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第一章 怖くて偉大で大きな木
5.思考
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「……」
ズビシッ。
「痛ってぇよ!何すんだいきなり⁈」
カウラはラザクに向けて横腹を手刀によって殴りつけた。ラザクの鍛えられた腹筋にも痛覚を与えられるようにそれはもう容赦なくだ。
ラザクは思いの寄らないまさかの横からの攻撃に訳がわからないと声音を上げる。
「あなたは……。どこまで…。」
不服そうに反発するラザクを他所に、カウラは悲観気味に呟く。それから、目を伏せながら長く重たいため息をした。
この男の、場を弁えない言動などもはや慣れっこだ。指摘するだけ無駄だと今までの付き合いから理解している。
「なんだよ。俺ぁ、なんかしたかよ。」
「……」
カウラは真横にいる男の自分のしたことがわかっていないと言った様子に不満げな表情を盛大に向ける。そして、そうだなこれだけは言っとこう、と目を細め男を睨め付け、口を尖らせて伝えた。
「話の流れをもっと読めないのですか?人と会話するときの順序というものをもっと察してください。」
「んだよ、そりゃ、別にいいだろそんなもん。話ができりゃあよ。」
「………」
額に手を据えながらカウラは呆れたように目を伏せる。
だからあんたの素っ頓狂な会話術じゃまともに話もできないって言ってるんですよ脳筋め、とカウラはもう一度ため息をしながら胸中で文句を垂れて。
「怪物…と、言いましたかな?」
ふと、そんな二人の言い合っている様子に別のところから声がかけられた。
カウラとラザクのやり取りにより二人がどのような人間性なのかわかってきた様子のザサ。その老人の問い質す、静かな声である。
そんな声音を耳にした二人もザサに対して顔を向けた。
「お二方は見てくれから考えると悪い人ではなさそうだ。一先ず村へ入りますかな?話はそこからしましょう。」
ザサは柔らかな口調で二人を村内へと招き入れる。だが、その言葉に対し大柄な男はザサに向かって言いつけた。
「いいのか?おっさん。そっちから見たら俺たちは得体の知らない二人組なんだろう。何するかわからねえ、素性も知らねえ二人組だ。そんな奴らをひょいひょいと村に入れちまってよ」
ラザクはザサに対して威圧気味にそう告げた。
だが、ラザクが少し警戒するのも無理はない。
ザサから見たらこの村に来た二人は出会ったこともない初見の人間だ。
身なりには武具を着飾っており、男の腰には剣が備わっている。はたから見れば、恐るに足る見た目なのだ。
「……」
カウラはラザクの言い放った言葉とそれを聞いたザサの行為を注視していた。
たしかにラザクの発言は間違ってはいない。このザサという老人、自分達二人を見てすぐに招き入れることに躊躇いがなかった。たった今この村にたどり着いた自分達を、だ。
信憑性などどこにもあるわけではないだろうに。見てくれだけじゃ信頼できる人間かどうかなど曖昧だ。少なくともそれのみで判断して良い根拠にはならないだろう。
「…怪物。」
「あ?」
二人がザサの前で怪訝な様子をしていると一言そう告げられる。
「怪物…と、おっしゃっていたでしょう。それに関することならばこちらからもお話しすることがありますので。」
ザサは若者二人に背を向けながらそう答えた。それはどこか切羽詰まっているような、それでいて諦念の感情が含まれているような声音だった。
ザサは二人にそう告げると颯爽と村内へと歩いていく。
「どうする。あのおっさんについていくか?」
「疑わしきことはありますが、ついていかなければ進展しないこともわかっている状況です。まあ、仮に鬼が出ても蛇が出ても私達二人なら問題はないでしょう?」
「違いねぇ。決まりだ。」
ラザクはカウラからそう言われるとニタァと口に笑みを浮かべた。まるで、外で無邪気に遊び尽くす童子のような、はたまた、凶笑とも言えるような表情で。
ーーーーーーーーーーーーーーー
村内へ入った二人は村の長ザサの向かった民家へと歩いた。
古風な家造りであり、屋根は藁で覆われている。
そのまま、家の前へとたどり着くとザサに「どうぞ、中へ」と告げられ、言われた通り、家内へと上がる。
一つの座敷に招かれ、それぞれラザクとカウラ、そしてザサが囲炉裏を間に対面するように座る。ラザクは胡座をかいて座り、残り二人は正座して座った。
「しみったれた村だな。誰一人として俺たちに目を向けねぇ。」
「…そうですね。私たちと関わりを持ちたくないように感じましたよ」
カウラとラザクは村に入った感想をそれぞれ告げる。村の長に招き入れられたのだが、思いの外、というよりすこぶる歓迎されてないといった印象を受けた。
「みんな恐れているのですよ。未知の人間というものはわからないことが多いですからね。」
「…ふーん」
ラザクはザサのその発言に怪訝そうな顔を浮かべる。たとえ見知らぬ者だとしてもあれほど警戒するだろうか。
同じ心境であるカウラはザサに対して疑わしき心を削がないよう心がける。
「恐れているってならぁ、あんたは随分すんなりと俺たちを家に入れたなぁ。」
ラザクは己の疑念を表へ出し、ザサに告げた。どうもこの老人の思惑がつかめない。
そのラザクの言葉にザサは二人を招き入れた理由を告げる。
「言ったでしょう。怪物に関する話をすると。」
「ええ、そうですね。そのことについてこちら側も知りたい点ではあります。その怪物についての詳細をこちらは聞かせてもらえると思ってもよろしいですか?」
カウラはザサに向かって会話の内容を曲げないようにと、だめ押ししておく。かつ、慎重に言葉を選び、自分達の要求する事柄を知るようにと釘を打つ。
だが、その心配はどうやら不要だったようでザサ自身に怪物について話す意思はあるようだ。しかし、
「…ええ、話しましょう。しかし、あなた方が、何用でこの村に来たか。その内容次第ではこの村からお引き取り願いたい、というのも付け足しておきます。」
カウラとラザクは揃って目を見開く。目の前にいる老人から言われたことに理解するのには時間はかからなかった。
老人であるザサは静かに目の前にいる二人を見据える。
ザサと二人の間にある囲炉裏の火がカチカチと音を掻き立てていた。
ズビシッ。
「痛ってぇよ!何すんだいきなり⁈」
カウラはラザクに向けて横腹を手刀によって殴りつけた。ラザクの鍛えられた腹筋にも痛覚を与えられるようにそれはもう容赦なくだ。
ラザクは思いの寄らないまさかの横からの攻撃に訳がわからないと声音を上げる。
「あなたは……。どこまで…。」
不服そうに反発するラザクを他所に、カウラは悲観気味に呟く。それから、目を伏せながら長く重たいため息をした。
この男の、場を弁えない言動などもはや慣れっこだ。指摘するだけ無駄だと今までの付き合いから理解している。
「なんだよ。俺ぁ、なんかしたかよ。」
「……」
カウラは真横にいる男の自分のしたことがわかっていないと言った様子に不満げな表情を盛大に向ける。そして、そうだなこれだけは言っとこう、と目を細め男を睨め付け、口を尖らせて伝えた。
「話の流れをもっと読めないのですか?人と会話するときの順序というものをもっと察してください。」
「んだよ、そりゃ、別にいいだろそんなもん。話ができりゃあよ。」
「………」
額に手を据えながらカウラは呆れたように目を伏せる。
だからあんたの素っ頓狂な会話術じゃまともに話もできないって言ってるんですよ脳筋め、とカウラはもう一度ため息をしながら胸中で文句を垂れて。
「怪物…と、言いましたかな?」
ふと、そんな二人の言い合っている様子に別のところから声がかけられた。
カウラとラザクのやり取りにより二人がどのような人間性なのかわかってきた様子のザサ。その老人の問い質す、静かな声である。
そんな声音を耳にした二人もザサに対して顔を向けた。
「お二方は見てくれから考えると悪い人ではなさそうだ。一先ず村へ入りますかな?話はそこからしましょう。」
ザサは柔らかな口調で二人を村内へと招き入れる。だが、その言葉に対し大柄な男はザサに向かって言いつけた。
「いいのか?おっさん。そっちから見たら俺たちは得体の知らない二人組なんだろう。何するかわからねえ、素性も知らねえ二人組だ。そんな奴らをひょいひょいと村に入れちまってよ」
ラザクはザサに対して威圧気味にそう告げた。
だが、ラザクが少し警戒するのも無理はない。
ザサから見たらこの村に来た二人は出会ったこともない初見の人間だ。
身なりには武具を着飾っており、男の腰には剣が備わっている。はたから見れば、恐るに足る見た目なのだ。
「……」
カウラはラザクの言い放った言葉とそれを聞いたザサの行為を注視していた。
たしかにラザクの発言は間違ってはいない。このザサという老人、自分達二人を見てすぐに招き入れることに躊躇いがなかった。たった今この村にたどり着いた自分達を、だ。
信憑性などどこにもあるわけではないだろうに。見てくれだけじゃ信頼できる人間かどうかなど曖昧だ。少なくともそれのみで判断して良い根拠にはならないだろう。
「…怪物。」
「あ?」
二人がザサの前で怪訝な様子をしていると一言そう告げられる。
「怪物…と、おっしゃっていたでしょう。それに関することならばこちらからもお話しすることがありますので。」
ザサは若者二人に背を向けながらそう答えた。それはどこか切羽詰まっているような、それでいて諦念の感情が含まれているような声音だった。
ザサは二人にそう告げると颯爽と村内へと歩いていく。
「どうする。あのおっさんについていくか?」
「疑わしきことはありますが、ついていかなければ進展しないこともわかっている状況です。まあ、仮に鬼が出ても蛇が出ても私達二人なら問題はないでしょう?」
「違いねぇ。決まりだ。」
ラザクはカウラからそう言われるとニタァと口に笑みを浮かべた。まるで、外で無邪気に遊び尽くす童子のような、はたまた、凶笑とも言えるような表情で。
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村内へ入った二人は村の長ザサの向かった民家へと歩いた。
古風な家造りであり、屋根は藁で覆われている。
そのまま、家の前へとたどり着くとザサに「どうぞ、中へ」と告げられ、言われた通り、家内へと上がる。
一つの座敷に招かれ、それぞれラザクとカウラ、そしてザサが囲炉裏を間に対面するように座る。ラザクは胡座をかいて座り、残り二人は正座して座った。
「しみったれた村だな。誰一人として俺たちに目を向けねぇ。」
「…そうですね。私たちと関わりを持ちたくないように感じましたよ」
カウラとラザクは村に入った感想をそれぞれ告げる。村の長に招き入れられたのだが、思いの外、というよりすこぶる歓迎されてないといった印象を受けた。
「みんな恐れているのですよ。未知の人間というものはわからないことが多いですからね。」
「…ふーん」
ラザクはザサのその発言に怪訝そうな顔を浮かべる。たとえ見知らぬ者だとしてもあれほど警戒するだろうか。
同じ心境であるカウラはザサに対して疑わしき心を削がないよう心がける。
「恐れているってならぁ、あんたは随分すんなりと俺たちを家に入れたなぁ。」
ラザクは己の疑念を表へ出し、ザサに告げた。どうもこの老人の思惑がつかめない。
そのラザクの言葉にザサは二人を招き入れた理由を告げる。
「言ったでしょう。怪物に関する話をすると。」
「ええ、そうですね。そのことについてこちら側も知りたい点ではあります。その怪物についての詳細をこちらは聞かせてもらえると思ってもよろしいですか?」
カウラはザサに向かって会話の内容を曲げないようにと、だめ押ししておく。かつ、慎重に言葉を選び、自分達の要求する事柄を知るようにと釘を打つ。
だが、その心配はどうやら不要だったようでザサ自身に怪物について話す意思はあるようだ。しかし、
「…ええ、話しましょう。しかし、あなた方が、何用でこの村に来たか。その内容次第ではこの村からお引き取り願いたい、というのも付け足しておきます。」
カウラとラザクは揃って目を見開く。目の前にいる老人から言われたことに理解するのには時間はかからなかった。
老人であるザサは静かに目の前にいる二人を見据える。
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