500 / 589
15章
聖樹に向かって出発
しおりを挟むだが、そんな俺の態度を見て、リリアはムッと唇を尖らせてこっちを見つめてきた。
「……でも、わたし可愛いでしょ? 思わず告白しちゃいたくなるでしょ?」
何が不満だったのか……まあ恋愛対象なんかじゃないって言われたのが気に入らなかったんだと思うけど、リリアはそう言いながら右手を頭の後ろに当てて左手を腰に当てるという、なんとも古臭い感じのするセクシーポーズをとっているが、正直似合わない。
「ならないなあ。まあ見た目が可愛いってのは認めるけど」
見た目が可愛いのも、反応が見ていて楽しいのも認めるし、みんなから人気があるのも認めよう。
でも、どこまで行っても友人……と言うよりもペット的な可愛らしさで、恋人枠ではないんだよなぁ。
「でしょお!?」
だが、俺にとっては大した意味を込めていなくても、リリアは俺の言葉がいたく気に入ったようで、パアッと笑みを浮かべると子供がはしゃぐように立ち上がり、婆さんの隣に座った。
「おばあちゃん、わたし可愛いって!」
「そうかいそうかい。それはよかったねえ」
「うん!」
婆さんはリリアの報告を楽しげに聞くと、その頭に手を伸ばして優しく撫でている。
頭を撫でてもらってるリリアはというと、そうされるのは嫌いではないようで完全にされるがままだ。
実年齢で言ったらリリアの方が上なんだけどなあ。だってこち百歳だし。婆さんは見た目婆さんでも実際には八十歳程度だろ。
リリアの精神年齢は全くもって百歳に相応しいとは言えないし、本人達が良いなら良いけど。
「話を戻していいか?」
「え、話? ……なんだっけ?」
なんでつい数分前の話を忘れてんだよ。その言葉が原因でさっきまで騒いでたってのに。
いつものことだからもう何も言わないけどさ。
「お前が狙われてるからあんまり俺や婆さんのそばから離れるなって話だ。ただ、俺は数日もすれば聖樹のところに向かうし、婆さんはここに残っていくから俺のそばを離れるなって言ったんだ」
「んー……まあ仕方ないわね! あんたも大変だろうし、わたしが一緒にいてあげるわ!」
こっちが心配してやってんのに、なんで上から目線なんだよ……
腰に手を当てて堂々と言い放つリリア。そんな姿を見て、俺は一度軽くため息を吐き出す。
「まあいいや。それじゃあ、どこか行く時は最低でもソフィアかベルを連れてけ。他の護衛もつけるけど、顔馴染みの方が連れ回しやすいだろ?」
「りょりょりょ!」
……ほんと、どこでそんな言葉を覚えてんだこいつ?
でもまあ、ひとまずはリリアに約束を取り付けることができたわけだし、よしとしておくか。
「魔王陛下。通行証の準備ができましたので、お渡しいたします」
「ああ、出来たか」
三日後。約束していた通り国内の通行証ができたようで、聖女様であるカノンがわざわざ持ってきた。
「それから、聖樹の場所に関して、調査も終えましたのでいつでもご案内できますが、いかがいたしますか?」
「こっちはいつでも良いぞ。明日にでも向かうか?」
「ではそのようにいたしましょう」
俺がこの国に来ることを伝えた時のように、「じゃあ翌日に」と言われる可能性は考えていたんだろう。カノンは特に迷うこともなくさらりと頷いて見せた。
「というわけで、俺はちょっと聖樹の方に向かうが……婆さん。あとは任せてもいいか?」
カノンから許可証を受け取った俺は部屋の中へと戻っていき、リリアを相手に猫じゃらしで遊んでいた婆さんへと声をかけた。
「ああ、構わないよ。せいぜいあんたが戻ってくるまでに、この国の上層部の半分くらいは骨抜きにしてやろうじゃないか」
「そんなにやらなくてもいいんだが……まあ、協力者が増えるのは単純にありがたいな」
婆さんは猫じゃらしの動きを一旦止めると、リリアの頭に手を置いて撫でつつ肉食獣が如き笑みを浮かべた。
この様子からしてだいぶはっちゃけるつもりなんじゃないかと思うが……上層部の半分って、それもう国として終わってるだろ。
「でも、気をつけろよ。最悪の場合は俺たちのことは無視して逃げ出してもいいからな」
婆さんならまず問題ないと思うけど、それでも現状は何をされるか分かったもんじゃないんだ。もし婆さんが殺されでもしたら、それはただの『損害』なんて言葉じゃ言い表せないほどの被害になる。
仮に見捨てられたところで俺達はどうとでもできるんだから、もし死にそうな場面があったとしたら、迷うことなく逃げてほしい。
「はいよ。——にしても、あんたも父親に似て過保護だねえ。あいつはあんたに対してで、あんたは仲間に対してだけど」
「トップが自分の配下を気にするのは当たり前だろ。何せこっちは命を預かってるんだ。それが出来ないなら、トップの座なんて捨てた方がいい」
自身の配下を守るのが王の役目だ。
時には小を切り捨てて大を拾うことを選ばないといけないことだってあるだろう。それは仕方のないことだ。より多くの配下を救うためには非情な決断をしなければならない場合があるのは理解している。
だが、それは最終手段だ。
小を切り捨てるってのは、国を守るため、配下を守るためにどうにかしなければならないが、それでもどうしようもない時に少しでも救うために選ぶ選択で、最初から切り捨てることを選ぶ王なんてのは二流だ。
自分の意志を通すだけの力がないから……弱いからきり捨てなくちゃいけない。つまり、危険に対する備えが足りなかったってことだ。ほら、二流だろ?
もっとも、その〝いざ〟って時に小を切り捨てることさえ選べないのなら、そいつは三流で、そもそも民のために、配下のためにと考えることができないやつは論外。そんなやつらはトップになるべきではない。
まあ、二流も三流も、どっちみち俺が目指す道じゃないけどな。
俺は誰も切り捨てないで済む一流を目指す。言うなれば、一流の悪だな。
……なんか、この言い方だとリリアと同類に思える気がするんだが、気のせいだな。あくまでも言葉が同じなだけで、そこに込められた意志は違う……はず。
「ま、なんにしてもこっちは大丈夫だよ。あんたもせいぜい気をつけな。待ち伏せされる可能性も、十分に考えられるんだからね」
「大丈夫だって。建物ないならともかく、外なら俺に奇襲をかけられる奴はいないよ」
遠くにいる植物たちと話すことは相変わらず出来ないが、周囲にいる奴らと話をするくらいならできる。
寝ている間でも、寝る前に周辺に植物を育てておけば絶対に敵の奇襲は失敗することになる。
だって、いくら物音を立てないように動いたとしても、気配や姿を消したとしても、足元にある植物を踏んだらわかるんだからどうしようもない。
そんなわけで、俺は翌日から聖樹の調査に向かうことになった。
だが……
「随分と大所帯だな」
今回は食料なんかの大荷物を運ぶ予定もないので、連れて行く人員は多少の護衛とエルフ達と身の回りの世話をする者。合わせて二百人くらいだ。
だが、これだけなら流石に俺だって『大所帯』だなんて言わない。連れてきた人数の方が多いんだしな。
だが、俺たちが聖樹の元へと向かうのに際して、どういうわけか聖国側からも護衛という名目で人が集められていた。
その数はざっと五百。こっちの倍以上の数だ。
合計で七百以上。どう考えても多いだろ、これ。
「流石に他国の王に護衛もつけずに放り出すというのは出来ませんので。煩わしく感じるかもしれませんがご容赦ください」
だとしても、これだけの数を揃えたりはしないもんだと思うけどな。だって、連れて行くにしても、そもそも襲われることなんてないだろうし。
現在は植物が枯れていることで危険な動物や魔物はいなくなっているだろう。
地面に潜っていて植物や動物を必要としない魔物ならばいるだろうから襲われることがあるかもしれない。だが、そういう魔物達は基本的に人間を襲わない。
なら盗賊達はというと、盗賊なんかは俺たちを襲ってこないはずだ。何せこれだけの人数がいるんだからな。盗賊って言っても所詮は数十人程度のものだろうし、勝ち目のない、あるいは薄いと思われる勝負は仕掛けてこないはず。
そもそも、聖国の国旗と教会の紋章を掲げているんだから傍目からでも関わっちゃいけない系のやつだとわかるだろうし、その旗を見ただけで襲うのをやめる奴らだっているだろう。
だから追加の護衛役なんて必要ないし、あったとしても聖国の所属であることを示すための少数でよかった。精々百人程度か? これだけの数を揃える必要なんて全くないのだ。
にもかかわらずこれだけの数を用意したってことは、そこには当然意味があるわけで……
「ああ。監視は必要だろうし、チャンスがあれば暗殺するためにも戦力は必要だろうからな。気にしないさ」
聖女の頬がひくついてる気がしないでもないが、気のせいだろ。
何せ相手は『聖女』だぞ? そんな何かを企んでいるなんて、あるわけないじゃないか。
だからその企みをこうも堂々と指摘されたから頬をひくつかせるとか……ははっ。ないない。
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる