王家……シルル殿下ではないが、その姉である王女との関係を知っているからか、ルージェが少し警戒した様子で問いかけてきたが、これは断るわけには行かんだろう。
「……行くしかあるまい。断っても問題にはならないとは思うが、その場合殿下がどう動くのか予想できん。オルドスもそうだが、あの兄妹は無茶をやらかすことがあるのでな。もし断りでもしたら、直接俺たちの元へ出向くかもしれん」
オルドスは仕事だと言いながらも無茶を通して俺のところまでやってきた。
以前からシルル殿下も思ったことを迷わずに実行する方だったことを考えると、本当に俺達のところへとやってくるのではないかと思わずにはいられない。
「ご理解いただき感謝いたします」
そんなシルル殿下の気質を理解しているようで、遣いとしてやってきたメイドは感謝と共に頭を下げてきた。
だがそうするということは、やはりメイドからも同じように思われているということだな。これはやはり、行かないわけにはいかないか。
「そういうわけで俺は殿下の元へと向かうが、お前たちはどうする?」
「私はついて行きます、アルフ様。私はアルフ様の護衛騎士ですので」
俺が他の奴らへと問いかけると、マリアは迷うことなく真っ先に返事をした。
「……まあ、好きにしろ」
「ボクはパスで。王族の前とか、居心地最悪だろうしね」
ルージェはそうだろうな。そもそも、お前は王族の前に姿を表せるような身分ではないだろうに。
「私はー、うーん……」
「お前はこの後に試合が待っているだろうに。殿下との話がどれほど長引くかわからんのだ。自由に動ける様にしておくべきだろう」
スティアは阿呆なので忘れているが、こいつとて今日試合が行われるのだ。たとでどこかに行きたいと言ってもいく時間などあるわけがない。
「あー、そういえばそうだったわね。じゃあ仕方ないっか。私はルージェと一緒に食べ歩きでもしてることにするわ!」
「なんでボクと……」
「なんでも何も、こいつを放っておくつもりか? もし問題でも起これば、お前も面倒なことになるぞ」
こいつのことだ。食べ歩きなどしていれば、時間を忘れて好き勝手するに決まっている。
「うっ、それを言われると……。って、いや護衛いるじゃん。前とは違うんだから好き勝手するようなこともないだろう?」
確かにルージェの言うように今のスティアには護衛がついている。だが、それで大丈夫なのかと言われると首を傾げざるを得ない。
「それでこいつがおとなしくしているのであれば問題ないのだがな。おとなしくしていると思うか? 護衛がいたにもかかわらず一人で旅をするようなやつだぞ?」
「……そうだったね」
「人をなんだと思ってるのよ。まったくもう。子供じゃないんだからおとなしくしておくくらいできるってば!」
不満そうにしつつも自身ありげに胸を張っているスティアだが、そんな様子がさらに不安を掻き立てたのだろう。ルージェは一つため息を吐き出すと緩く首を左右に振った。
「……はあ、仕方ないか。わかったよ。スティアについてることにする」
「え、なんでそこで了承するの? 一人でも大丈夫って言ったのに?」
自信ある様子を見せたにもかかわらずルージェがついていくことにしたのが不思議なようで、スティアはキョトンとした表情で首を傾げている。だが、妥当な判断だ。見てみろ。護衛の奴らも心なしか安心した表情をしているぞ。
「できる限り早めに話を終わらせるつもりだが、どうなるかわからん。試合が終わったら勝手に宿へ戻って構わんぞ」
「はいはーい。それじゃあスティア。試合まで適当に回ろうか。屋台で食べ歩きするんだろ?」
「そうね! さっさと行かないと美味しいものが売り切れになるかもしれないわ!」
……本当に試合はちゃんと出るのだろうな?
「お疲れ~」
「お疲れ様、アルフ君。大丈夫だった?」
ロイドを処理し、予選を勝ち抜いた後、受付のあった広間へと戻るとそこにはスティア達が待機しており俺のことを出迎えた。
「問題ない。見ていただろうが、怪我はしていない」
さすがは天武百景。中々に筋のいい者もいたものだ。だが、こちらはこれでもこの国を代表する武門の直系だ。現在は廃嫡されているものの、積み上げてきた経験は消えるものではない。筋がいいだけで負けるはずがなく、怪我をするほどのものではなかった。
「それもだけど……」
俺が意図的にやつ……ロイドについて言及しなかったことで、聞いていいのか迷ったのだろう。マリアは言葉を途中で止めてこちらの様子を伺ってきた。
とはいえ、今はあえて話さなかったが、ロイドの名が話に出てきて不快になるというわけでもない。
ただ、あいつのことはすでに俺の中ではどうでもいい存在へと成り下がり、その関係も過去も自身の中で割り切ったのだから言葉には出さないだけだ。
……だが、本当に割り切ったのであれば、むしろ自分から話に出すのではないか? 話に出したところで、心を揺さぶれらることなどないはずなのだから。
詰まるところ、割り切ったと考えていても、実際にはまだ心のどこかには引っ掛かっているのだろう。
とはいえ、引っ掛かっているとはいえ大部分は清算できたのだ。であれば、普通にしていればそのうち自然と消えていくだろう。
「あの愚か者のことを言っているのであれば、それも問題ない。所詮は過ぎたことだ。少なくとも、俺は気にしていないつもりだ……ふむ。過去の亡霊、とでも言うのか? とにかく、気にする必要はない」
あの者に関して説明するのであれば、それが一番相応しいだろう。
実力は物足りない、決して俺に届くことのない程度のものではあったが、俺たちの間には因縁があった。
ライバルというほどの間柄ではなく、仇というほど執着もしていない。戦ったところでまず間違いなく俺が勝つだろうという予想もあった。だが確かに俺は心の片隅では奴のことを意識していた。
恩があるわけでもなければ恨み辛みがあるわけでもない。そんな俺たちの関係を……いや、奴への思いを言い表すのであれば、『過去の亡霊』というのが相応しいだろう。
「過去の亡霊なんて言うほど昔のことでもないし、そんな大したものでもないんじゃない?」
「確かにな」
冗談めかして言われたルージェの言葉に軽く肩をすくめるが、ルージェの言ったように大した呼び名をつけるほどの相手でもないか。
「っていうか、本当にフォークもマントも使わなかったね」
「本戦では使うさ。だが、今から手の内を見せる必要もあるまい? そのために槍を持ち出したのだからな。もっとも、マントに関しては使用自体はしていたが」
マントはすでに身に纏っているので使用しているといえなくもない。実際には一度も攻撃を喰らっていないので効果を発揮したかと言われれば微妙なところではあるが。今回は身体強化の機能も切っていたので、本当に活躍する場面はなかったな。
「でも、なんの補助も使ってないんだろう?」
「まあそうだな。純粋に防具としての機能だけだ」
「それであんなに余裕で勝つんだから、やっぱり大したものだね」
「それはそうでしょ。なんたって、私が認めたくらいなんだからね!」
「なんでスーちゃんが自慢してるの?」
俺にかけられた言葉にスティアが自慢げに胸を張って答え、マリアが苦笑している。
なんとも緊張感がないいつも通りと呼べる状況ではあるが、これでいいのかもしれないな。
「しかし、槍はもうダメだな」
ふと手の中にあった槍へと視線を落としたが、この槍の状態は眉を顰めるものだった。
まだ使うことはできるだろうが、本戦で使用するとなると途中で壊れる不安がある。そんなものを使って戦うくらいであれば、初めから使わないで素手で戦った方がマシだ。
「まあ、あれだけの敵を相手にしてればそうなるよ。むしろ、よくもった方じゃない?」
「そうね。アルフ君の相手をした、あの人の武器。本人の技量はまだまだだったけど、武器だけは結構強いものだったんじゃないかな?」
「曲がりなりにも父が認める程度のものだからな。歴代のトライデン当主達が使う最低限の質にはなっていたはずだ」
技量も、最低限トライデンを継げる程度にはあったといえなくもない。
最低ラインとはいえ武器も技量もトライデンに相応しいだけのものを揃えた相手に勝ったのだから、言葉には言い表せないがなんとも感慨深いものがあるな。
「姫様」
「んえ?」
「あちらから誰かが」
スティアにかけられた護衛の言葉に、俺たちは一斉に示された方向を向いたが、確かにそちらからは何者かが俺たちのいる方向へと向かってきていた。
見た目は女性。それも、メイド服を着ていることから察するに貴族などの遣いだと考えられる。
だが……ふむ。どこかで見覚えがあるような気がするが、どこだ? 使用人ということは、トライデンで雇っていた者の一人か? トライデンで雇われていた者は、深い関わりがなくとも一通り顔を合わせたことがあるはずだから、顔を知っている、程度の者がいてもおかしくはない。
だがそうなると、トライデン公爵が送り込んできたか? ロイドという次期後継者が廃嫡したはずの俺にやられたのだから当然といえば当然の対応かもしれないが、あまりにも対応が早すぎるな。もしトライデンからの遣いであれば、どうしたものか……。
「アルフレッド様。シルル殿下がお呼びです」
などと思っていると、女性は俺の前で立ち止まり、一度丁寧に礼をしてからそう告げてきた。
「シルル殿下? ……ああ、確か其方は殿下の付き人の一人だったか?」
「覚えていただき光栄です」
見覚えがあると思ったらそちらだったか。確かに、挨拶を交わしたことはなかったが、殿下の側にいた者であれば顔を見たような気がして当然か。だが、シルル殿下からの呼び出しか……。
「なぜ殿下が……」
いや、思い当たることなどいくらでもあるな。
姉のミリオラ殿下の勝手な行動に対する謝罪。
今回の天武百景にて本戦出場を決めた選手に対する激励。
トライデンを廃嫡されたことに関する事後経過。
俺を襲った者達に対する処理報告。
それから……オルドスの言っていた俺に対する好意について。
シルル殿下が俺を呼び出す理由など、それこそいくらでも思いつくことができる。
「どうするの?」
俺と王家……シルル殿下ではないが、その姉である王女との関係を知っているからか、ルージェが少し警戒した様子で問いかけてきたが、これは断るわけには行かんだろう。
「……行くしかあるまい。断っても問題にはならないとは思うが、その場合殿下がどう動くのか予想できん。オルドスもそうだが、あの兄妹は無茶をやらかすことがあるのでな。もし断りでもしたら、直接俺たちの元へ出向くかもしれん」
オルドスは仕事だと言いながらも無茶を通して俺のところまでやってきた。
以前からシルル殿下も思ったことを迷わずに実行する方だったことを考えると、本当に俺達のところへとやってくるのではないかと思わずにはいられない。
「ご理解いただき感謝いたします」
そんなシルル殿下の気質を理解しているようで、遣いとしてやってきたメイドは感謝と共に頭を下げてきた。
だがそうするということは、やはりメイドからも同じように思われているということだな。これはやはり、行かないわけにはいかないか。
「そういうわけで俺は殿下の元へと向かうが、お前たちはどうする?」
「私はついて行きます、アルフ様。私はアルフ様の護衛騎士ですので」
俺が他の奴らへと問いかけると、マリアは迷うことなく真っ先に返事をした。
「……まあ、好きにしろ」
「ボクはパスで。王族の前とか、居心地最悪だろうしね」
ルージェはそうだろうな。そもそも、お前は王族の前に姿を表せるような身分ではないだろうに。
「私はー、うーん……」
「お前はこの後に試合が待っているだろうに。殿下との話がどれほど長引くかわからんのだ。自由に動ける様にしておくべきだろう」
スティアは阿呆なので忘れているが、こいつとて今日試合が行われるのだ。たとでどこかに行きたいと言ってもいく時間などあるわけがない。
「あー、そういえばそうだったわね。じゃあ仕方ないっか。私はルージェと一緒に食べ歩きでもしてることにするわ!」
「なんでボクと……」
「なんでも何も、こいつを放っておくつもりか? もし問題でも起これば、お前も面倒なことになるぞ」
こいつのことだ。食べ歩きなどしていれば、時間を忘れて好き勝手するに決まっている。
「うっ、それを言われると……。って、いや護衛いるじゃん。前とは違うんだから好き勝手するようなこともないだろう?」
確かにルージェの言うように今のスティアには護衛がついている。だが、それで大丈夫なのかと言われると首を傾げざるを得ない。
「それでこいつがおとなしくしているのであれば問題ないのだがな。おとなしくしていると思うか? 護衛がいたにもかかわらず一人で旅をするようなやつだぞ?」
「……そうだったね」
「人をなんだと思ってるのよ。まったくもう。子供じゃないんだからおとなしくしておくくらいできるってば!」
不満そうにしつつも自身ありげに胸を張っているスティアだが、そんな様子がさらに不安を掻き立てたのだろう。ルージェは一つため息を吐き出すと緩く首を左右に振った。
「……はあ、仕方ないか。わかったよ。スティアについてることにする」
「え、なんでそこで了承するの? 一人でも大丈夫って言ったのに?」
自信ある様子を見せたにもかかわらずルージェがついていくことにしたのが不思議なようで、スティアはキョトンとした表情で首を傾げている。だが、妥当な判断だ。見てみろ。護衛の奴らも心なしか安心した表情をしているぞ。
「できる限り早めに話を終わらせるつもりだが、どうなるかわからん。試合が終わったら勝手に宿へ戻って構わんぞ」
「はいはーい。それじゃあスティア。試合まで適当に回ろうか。屋台で食べ歩きするんだろ?」
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