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第一章 怖くて偉大で大きな木
2.生贄
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星が輝いている。空には綺麗な星々が点々とバラ撒かれており、それぞれが必死こいて発光しているのがわかる。何とも美しい空だろうか。
なぜこんな日に限ってこんなにも綺麗な夜空が蔓延しているのか。
ザサはふと上を見上げて思う。
皮肉なものだ。私たちのことなど天は気にも留めないのだろうな。
今、私たちはある意味で窮地である。誰を死なせるかの話し合いをしているようなものだ。
「うぐっ…えぅ」
静寂に包まれたこの場では泣いている少年の嗚咽する音しか聞こえない。村の者たちは言葉を発せない。
少年を一人死へと向かわせる、そんな残酷なことをしなければならないこの状況。
ザサも何を言えば良いのか、言葉に詰まる。
どうすれば良いか。いや、どうしたとしても希望の未来はこない。必ず、ことの終わりには村人たちの心に絶望感がまとわりつく。
「……」
「なっ……⁈」
静かであるこの広場で一人の少年が手を挙げた。それは恐れを持たない、しっかりとした強い表情を持つ男の子であり、
「フウ?」
村の長ザサの息子であった。
「僕が行くよ。」
決定的な一言。
自分が死ぬことをいとわない意思を持った言葉。皆を守る意思を持った男の子。
ザサの耳にはしっかりと息子であるフウの言った言葉が入っていた。ひるまず、村を守るために自分がいく、そういった目を向けられたザサは言葉が出てこない。
村の長の息子として村を守るために死地へ行く。その心意気は他の人にはできない。
ザサは自分の息子として誇りに思い、自慢の息子だと声高に言うことができるだろう。
だが、ザサは家族として、父親として、息子を見放したくはなかった。私情を挟んでいることはわかっている。
それでも、息子には…「行く」と言ってほしくはなかった。
自分によく似た子だと自負している。同年代からの信頼も厚く、責任感を持ち、リーダー質のある少年だと我が息子ながら思う。
しかし、そうだとはいえここでその責任感をここで発揮してほしくはなかったことはザサの心の本音であった。すると、
「ダメだよ…」
一つの言葉が飛んだ。それは、フウに向けられた言葉であり、フウとよく一緒におり、遊んだりもしていた一人の少年の声だった。
その少年の声音は涙ごもっており震えていながらも勇気を振り絞って発したことがわかった。
「…キト」
フウは最も仲のいい友達、キトに眼差しを向ける。その瞳には固い意志と勇気、そして少しの諦念が含まれており、目があったキトは思わず萎縮してしまう。だが、
「ダメだよ。フウは行くべき…人じゃない…よ。」
キトは告げる。フウの決意は眼差しで伝えられた。フウの強く固い決められた意志は、否が応でも心に伝わってきた。
キトは涙を流した。しかし、目はフウから背けなかった。
でも、それでも、やはり…友達がいなくなるのは嫌だから。
「フウ、言ってた…じゃないか。ザサさんの後を継ぐのが…夢だって。それは、どうする…の?」
「……」
フウは沈黙する。
キトの言ったことは事実だ。夢をキトに語ってきて、将来の自分像も日頃、思い描いてきたものだ。自分の夢を見捨てることは確かに惜しい。しかし、
「…状況が状況だ。しかたがない…だろ?」
フウは言う。自分の身を案じてくれている友に向かって。
「でも、なんで…フウが行かなきゃ………⁉︎」
キトは心根の感情をフウに告げる。フウが行ってほしくないというのはまぎれもないキトの本音だ。
しかし、今のキトの発言はあまりにも無粋であった。
フウの眼差しが少し鋭くなる。キトも思わず息を飲んだ。
フウは静かに視線を緩め柔らかな口調でキトに対して告げた。
「じゃあ、どうする。誰かが行くのか?」
そう言われたキトは何も言い返せない。
この場で言うべき台詞、それは「代わりに僕が行く」なのだろう。
しかし、その言い分は胸の奥底から出てこず、キトは沈黙しか生み出せなかった。
決してキトの心が弱くて脆いわけではない。誰だってここでは黙ってしまうものなのだ。死ぬのは誰しも怖いことであるのだから。
「誰かがやんなきゃいけない。やらなきゃ、死人が増えるだけだ。それはお前も知ってるだろ?」
「……」
キトは黙ってしまう。最も仲が良く自分にはもったいないくらいの友達。フウが言うことは決して間違ってはいない。
言い返せない。でも、行ってほしくはない。
この日が永遠の別れだなんて、思いたくなんてないのに。
「フウは…死ぬのは…怖くないの?」
ふと、思わずそういった言葉を言ってしまった。自分の心の内に渦巻いているこの感情をフウにはないのだろうか。
またもや、無粋の質問をしてしまったのかもしれないが、キトはフウに対してこれを聞いておきたいと思っている自分がいた。
「…怖ぇよ。怖いし、寂しい。」
フウは正直にキトに対してそう告げる。
自分の今の心境を包み隠さず、友に伝えた。
死のことに対して考えると、手が震え、足が震え、体が恐怖に支配される。
が、寂しさというのはそれ以上にフウを苦しめた。
友と一緒に過ごした時間、家族と村のみんなと共に過ごした時間がこの日で終わるのだ。
もう、友と、家族と、村のみんなと過ごせないのだから。思い巡らすと目に涙が浮かぶ。めったに泣かないフウがその夜、大粒の涙を流した。
「俺が…行く」
フウは一言友に告げた。
なぜこんな日に限ってこんなにも綺麗な夜空が蔓延しているのか。
ザサはふと上を見上げて思う。
皮肉なものだ。私たちのことなど天は気にも留めないのだろうな。
今、私たちはある意味で窮地である。誰を死なせるかの話し合いをしているようなものだ。
「うぐっ…えぅ」
静寂に包まれたこの場では泣いている少年の嗚咽する音しか聞こえない。村の者たちは言葉を発せない。
少年を一人死へと向かわせる、そんな残酷なことをしなければならないこの状況。
ザサも何を言えば良いのか、言葉に詰まる。
どうすれば良いか。いや、どうしたとしても希望の未来はこない。必ず、ことの終わりには村人たちの心に絶望感がまとわりつく。
「……」
「なっ……⁈」
静かであるこの広場で一人の少年が手を挙げた。それは恐れを持たない、しっかりとした強い表情を持つ男の子であり、
「フウ?」
村の長ザサの息子であった。
「僕が行くよ。」
決定的な一言。
自分が死ぬことをいとわない意思を持った言葉。皆を守る意思を持った男の子。
ザサの耳にはしっかりと息子であるフウの言った言葉が入っていた。ひるまず、村を守るために自分がいく、そういった目を向けられたザサは言葉が出てこない。
村の長の息子として村を守るために死地へ行く。その心意気は他の人にはできない。
ザサは自分の息子として誇りに思い、自慢の息子だと声高に言うことができるだろう。
だが、ザサは家族として、父親として、息子を見放したくはなかった。私情を挟んでいることはわかっている。
それでも、息子には…「行く」と言ってほしくはなかった。
自分によく似た子だと自負している。同年代からの信頼も厚く、責任感を持ち、リーダー質のある少年だと我が息子ながら思う。
しかし、そうだとはいえここでその責任感をここで発揮してほしくはなかったことはザサの心の本音であった。すると、
「ダメだよ…」
一つの言葉が飛んだ。それは、フウに向けられた言葉であり、フウとよく一緒におり、遊んだりもしていた一人の少年の声だった。
その少年の声音は涙ごもっており震えていながらも勇気を振り絞って発したことがわかった。
「…キト」
フウは最も仲のいい友達、キトに眼差しを向ける。その瞳には固い意志と勇気、そして少しの諦念が含まれており、目があったキトは思わず萎縮してしまう。だが、
「ダメだよ。フウは行くべき…人じゃない…よ。」
キトは告げる。フウの決意は眼差しで伝えられた。フウの強く固い決められた意志は、否が応でも心に伝わってきた。
キトは涙を流した。しかし、目はフウから背けなかった。
でも、それでも、やはり…友達がいなくなるのは嫌だから。
「フウ、言ってた…じゃないか。ザサさんの後を継ぐのが…夢だって。それは、どうする…の?」
「……」
フウは沈黙する。
キトの言ったことは事実だ。夢をキトに語ってきて、将来の自分像も日頃、思い描いてきたものだ。自分の夢を見捨てることは確かに惜しい。しかし、
「…状況が状況だ。しかたがない…だろ?」
フウは言う。自分の身を案じてくれている友に向かって。
「でも、なんで…フウが行かなきゃ………⁉︎」
キトは心根の感情をフウに告げる。フウが行ってほしくないというのはまぎれもないキトの本音だ。
しかし、今のキトの発言はあまりにも無粋であった。
フウの眼差しが少し鋭くなる。キトも思わず息を飲んだ。
フウは静かに視線を緩め柔らかな口調でキトに対して告げた。
「じゃあ、どうする。誰かが行くのか?」
そう言われたキトは何も言い返せない。
この場で言うべき台詞、それは「代わりに僕が行く」なのだろう。
しかし、その言い分は胸の奥底から出てこず、キトは沈黙しか生み出せなかった。
決してキトの心が弱くて脆いわけではない。誰だってここでは黙ってしまうものなのだ。死ぬのは誰しも怖いことであるのだから。
「誰かがやんなきゃいけない。やらなきゃ、死人が増えるだけだ。それはお前も知ってるだろ?」
「……」
キトは黙ってしまう。最も仲が良く自分にはもったいないくらいの友達。フウが言うことは決して間違ってはいない。
言い返せない。でも、行ってほしくはない。
この日が永遠の別れだなんて、思いたくなんてないのに。
「フウは…死ぬのは…怖くないの?」
ふと、思わずそういった言葉を言ってしまった。自分の心の内に渦巻いているこの感情をフウにはないのだろうか。
またもや、無粋の質問をしてしまったのかもしれないが、キトはフウに対してこれを聞いておきたいと思っている自分がいた。
「…怖ぇよ。怖いし、寂しい。」
フウは正直にキトに対してそう告げる。
自分の今の心境を包み隠さず、友に伝えた。
死のことに対して考えると、手が震え、足が震え、体が恐怖に支配される。
が、寂しさというのはそれ以上にフウを苦しめた。
友と一緒に過ごした時間、家族と村のみんなと共に過ごした時間がこの日で終わるのだ。
もう、友と、家族と、村のみんなと過ごせないのだから。思い巡らすと目に涙が浮かぶ。めったに泣かないフウがその夜、大粒の涙を流した。
「俺が…行く」
フウは一言友に告げた。
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