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14章
勇者との話を振り返って
しおりを挟む「おい、寿命が縮んだぞこの馬鹿!」
「そうです。何をやってるんですか!」
勇者達と別れた後、俺は勇者達を案内した宿のすぐそばで待機していたカイル達と合流することにしたんだが、合流した瞬間怒られてしまった。
「事前に話をされていましたし、私達も納得しましたが……あのような態度で、とは聞いていませんでしたが?」
そして、カイルとベルほどではないが、ソフィアにも苦言を言われてしまう。
だがまあ、これは仕方ない。今回のは俺が悪いんだから。
今回は事前に話し合って決めたし、三人とも納得してくれたが、あんなふうに勇者達を怒らせて敵対関係になることは計画になかった。
なのに俺は、勇者達が武器に手を伸ば巣ような状況を作ったんだから、そりゃあ怒るのも仕方ない。
ただ、言い訳をさせてもらうなら、あいつらにはこの街を理解させないといけないと思ったんだ。なにも分からないまま、ただお綺麗なままで見下されるのはどうしても気に食わなかった。
「いや、まあ……すまん。あの勇者と話してると、どうにも一言言ってやりたくなったんだ」
「一言どころではない気がしますが、まあいいでしょう」
俺が謝罪を口にすると、もう済んだことをそれ以上怒ったところで意味はないと思ったのか、ソフィアが仕方ないとでもいう様子でため息まじりに許してくれた。
そんなソフィアの態度を見て、カイルとベルも息を吐き出して気持ちを切り替えたようだ。
「それで、どうだったんだ? まだ正体がバレてないうちに勇者の人となりを見ておこう、ってことだったが……まあ、あんな態度をお前が撮った時点でわかったような気がするけどな」
カイルが言ったように、今回俺が案内役をやったのにはいくつか理由があるが、まず一つ目がそれだ。『勇者の人となりを見る』こと。
一応伝聞では知っていたけど、自分が直接話すのとは訳が違うので、いずれ敵対するのか手を取り合うのかは分からないけど、まずは知っておこうと考えて近づいたのだ。
「まあな。甘い、というよりも、なにも考えてないな。いや、本人は考えているつもりなのかもしれないけど、平和で戦いのない世界での考えが基本となってるから、根本からして〝ズレて〟いる感じだ」
勇者は元々は異世界の平和な国で暮らしていた。それこそ、喧嘩が起こっただけで騒ぎになるような平和すぎる国。そんな場所からこんな戦いばかりの危険な世界にやってきたんだ。意識、認識にズレがあるのも当然だろう。
それはこっちの世界に来てから数年戦いに明け暮れたところで、たやすく変わるような者でもない。何せ、危険だとは言っても、『勇者』の力があれば大抵の場合は命の危険なんてないだろうし、暮らしだって聖国や教会が保障してくれるから、どこかに滞在できる時は貴族のような暮らしだっただろう。そんなんで、この世界に馴染めるわけがないし、本当の意味で理解できるわけがない。
「ですが、ヴェスナー様の印象を植え付けるためでもあった、って言ってましたけど、それはいいんですか? 魔王ってわかってから話したんじゃ、どうしたって先入観で歪んで見えるから、先に道案内の少年と話してのちの会話を穏やかに進める、という意図でしたけど……」
「思いっきり敵意向けてたよな」
今ベルの言った内容が二つ目の理由だ。
いつかそのうち『勇者』と対面する時が来るかもしれない。というか、するだろう。
その時に、最初っから『魔王』と思われて話をするのと、『以前に会ったことのある案内役の少年』の印象が残っている状態で話をするのとでは、その後の結果もだいぶ変わってくるはずだ。
もしかしたら、普通なら戦いになるところを話だけで終わらせることができるようにもなるかもしれない。
……まあ、こっちは望み薄だけど。それは俺があいつらに対して喧嘩腰で話したからって理由もあるけど、それは大した理由ではない。
元々戦うつもりがないんだったら『勇者』をこんなところに送ってくるわけがないんだから、俺の態度や印象如何に関わらず向こうは戦うつもりがあるってことだ。だから俺のやったことなんて大して影響はしないだろう。
「まあそれは……普通だろ。この街の奴らなら会話の最中に敵意や悪意を挟むのは普通だって。だから大丈夫だ。多分」
それに、喧嘩腰で敵意を向けられるとか、この街じゃ普通だ。ちょっと気に入らないことがあるとそうなるんだから、おかしなことでもないさ。……まあ、迂闊だったことは認めるけど。
「それからもう一つ。聖国の現状については何か成果はありましたか?」
「あったといえばあったが……リリアはいるか?」
ソフィア達は離れたところに待機していたからだろう。俺たちの会話の内容は聞こえなかったのか、そう問いかけてきた。
だが、その問いに応える前に、少し確認しておきたいことがあったのだが……
「リリア? ああ。あいつなら監視の途中で暇だからってどっか行ったな」
どうやら、確認しようと思った人物であるリリアはいなくなったようだ。
まあ、監視って言ってもただ歩いてるだけだったし、戦いも起こらなかったからリリアからしてみれば退屈だっただろうな。
でも、いないなら仕方ない。どうしても確認しておきたかったってわけでもないし、このまま話を進めよう。
「じゃあ、お前らは最近この周辺で何かしら異常が出たとか聞いてるか? 主に植物関連で」
「いえ、存じません」
「私もです」
「俺もだな。でも、そう聞いたってことは、何かあるのか?」
俺はカイルの問いかけに頷いてから説明をし始める。
「前もって『影』から情報は入ってたけど、やっぱり植物達に異常が出てるらしい。それも、一部で収穫量が減ったとかじゃなくて、ガッツリと聖国全体のものが全滅だそうだ。でも、こっちのは何の影響もなくって不思議だな、って感じのことは話したな」
聖国に送り込んだ『影』からの情報は入っていたが、勇者達からの言葉も同じとなると、本当に本当なんだろう。
別に『影』達を信じていなかったわけじゃないけど、それでもいろんな角度から情報を確認するのは当然だし、その方が信憑性が増す。しかもその相手が聖国の中心に近い奴らだとなると、この情報に関しては確定だと思ってもいいだろう。
あの勇者なら嘘をついている可能性もないだろうし、聖国がそんな嘘をつく必要もない。
だから、聖国では本当に植物が枯れているのだと判断できる。
だが、そこまで大規模な異変があったというのに、すぐ隣にあるこの国では何の異変もない。
カイルが聖樹を見上げたので、それに釣られて俺も視線を上へと向けるが、聖樹——フローラの本体には何の影響も感じられない。
「……元気だよな」
「ああ。この街の周辺にいる植物たちはなんの害も出てない」
スキルを通じて『みんな』にも話を聞いてみたが、特にこれと言った異変は起こっていないようだった。
「ですが、聖国の方ははっきりと、ですか」
「ああ。それも、ちょうど国境を境に変化しているらしい。今も聖国の方の奴らに確認してみたけど、やっぱり何にも返事はこない」
「生け花なんかもですか? 普通は部屋に飾ってあったりするものですよね?」
「そっちも全滅なんだろうな。飾る余裕があるくらいなら食べてるんじゃないか?」
花も種類によっては食べられるし、植物全てが枯れてしまっているような状況では生け花であろうと食べることもあるだろう。それにそもそも、生ける花自体が採れるかも分からない状況だし、なくてもおかしくはない。
「で、だ。そんな感じだから植物をどうにかする方法を探している、って言ってたな」
「では、勇者がこの場所に来たのもそのためでしょうか?」
「少なくとも、あの勇者はそう思ってる感じだな。まあ、『上』の意図がどうなってるのかは分からないし、あの『聖女』と『神盾』の二人は内心どう思っているか、どんな命令が下されているのかは分からないけど」
あの勇者は解決方法を探しているとかそんなことを言っていたが、でも、それだけの理由で勇者を送り込んでくるのか、という疑問はある。それも、あんな間抜けをだぞ?
この街は危険だし、それなりに武力があったほうがいいのは確かだ。普通に過ごす以外でも、何か必要な場合に力技でどうにかすることもあるかもしれないから、そういった場合のことを考えると勇者という戦力は送り込むのに相応しいように思えなくもない。
だが、それは智略に長けていたり、そうでなくても腹芸のできるやつだったらの話だ。
あんなうっかりで情報を漏らすような、リリアとは違う意味で頭お花畑なやつを『調査』あるいは『調達』のために送り込んでくるなんて理解できない。
それよりは、勇者は騙されていて、実際には別の何か目的があると考えた方がしっくりくる。
できることならその辺がわかっていればよかったんだけど、この国に入ってからあの聖女も神盾も裏の事情についてなんて話していなかったからなぁ。声にしていないことは流石に分からないので仕方ない。
「それから、あいつら魔王に会いたいらしいぞ? どうすれば会えるのか、なんて聞いてきたし」
勇者との話で一番大きな内容といえば、それだろう。
「それは……やっぱり魔王を倒すためか?」
「どうだろうな? あの勇者自身は戦う意思はなさそうな感じだったけど、何せ『勇者』と『魔王』だしなぁ」
どんな目的で『勇者』が『魔王』に会いたいと思っているのかはさっぱりだし、何とも言えない。
異変に対処するための薬、あるいは解決法を探すように協力要請をしに来ただけかもしれないし、生き延びるための支援を頼みに来たのかもしれない。本当に『勇者』として俺を倒しに来た可能性だってある。
「何だったら、今回の植物の以上は全てヴェスナー様が裏で糸を引いている、なんて考えるかもしれないですね」
「ありえない話ではないですね。何せ相手は『勇者』であなたは『魔王』なのですから。疑いを持つことは当然といえば当然でしょう」
ベルとソフィアはそんなふうに話をしているが、確かにその可能性もない話ではないだろう。
ただ、あの勇者の様子からして戦いに来たって感じでもないような気がする。戦いに来たにしては、何というか気が抜けすぎている感じだ。
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