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八章
最強の傭兵の雇用依頼
しおりを挟む「かもしれませんが、であればこちらはよそへと持っていけばいいだけです。この街の大半はあなたの傘下ですが、全部じゃない。あなたの関係ないところに持っていき、売れば、少なくとも今提示された額よりは高く売れることでしょう。それに、自前で他の街に持って行ってもいい。護衛は自分で用意できますから。なんなら自分で商会を作って売ってもいい。時間も手間もかかりますが、できないわけではないんですから」
商売のできる奴隷を買ってそいつをトップに据えて運営させればいい。そうすれば金稼ぎくらいすぐにできる。
安全性の問題はあるが、さっき話したうちの紋章と護衛を使えばその問題も消える。最悪の場合は俺が商隊に同行していけばいい。ずっと一緒にってなるとちょっとアレだけど、カラカスの危険から離れられたら別れて俺だけ戻って来ればいい。
それに、本当なら俺の拠点を作るわけだし、それと一緒に自分の商会ってのを持とうかとも考えたんだ。だってこれから色々と動くわけだし、自分の動かせる商会ってのがあった方が色々と楽だしやりやすいだろ?
だがそれでも俺はこうしてエドワルドに話を持ってきた。それはなんでか。
エドワルドに話を通した方がスムーズにことが運ぶし、ちゃんと契約して友好関係を作っておけば今後の活動で邪魔もされないからだ。
こいつに頼めば金はかかるが、それは必要経費。むしろそれで効率を買えるのであれば、金なんて惜しくない。
だからこそ自分の商会なんて作らないでこいつに話を持ってきた。俺が一から商会を作って運営しているよりも、こいつに任せた方が絶対に早いし、不備もないだろうからな。
それから、俺が食い物を作って売るとなれば、この街や周辺で食い物——特に穀物や野菜を扱っているところはかなりの打撃を受けるだろう。そしてそれは食べ物だけではなく、麻薬の類も同じだ。植物が原材料の場合、生産量も品質も俺に勝てるわけがないのだから。
だがそうなるとエドワルドに害が出ることになり、エドワルドの北と俺のいる東で仲が悪くなる可能性がある。
当然だ。東区のボスの息子である俺が作った商会が北のボスであるエドワルドの傘下を脅かしたら、それは東のボスが他のボスの管理している領分を侵略しようとしていると取られてもおかしくないのだから。
それは面倒なことになるので、その辺の兼ね合いを考えて作らなかっただけだ。
あとはまあ、ぶっちゃけ自分で商会を作るのが面倒だったって理由もあるが、それは特に関係ないしどうでもいいことだ。大事なのは、俺がただやられるだけの存在じゃないってこと。
そんな感じでいくつか意味があったんだが、そもそも今の時点から邪魔をされて平穏に進めることができないのであれば、こいつと手を組む必要なんてないんだ。
手を組まずに勝手に行動した結果邪魔をされても面倒ってだけで、その時は強引にどうにかすればいいんだから。
最悪、こいつの商売を潰すことだってできるんだ。植物達からこいつの情報を聞き、商売の裏話を探り、不利益になるようなこと全てを調べて潰せばいい。
面倒だしやる必要がないからやらないだけで、やろうと思えばできないことはない。
こいつそのものを失脚させることはできないだろうが、害を出すことはできる。
というか、そんなことをしなくても殺せばそれでおしまいなのだ。天地返して建物ごとくるんとひっくり返したり、外に出た時に種をピシュンと放ったりすれば、それで終わり。簡単なことだ。
その後の治安の問題があるし、他の五帝との関係や、東区で暮らしている奴らの目があるからできることならやりたくないけど。
でも、本当に必要なら俺はそうするだろう。
「それは、私と敵対するもとれる発言ですね」
しかし、そんな俺の考えに気付いているのかいないのか……多分気づいていないんだろうな。俺がそこまでするとは思われていないのか、それともする気がないと思われているのかわからないが、要はなめられているのだ。
そんな舐めている相手であり格下であるはずの俺に反抗されたからだろうか。エドワルドは笑顔の中に凄みを混ぜて俺のことを睨んできた。
しかし、俺はそんな視線を向けられたとしても考えを変えるつもりはない。
だって、ここで引けば聖樹の育成計画に支障が出るし、そこで止まってしまえば母さんと一緒に暮らすための準備が遅れてしまう。
そう考えたのだが、そこでふとどうでもいいこと……本当にどうでもいいことなのだが、頭の中にある考えが浮かんだ。
……なんか俺の人生、メインヒロインが母親になってる気がするなぁ。
俺は今まで母親探しの旅だとかしたし、母親を探すために無茶をしたし、母親のためにドラゴンと戦ったし、今は母親と一緒にいることができるようにするために頑張ってる。
そんな感じで、俺の行動の理由に母親が関わっているのだ。
いや別に嫌いってわけじゃないんだけど、ちょっと母親に執着しすぎてる感がするのは気のせいだろうか? 俺はマザコンだったのか?
そんな本当にクッソくだらないどうでもいい考えを振り払い、俺は意識を話に戻した。
「敵対するなんて、そんなつもりはありません。ただ、商談がまとまらなかった。だからこちらは別の手を考えた。それだけのことではありませんか? 商売において全ての話が成立するということもないでしょう?」
「まあ、その通りですね。ですが、一つ覚えておいた方がいいですよ。まとまらないにしても、いい終わり方と悪い終わり方があります。そして、悪い終わり方をした場合、その後がどうなるかはわかりません。不慮の事故で命を無くす方が出ることも、珍しくはありません」
ほほう? 俺に対して武力を持ち出すか。
だが、それだとお前は負けを認めたようなもんだぞ?
だってお前の領分は金稼ぎで、俺たち東の領分は武力だ。俺たちに対して武力でどうにかしようと話を持っていった時点で、お前の負けだろ。
「それは俺を武力でどうにかしようと? こっちには親父がいますよ?」
こいつの保有してる戦力はあるだろうし、それなりに強いんだろうが、俺たちほどではない。
元々北のこいつらは商売に関してのことを管理する集団で、俺たち東は、あとついでに西もだが、俺たちは武力を担当する集団だ。
政治力や財力によるものならばわからないが、武力をもっての戦いとなったら俺たちに分がある。
それに何より、こっちにはこの街最強の戦力である親父がいる。西の奴らを引き入れたとしても、俺たちに勝てるわけがない。
だが、そんな俺の言葉にエドワルドは余裕を持った様子で首を横に降った。
「いいえ、その男は今回参加しないと言いました。であれば、それは嘘ではないでしょう。気に食わないところも多々ある男ですが、そういった約束事で嘘はつきません」
確かに、親父はこういったことに関しては真面目だ。普段のふざけでは嘘をつくこともあるが、約束したことは絶対に守るようなやつだ。そのことは俺も理解している。
「まあ、そうですね」
「だなあ。俺は見てるだけだ。計画がポシャるんだとしても、俺からは手を出さねえ。流石に殺されそうなことがあれば手を出すけどな」
だがしかし、見ているだけとは言っても抜け道がないわけでもない。
「けど、それはあくまでも自発的には動かないってだけだろ?」
見ているだけと言ったし、俺に任せると言った。自分に決定権はないとも言った。だが、それは〝この話し合い〟の内容に関してだけだ。俺のやること全てに手をださないとは言っていない。
だから、エドワルドとの話し合いや契約に関係しないことであるのなら、親父を引っ張り出すことはできる。
「親父、あんたを雇わせてもらうぞ」
俺がそう言った瞬間にエドワルドは目を見開き、親父は何度か目を瞬かせてから楽しげにニヤリと笑った。
「……俺を雇う?」
「あんたはまだ傭兵だろ? こうしてギルドに所属してる証があるんだし、あんたは前に言ってたしな。自分はまだ傭兵ギルドに所属してるって」
俺はそう言いながら服の内側に入れておいたカードを取り出し、親父へと渡した。
それは俺が前に旅立つ時に借りた傭兵ギルドのカードだ。いざというときに金が必要になったら使えと言われたが、結局使うことなく終わったためにその存在を忘れていたが、それを今返した。
「あー、そういやあまだ返してもらってなかったな、それ」
「ああ、返し忘れてた。悪い」
「いや、別に使うことねえから構いやしねえよ」
親父はそう言いながら俺からカードを受け取ると、それを軽く眺めてから乱暴にポケットに仕舞い込んだ。
これで、親父は傭兵だ。ここ数年はまともに活動していなかったみたいだが、まだ傭兵の登録自体は取り消されていないし、カードも持っているし、親父が傭兵であることを言い逃れることはできない。
だから、雇うこと自体は可能だ。
もっとも、親父が俺の依頼を受けるかどうかは別だ。そこは親父の判断に任せるしかない。
ここで断られれば別の手でいくしかない。別の手と言っても何かあるわけではなく、俺が直接護衛として戦うか、うちの奴らを雇うかのどっちかなんだけどな。うちの奴らに頼むんだったら、まあ何人かは受けてくれることだと思う。
しかし、そんな俺の考えは無意味なものとなった。
「だが、そうだなあ。元々今回のは頑張った息子へのご褒美なわけだったんだし、道理が通ってんだったら雇われるのは構わねえぞ」
「なっ……! それでは約束がっ……!」
エドワルドは慌てたように立ち上がったが、親父は動じることなく楽しげにニヤリと笑ったまま座ったままだ。
「こいつも言ったように、あくまでもこの話し合いに関しては口出ししないってだけだ。この話し合いや契約以外のことであれば、俺が協力することになんの問題がある?」
エドワルドとの話し合い最中に、その契約に親父の存在を絡めさせるのは最初の見てるだけって約束に反することになる。
だが俺が契約するにしてもしないにしても、さっさとエドワルドとの話し合いを終わらせてしまい、その話し合いの外側で親父を俺個人が雇うのであれば、それはなんの問題もないことになる。
「もしお前が契約が気に入らねえから契約しねえでこいつのことを狙うってんなら、それは話し合いの範疇から外れたことだから俺が好きに手を出しても問題ねえだろ? こいつと契約した上でお前がその契約を破ってこいつを狙うってんなら、お前は俺の敵に回ることになるが……それで構わねえか?」
「かまいますよ。構うに決まっているではないですか。確かに、理屈の上、言葉の上ではそうかもしれませんが、その雇う相手があなたとなると話は違うでしょう」
「違わねえさ。少なくとも、理屈と言葉の上ではな」
正道ではない抜け道ではあるが、抜け道も『道』だ。
今回の話、俺は真っ当に契約しようと思っていたのに、俺を侮り、欲をかいて無茶をふっかけてきたのはそっちだ。
俺だって普通の契約だったら親父を持ち出したりなんてしなかった。だが、よりのもよって武力を持ち出したんだからそれなりに対処させてもらうに決まってんだろ。
多分俺が相手であり親父が手を出さないってことで安堵したんだろうな。
「さあどうしますか? このままだとそちらの利益が削れるどころか、損害まで出ることになるかもしれませんが」
俺がそう言うと、エドワルドは負けを認めたのか諦めるようにため息を吐き出しゆっくりと椅子に座り直した。
「……ふう。やはりあなたの言った通りになりましたね」
「だろ? 俺より出来がいいんだ。こんなところで転ぶようなやつじゃねえってもんだ」
だが、椅子に座り直した後のエドワルドはどういうわけか親父と話し始めたが、その様子は先程までの僅かに険悪な様子とは違っていた。
突然変わったその様子から、俺はあることを察した。
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2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
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