異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

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3章

第四スキル

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 小豚のジャックに絡まれてからおよそ一週間後。いつものようにカイルとベルとソフィアを側に置きながら庭でスキルの修行をしていると、不意に頭の中にいつもの感覚が起こった。

「——お、レベルアップか」

 どうやら俺は第四位階にレベルアップしたらしい。

「は? まじかよ……」
「まあ一日千回以上できるからな。単純に考えると大体三ヶ月前後で階級が上がることになるし、妥当なところだろ」
「そもそも三ヶ月で異界を挙げられんのが妥当じゃねえんじゃねえの?」
「努力と気合の成果だな」
「努力と気合ってより、アレ続けんのはもはや狂気だろ」

 カイルは自分がぶっ倒れた時の感覚を思い出したのか、嫌そうな呆れたような微妙な表情をしてながら呟いたが、あながち否定できないな。まともな精神であんな苦行を毎日続けるなんて普通ならできないと思う。

 でも、俺の気持ちはもと日本人なら理解してくれる奴もいると思うんだよ。頑張ればレベルアップする世界なんだぞ? だったらやるだろ、普通。みんなレベルアップのために限界を超えてできる限りの努力程度はするはずだ。
 実際俺はそうやって頑張ってスキルの限界回数を引き上げたし、こうして第四位階に上がることができた。

 まあ、カイルが俺よりも一つ年上にも関わらずまだ第二位階だってことを考えると、俺のレベルアップ速度が速いのは理解できるけどな。レベルアップをやめる気はないけど。

「今回はどのようなスキルなのでしょうか?」
「ん……ああ、これか。どうやら植物を育てるらしい」

 ベルに聞かれたので自身のうちにある神の欠片に意識を向け、新たに覚えたスキルの内容を確認する。
 新しいスキルは……『生長』ってやつらしい。

「育てるって、芽を出したり実をつけたりとかか?」
「多分な。実際使ったことねえから知らねえけど」
「まあ、そりゃあそうか」

 名前と大まかな概要からして植物を育てるんだろうけど、それがどんなふうなやつなのかは実際に使ってみるまではわからない。

「とりあえず使って確認してみるか」
「お待ちください」

 だが、俺がスキルを使おうと種を取り出したとこソフィアから待ったが入った。

「ソフィア? どうした?」
「『農家』のスキルは第四位階までしか判明しておりませんが、第四位階のスキルは使用する際に注意が必要だとの情報があったはずです。使用するのでしたらお気をつけください」

 今まで俺が新しいスキルを使う時には何も言ってこなかったのに、今回に限ってこんなことを言ってくるって珍しいな。ならそれほど危険があるってことか。

 でも、農家だぞ? 農家のスキルで注意が必要って、どんなんだよ? しかも今回はただ植物を育てるだけのスキルだ。危険性なんてないように感じる。
 いや、でも『注意が必要』って言っただけで、『危険がある』と言ったわけではないか。まあ、注意って言われても何に? って感じなんだけどな。

「……注意ってどんなだ?」
「そこまでは……。ただ注意した方がいい、と」

 ソフィアでもわからないのか。まあ『農家』はそもそもスキルを育ててるやつが少ないし、結構なレベルまで育てたやつがいたとしてもそれを記録として残しているかは微妙だ。だって『農家』を育てるって言ったら実際に農家やってるやつだろうし、そういう奴は大抵が田舎に住んでる。
 なので誰かにスキルのことを詳しく話すこともないだろうし、わざわざ書き留めることもないだろう。

 なのでわからなくても仕方がないだろう。注意が必要だとあらかじめ分かっているだけでもよく調べたな、って言ってやれるくらいだと思う。

「可能性としては……発芽するときに毒をばら撒いたりするとか、魔物の種を育てないようにとかか?」
「あとは生長しすぎて畑を殺してしまう、とかじゃないですか? 植物は育つときに周りの栄養を吸い上げるって聞きますし、いきなり育ちすぎると栄養を根こそぎ奪ってしまう、という感じです」
「あー、かもな。でもこれは店で買った麦の種なんだから、問題ないだろ。栄養に関しては手のひらの上で使うから吸い上げられることもないと思う」

 カイルとベルの言葉を受けて、どっちもありそうなだけに悩むが、多分発芽するときに毒を撒くってのはないと思う。そういう植物なら別だが、基本的にスキルって物理現象に則ってるし。普通の種からは発芽するときに毒が出るなんてことはないんだから、スキルで発芽させたとしてもそれはないと思う。

 で、これはいつも使ってる麦の種なので魔物が生まれることはないし、地面に植えなければ土の肥料を根こそぎ奪っていくってこともないだろう。

「《生長》」

 そんなわけで、俺はカイル達三人に見守られながら手のひらを突き出してその上に種をのせ、スキルを発動した。

「——っ!? いづあ!?」

 瞬間、俺の手に強烈な痛みが突き刺さった。

「「ヴェスナー様!?」」
「おいどうした!」

 叫ぶと同時に手を握りしめて引っ込めた俺の様子を見た三人は驚き、ベルとソフィアは慌てた様子で俺の名を呼び、カイルは俺に手を伸ばして肩を掴みながら声をかけてきた。

「っ~~~~! ……なんだ、これ」

 痛みの走った手のひらゆっくりと開いて見てみると、そこにはスキルの影響か芽が出ており、根っこも出ている種があった。
 ただし、その根っこは俺の掌を突き破っていた。

「……根っこが、刺さってるのか?」

 確かに種から生長するって言うんだったら芽だけではなく根っこが出てもおかしくはないし、近くにある土やなんかを貫通してもおかしくない。《播種》スキルを使ったときにも硬いものを貫いてたしな。

 でもこれ、人間の体も貫通の対象になるのかよ。

 自分の手のひらから植物が生えているなんて状況に慌てそうになるが、手のひらの痛みがそこから意識を逸らす事を許してくれない。

 でも、考えてみれば当然か。《播種》は硬いものだけではなく人間相手にも突き刺さっていた。なら、同じ『農家』のスキルを使えば同じように人間に効果があってもおかしくはない。

 俺は自分の手のひらから生えたものを乱暴にむしり取りたい気持ちになるが、そうして根っこだけが体の中に残っても問題なので丁寧に抜くしかない。

 根っこが体内に残らないようにゆっくりと丁寧に引き抜いていくが、ズルズルと皮膚の下から何かが這い出るような感覚がして背筋にゾクゾクとしたものが走った。

 だがそんな気持ち悪い感覚を無視して俺は確実に根っこを取り除く。

「っはあぁぁぁ……とれた」

 完全に取り除けたことで息を吐き出して安堵すると、俺は今しがた取り除いたばかりの種へと視線を向けた。

「それ、吸血樹とかじゃないんだよな?」
「ああ。ただの麦の種だ」

 カイルは俺の見ていた根っこと芽のでた種を見ながら聞いてきた。
 確かに植物の中には生物に寄生するものもいるし、この世界には動物に寄生して体に根っこを刺して血を吸う吸血樹なんてもんがある。だが、これは確かに麦の種だ。

「注意しろと言うのは、こう言うことだったのですね。……半端な情報のせいで怪我をさせてしまい申し訳ありません」

 俺が怪我をしたことで、最初に注意を促してくれたソフィアは半端な情報を与えてしまったと落ち込んでいるが、それはソフィアのせいではないだろ。注意しろって言葉がわかっていただけでもありがたかった。それがなければもっと混乱しただろうからな。

 それに、ある意味この失敗は意味のあるものだ。

「いや、こんなのは大したことじゃないって。むしろこの失敗は成功の母っていうか……まあ役に立つもんだし失敗してよかったよ」
「失敗してよかったって、良くはねえだろ……待て。お前、それもしかして……」

 カイルが何かに気がついたようで目を見開いているが、まあこれまで散々俺のスキルの使い方を見てれば気付くだろうな。

「まあ使い方云々は後回しだ。とりあえず治癒師のところに行こうぜ。問題な言っちゃ問題ないし、耐えられないわけじゃないけど、結構痛い」

 血の出ている手のひらを見せながら、俺は屋敷内で暮らしている仲間の一人のところへと向かうのだった。

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