私はヒロインになれますか?

水瀬 こゆき

文字の大きさ
8 / 14
一章

私はお偉いさんですか?

しおりを挟む

 「すみませんでしたぁぁぁ!!!」

魔王サマがいきなり土下座を披露してくれたけど、何のことやらさっぱりわからない。いや、分かるけれども。思い当たる節は一個だけあるけれども。

 「え……いや、魔王サマ?何やって…」

 「そこの君!早く!早く牢から出して差し上げて!」

 土下座をやめさせそうとするカトレアの声を遮り、魔王は未だに頭を下げていた護衛に牢の鍵を開けるよう指示を出した。そして即座に鍵を開け、牢の外へと誘導されたカトレアはと言うと苦笑いだった。

 あちゃーー。どうしよう。
やっぱり名乗るんじゃなかったな。
牢屋でニート生活を送るという夢のような生活が一瞬にして終わってしまった…。いやでも、魔王サマに名を問われて答えなかったらもう斬首ものでしょ。
なら、ニート生活は諦めるか?
いいえ、諦めるわけがないわ!!
こうなったら最初の作戦通り、魔王サマに養ってもらおう。

 「えー…と、魔王サマ?取り敢えず土下座はやめません?」

 初対面で魔王サマに土下座を披露された人間なんて今まで聞いたこともない。後で誰かに難癖をつけられても困るし、そもそも私の精神的にきついし、土下座は勘弁してほしい。

 「でも……!!」

 それでも尚、渋る魔王に再び苦笑してしまう。この魔王サマは就任してからまだ6年のはず。カトレアは魔族のことは全く知らないので、魔王の種族も年齢も性別も名前も経歴も、一切知らない。
 声は低かったから恐らくは男性だろう。
種族はわからないが先程までのカトレア同様、黒いフードを深くかぶっているので顔はよく見えない。フードからは二本の角が生えている。あの角は本物だろうか?どうも嘘くさい。まあただの勘だけど。

 「魔王サマ。私のお願い、聞いてくれます?」

 目を細めてそう聞くと、首の関節大丈夫ですかと聞きなくなるくらいカクカクと首を縦に振ってくれた。

 「はい、もちろん!何なりと!!」

 「じゃあ、土下座をやめて下さい。後ろのお二人もです。土下座はやめて、普通に立ってもらえますか?」

 ニッコリ笑顔でお願いをすると、御三方はそれはそれは素直に言うことを聞いてくれた。
 
 どうして魔王サマともあろうお方が私のような小娘に頭を下げたのか?
それには当然理由がある。 

 六年前、彼が魔王に即位した後、私の元に書状が届いた。宛先はカトレア・メルシェで送り主は魔王サマ。そこに魔王サマの本名が書いてあった気がするけれど、残念ながら一文字も覚えていない。

 書状に書いてあったことは極めて単純なことだった。魔王とカトレア・メルシェで個人的に協定を結ぼうと言うものである。
魔王はカトレア・メルシェに今後一切危害を加えないから、カトレア・メルシェも魔王に危害を加えないと約束してほしい、という内容だったはずだ。

 カトレアは当然この提案を受け入れた。
『魔王殺しの一族』の生き残りであるカトレアにとっての唯一の脅威とも言える魔王が自分に危害を加えないと約束してくれるのだから、受け入れるに決まっている。

 さて、それを踏まえて今の状況を考えてみよう。魔王本人がしたことではないとはいえ、部下の行動は上司の責任。つまり、カトレアを牢に入れたのも、魔王の責任になるのだ。 
これは立派な協定破りである。
だから、魔王は今ここでカトレアに殺されても文句は言えないのだ。
まぁ、カトレアにそんな気力と体力は一切ないため杞憂なのだが。

 「あのーー……取り敢えず、ここで話をするのも何だからどこか別の場所に案内してもらいたいのだけど」

 土下座をやめて立ち上がったきり、カトレアの顔色を伺うばかりで何もしようとしない三人に遠慮がちに告げてみると、喜んで魔王城の中に入れてくれた。
 
 「で……魔王サマ?例の協定、覚えてます?」

 やたら煌びやかな部屋に通されるなりそうたずねると、魔王サマは大きく肩を震わせた。
 さっきから思ってたけど……もしかしてこの魔王サマ、超ビビりだったりしますかね?

 
 ***************

 そろそろクリスマスです!
良い子の皆さん、サンタさんはまだ来てくれていますか?
うちの家にはまだサンタクロースがきます。
そして、我が作品のヒロインには……
サタンコロースがやって来ます!

 てか何だよサタンコロースって。
怖いよ、夜中に夢に出て来そうで怖いよ。
そもそも誰だ、こんなしょうもない親父ギャグみたいなネタ考えたの!
知ってます。私ですね。知ってます。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

ぱんだ
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...