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第一章 怖くて偉大で大きな木
7.交渉
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「お引き取り願いたい。」
ザサは二人に向けて頭を下げながらそう言い放つ。それは、無理強いや強要といったものではなく、ただ一心に帰宅をお願いをするといった意志の現れだ。
「なんでだよ。なんで俺たちが帰らされる羽目になる?」
ラザクはザサの発言と、この行動に対して納得ができないと奮発する。思わず立ち上がり、片手をふりかぶりながら目前に居座るザサへ言い放った。
「怪物が、いるんだろ?それを退治してやるってのになんで頭を下げてまで帰らそうとする。」
「…ラザク」
「なんだよカウラ。お前も言えよ。わけわかんねーだろ。これはよぉ。」
ラザクは思いの寄らないこの状況に雑言を投げ払う。それを横の相棒にもぶつけた。が、
「ラザク。少し黙りなさい。」
「……ッ!」
怒りに冷徹さが孕んだ一声。
横に座りながらカウラはとても冷たい瞳を宿す。怒気の感情を醸し出しながらラザクに向けて咎めるような強い視線を投げていた。
カウラの冷えた目つきで睨まれれば流石のラザクも背筋が凍りつき、言葉を出すことができない。
「言葉足らずで逸ると、真相に漬け込むことはできなくなる。あなたの悪い癖ですよ。」
「……」
ごもっともであり、さすがに長年戦場で付き合ってきたことだけあってよく見られている。
ラザクはカウラに言われたことを省みる。たしかにカウラの言ったことは間違ってない。
冷静さを欠いた行為だった。
「何か、言うことは?」
「ああ、とちった。すまねぇ。」
「よろしい。」
少し、ヒートアップし、そこから冷徹な空気になったその座敷はひとまず元の空気へと戻る。
カウラはザサへ顔を向けた。
「失礼しました。ザサさん。話の場を荒らしてしまい。」
「いえ…。」
ザサは二人の類いまれなる雰囲気に当てられた面持ちだ。
一人の横暴な獣を彷彿とさせるような罵声。そして、それを一声で沈めた、静かで冷徹な全身を震え立たせるような声音。
カウラは落ち着いた声音でザサへと言葉を投げる。
「ザサさん、私達は仮に今のまま帰っても心残りがあるのみです。できることなら納得させられるような説明をいただかないと。」
「…そうですね。説明不足はこちらも不手際でした。何も語らずにいきなり帰らすなど失礼な行為でした。」
ザサは二人に対して非礼の言葉を並べる。それを見たカウラは少し安堵した様子だ。
「説明してくださるのですね。」
「はい、ですが。説明前に一つ。聞いておきたく、そして言っておきたいことがあります。」
ザサは今から告げる二人の顔を見る。
ラザクという男は黙々と話を聞く様子だ。
カウラという女性はザサの発言に対して不思議そうにキョトンとした顔をしている。いったい、どこから先ほどのような冷気さのこもった雰囲気が出されるのだろうか。
そんな自らの私心は今は関係なく、二人に聞きたいことを言う。
「お二方は先程怪物を退治しにきたとおっしゃっていましたね。」
「そうですね。」
「その怪物とは…天樹様のことですか?」
「……?」
ザサの発言に対して二人は怪訝な顔つきになる。
カウラは思わず眉をひそめた。
天樹様?ここに来て知らぬ単語が出てきた。それについては今まで聞いたこともない。"様"と敬しているあたり神様か何かか?
そう考えるカウラは横のラザクに目を向ける。が、ラザクも『?』といった表情をしていた。彼も聞いたこともない初耳の単語だったようだ。
カウラは思考する。だが、初耳の単語に関して考えても仕方がないと思い、聞くが早いかと判断した。
「失礼、ザサさん。その、天樹様というのは?」
「存知上げていないと。そうですね。天樹様というのはおそらくあなた方のいう怪物のことですよ。」
ーん?どういうことだ。
カウラは沈思黙考する。なぜこの者は…
「なんで怪物に様なんてつけるんだ?」
カウラの熟考をラザクは声に出して代弁してしまう。だが、それはカウラも聞きたくはあった内容ではあった。
「私達村の皆は天樹様に敬意を表しています。故に様をつけるのです。」
「敬意を表する意味は?」
ラザクは続けざまに質問をした。
横のカウラは特に何も言及せず、静かにザサの言葉に耳を向ける。
「そういうしきたりであり、村の掟なのです。」
「なるほど、村の掟。」
カウラはザサの発言に表向きに納得したといった言葉を並べておいた。
だが、ラザクはどうやら、腑に落ちないようであり、
「いや~、でも、掟でよぉ。怪物に様ってつけるか、普通?」
「待ちなさい、ラザク。今質問するべきことは他にあります。」
ラザクの言葉に対しカウラは待ったをかける。
まあたしかにラザクの聞きたいことはもっともだろう。カウラも知りたいところではある。
が、それよりも優先するべきことは
「その天樹様と私達を帰らせたいといったところにはどういった関係があるのですか。」
カウラはザサに対し真相をつく質問を投げかける。それはこの話し合いの場における主要事項の一つでもあるからだ。
「……」
ザサは沈黙する。視線を下に向け、黙考しているようだ。おそらく今から発することは言うべきか言わないべきなのかの瀬戸際なのだろう。
「ザサさん…」
カウラは小さな声音で言う。
「おい、カウラ…」
「…ラザク。」
沈黙の中ラザクはカウラに言葉を投げかけようとする。しかし、カウラはそれを指を口に持ってくることで静かにするようジェスチャーした。
「ザサさんの答えを待ちましょう。」
それを聞き、ラザクも黙り込む。
カウラもその様子を見て安心し、ザサへと意識を向ける。
ザサはそんな中ゆっくりと口を開いた。
「あなた方は見たところ武術において長けている人たちと見受けします。」
「…そうですね。否定はしません。」
「あなた方のことを私達は知らぬため、あなた方がどれほどの実力を持っているのか。私達は理解できませぬ。」
「はい。」
淡々と悲壮感を漂わせながらゆっくりと告げていく。そんなザサに対しカウラは一つずつ、必ず返答する。
「私の心根を伝えるのならば、あなた方と天樹様を戦わせたくは無いのです」
「それはなぜか、答えられますか?」
「それは、天樹様を怒らせてしまったらこの村は崩壊するから…」
ザサは13年前の悲劇を思い出した。多くのものを失ったあの夜を。
「なるほど、天樹様というのはなかなかに凶暴な性格をしているようですね。」
カウラはザサの発言を聞き、そう告げる。そこにはなぜか静かに笑みを浮かべていた。
ザサは言葉を続ける。目にはいつのまにか涙がたまっていた。
「もう、3年前のように私は失いたくはない。13年前のように何かを失う者の姿も見たくはない。あんなことはもう村のみんなだって起こしたくはないんだ。」
涙まじりにザサはそう告げる。
苦しみを味わった。悲しみを味わった。何回も何回も絶望を経験した。最愛の者を失う悲しみは言葉に言い表せれない。
故に、天樹様の機嫌を損ねないよう村全体で辛労した。誰も天樹の元へ向かわないようにし、出したくもない生贄を差し出した。最小限の犠牲で今の村は成り立っている。
「だから、どうか天樹様とは関わらないでくれない…か。」
眼から雫が落ちるとともにザサは震え声で伝える。
それは、二人に対する精一杯のお願いだ。
ザサの言葉を聞いたラザクとカウラ。
ザサの流す涙は二人に悲しさを伝えるのに十分であった。
同時に、天樹という化け物がいかに恐ろしい存在なのかも理解でき、
「………」
その事実は二人の奮起を促すことに十分な糧であった。
「ザサさん。どうやら、天樹様はとても恐ろしく、人々を恐怖に陥れる怪物のようですね。」
「ああ、そうだ。考えただけでも恐ろしい。」
「私達はそのような怪物を専門に戦う者なのですよ」
「…⁈」
ザサは思わぬ言葉に仰天する。関わらないでくれといったばかりなのになぜそのような発言が出てくるのか。
「やめてくれ!戦うなんて言ってくれるなよ。天樹様の恐ろしさをあんたたちは知らないから!」
「それならあんたは俺達の強さを知らねえだろう?」
そういうとラザクは立ち上がった。その若者は闘志を宿しており、体から溢れ出るオーラは恐れを抱くほどだ。ラザクから醸し出される雰囲気には、凄まじく燃えゆるような炎が目に見えるかのようであり、
「でも…あんた達でも死んでしま、………⁈」
ザサの弱気な言葉にラザクの刀身の先が向けられる。いきなりのことにザサは身動きが取れない。向けられた刀身には炎がメラメラと燃え盛っているように感じる。
「なめんじゃねーぞ。おっさん。俺たちはこんなの何度もくぐり抜けてきたんだよ。」
「言ったでしょう?私たちの専門分野だって。」
ザサは尋常じゃない二人の雰囲気に言葉が出ない。メラメラと暑い座敷で口をパクパクさせるしかなかった。
「…ラザク、刀を引きなさい。」
ザサの動揺を見かねたカウラがラザクに忠言する。
ラザクの闘志をまともに受け、ザサは息を荒上げていた。
「大丈夫ですか?」
「…あぁ。」
そんな様子のザサにカウラが落ち着かせるよう助言する。
ある程度ザサの呼吸が沈静したことを覚り、カウラは柔らかな問いを投げかけた。
「ザサさん。怪物狩りの前にもう一つだけ、聞きたいことが。天樹を怒らせてしまった13年前のこと。要因とその時起きた惨状、その辺りを詳しくお聞かせ願えませんか。」
カウラのその言葉にザサは思わず瞠目してしまう。
天樹によってもたらされた悲劇、絶望の感情を何度も味わった夜。それを包み隠さずに全て話していいのか。
未だにザサは躊躇いを消すことができない。
しかし、
「………」
カウラのひたむきな眼差し。正座のまま少し頭を垂れる姿勢は凛としており、気品さが含まれている。
着座しているだけなのにこれほどの美麗さを引き出せるものなのだろうか。
「…お願いします。」
「…なっ⁈」
不意に頭を深く下げ、重みを含めたカウラの嘆願。
思いもしなかったその行為を目にし、ザサは驚愕を隠せなかった。
ザサから見るに、カウラは高貴な家累の出自だろう。身なりに着飾っている衣類や装飾品などからそれらの事実を察することができる。ザサ程度と比べてもカウラが上級族の人物だということは火を見るよりも明らかなのだ。
それほどの人物が額を地につけている。
あまりにも想定外であり、あまりにも特異な光景だ。
「…あなたたちにとってはそれほどのことなのですか。」
「闘いは俺たちの存する理由だ。」
目を落としながら小さく告げるザサに上から言葉が放たれる。こちらを見下ろすラザクからの威勢を含めた声音だった。
ザサは二人を交互に見つめる。そして、小さく嘆息すると、
「…賭けと、なることは既知しています。ですが、あなたたちを信じてみます。この村が、このままの在り方では良からぬことも事実ですから。」
目を閉じて、小さく呟くザサ。
それを聞き、カウラは下げていた頭を上げ、
「ありがとうございます」
と、心から感謝の言葉を告げたのであった。
ザサは二人に向けて頭を下げながらそう言い放つ。それは、無理強いや強要といったものではなく、ただ一心に帰宅をお願いをするといった意志の現れだ。
「なんでだよ。なんで俺たちが帰らされる羽目になる?」
ラザクはザサの発言と、この行動に対して納得ができないと奮発する。思わず立ち上がり、片手をふりかぶりながら目前に居座るザサへ言い放った。
「怪物が、いるんだろ?それを退治してやるってのになんで頭を下げてまで帰らそうとする。」
「…ラザク」
「なんだよカウラ。お前も言えよ。わけわかんねーだろ。これはよぉ。」
ラザクは思いの寄らないこの状況に雑言を投げ払う。それを横の相棒にもぶつけた。が、
「ラザク。少し黙りなさい。」
「……ッ!」
怒りに冷徹さが孕んだ一声。
横に座りながらカウラはとても冷たい瞳を宿す。怒気の感情を醸し出しながらラザクに向けて咎めるような強い視線を投げていた。
カウラの冷えた目つきで睨まれれば流石のラザクも背筋が凍りつき、言葉を出すことができない。
「言葉足らずで逸ると、真相に漬け込むことはできなくなる。あなたの悪い癖ですよ。」
「……」
ごもっともであり、さすがに長年戦場で付き合ってきたことだけあってよく見られている。
ラザクはカウラに言われたことを省みる。たしかにカウラの言ったことは間違ってない。
冷静さを欠いた行為だった。
「何か、言うことは?」
「ああ、とちった。すまねぇ。」
「よろしい。」
少し、ヒートアップし、そこから冷徹な空気になったその座敷はひとまず元の空気へと戻る。
カウラはザサへ顔を向けた。
「失礼しました。ザサさん。話の場を荒らしてしまい。」
「いえ…。」
ザサは二人の類いまれなる雰囲気に当てられた面持ちだ。
一人の横暴な獣を彷彿とさせるような罵声。そして、それを一声で沈めた、静かで冷徹な全身を震え立たせるような声音。
カウラは落ち着いた声音でザサへと言葉を投げる。
「ザサさん、私達は仮に今のまま帰っても心残りがあるのみです。できることなら納得させられるような説明をいただかないと。」
「…そうですね。説明不足はこちらも不手際でした。何も語らずにいきなり帰らすなど失礼な行為でした。」
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「説明してくださるのですね。」
「はい、ですが。説明前に一つ。聞いておきたく、そして言っておきたいことがあります。」
ザサは今から告げる二人の顔を見る。
ラザクという男は黙々と話を聞く様子だ。
カウラという女性はザサの発言に対して不思議そうにキョトンとした顔をしている。いったい、どこから先ほどのような冷気さのこもった雰囲気が出されるのだろうか。
そんな自らの私心は今は関係なく、二人に聞きたいことを言う。
「お二方は先程怪物を退治しにきたとおっしゃっていましたね。」
「そうですね。」
「その怪物とは…天樹様のことですか?」
「……?」
ザサの発言に対して二人は怪訝な顔つきになる。
カウラは思わず眉をひそめた。
天樹様?ここに来て知らぬ単語が出てきた。それについては今まで聞いたこともない。"様"と敬しているあたり神様か何かか?
そう考えるカウラは横のラザクに目を向ける。が、ラザクも『?』といった表情をしていた。彼も聞いたこともない初耳の単語だったようだ。
カウラは思考する。だが、初耳の単語に関して考えても仕方がないと思い、聞くが早いかと判断した。
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「敬意を表する意味は?」
ラザクは続けざまに質問をした。
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「待ちなさい、ラザク。今質問するべきことは他にあります。」
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が、それよりも優先するべきことは
「その天樹様と私達を帰らせたいといったところにはどういった関係があるのですか。」
カウラはザサに対し真相をつく質問を投げかける。それはこの話し合いの場における主要事項の一つでもあるからだ。
「……」
ザサは沈黙する。視線を下に向け、黙考しているようだ。おそらく今から発することは言うべきか言わないべきなのかの瀬戸際なのだろう。
「ザサさん…」
カウラは小さな声音で言う。
「おい、カウラ…」
「…ラザク。」
沈黙の中ラザクはカウラに言葉を投げかけようとする。しかし、カウラはそれを指を口に持ってくることで静かにするようジェスチャーした。
「ザサさんの答えを待ちましょう。」
それを聞き、ラザクも黙り込む。
カウラもその様子を見て安心し、ザサへと意識を向ける。
ザサはそんな中ゆっくりと口を開いた。
「あなた方は見たところ武術において長けている人たちと見受けします。」
「…そうですね。否定はしません。」
「あなた方のことを私達は知らぬため、あなた方がどれほどの実力を持っているのか。私達は理解できませぬ。」
「はい。」
淡々と悲壮感を漂わせながらゆっくりと告げていく。そんなザサに対しカウラは一つずつ、必ず返答する。
「私の心根を伝えるのならば、あなた方と天樹様を戦わせたくは無いのです」
「それはなぜか、答えられますか?」
「それは、天樹様を怒らせてしまったらこの村は崩壊するから…」
ザサは13年前の悲劇を思い出した。多くのものを失ったあの夜を。
「なるほど、天樹様というのはなかなかに凶暴な性格をしているようですね。」
カウラはザサの発言を聞き、そう告げる。そこにはなぜか静かに笑みを浮かべていた。
ザサは言葉を続ける。目にはいつのまにか涙がたまっていた。
「もう、3年前のように私は失いたくはない。13年前のように何かを失う者の姿も見たくはない。あんなことはもう村のみんなだって起こしたくはないんだ。」
涙まじりにザサはそう告げる。
苦しみを味わった。悲しみを味わった。何回も何回も絶望を経験した。最愛の者を失う悲しみは言葉に言い表せれない。
故に、天樹様の機嫌を損ねないよう村全体で辛労した。誰も天樹の元へ向かわないようにし、出したくもない生贄を差し出した。最小限の犠牲で今の村は成り立っている。
「だから、どうか天樹様とは関わらないでくれない…か。」
眼から雫が落ちるとともにザサは震え声で伝える。
それは、二人に対する精一杯のお願いだ。
ザサの言葉を聞いたラザクとカウラ。
ザサの流す涙は二人に悲しさを伝えるのに十分であった。
同時に、天樹という化け物がいかに恐ろしい存在なのかも理解でき、
「………」
その事実は二人の奮起を促すことに十分な糧であった。
「ザサさん。どうやら、天樹様はとても恐ろしく、人々を恐怖に陥れる怪物のようですね。」
「ああ、そうだ。考えただけでも恐ろしい。」
「私達はそのような怪物を専門に戦う者なのですよ」
「…⁈」
ザサは思わぬ言葉に仰天する。関わらないでくれといったばかりなのになぜそのような発言が出てくるのか。
「やめてくれ!戦うなんて言ってくれるなよ。天樹様の恐ろしさをあんたたちは知らないから!」
「それならあんたは俺達の強さを知らねえだろう?」
そういうとラザクは立ち上がった。その若者は闘志を宿しており、体から溢れ出るオーラは恐れを抱くほどだ。ラザクから醸し出される雰囲気には、凄まじく燃えゆるような炎が目に見えるかのようであり、
「でも…あんた達でも死んでしま、………⁈」
ザサの弱気な言葉にラザクの刀身の先が向けられる。いきなりのことにザサは身動きが取れない。向けられた刀身には炎がメラメラと燃え盛っているように感じる。
「なめんじゃねーぞ。おっさん。俺たちはこんなの何度もくぐり抜けてきたんだよ。」
「言ったでしょう?私たちの専門分野だって。」
ザサは尋常じゃない二人の雰囲気に言葉が出ない。メラメラと暑い座敷で口をパクパクさせるしかなかった。
「…ラザク、刀を引きなさい。」
ザサの動揺を見かねたカウラがラザクに忠言する。
ラザクの闘志をまともに受け、ザサは息を荒上げていた。
「大丈夫ですか?」
「…あぁ。」
そんな様子のザサにカウラが落ち着かせるよう助言する。
ある程度ザサの呼吸が沈静したことを覚り、カウラは柔らかな問いを投げかけた。
「ザサさん。怪物狩りの前にもう一つだけ、聞きたいことが。天樹を怒らせてしまった13年前のこと。要因とその時起きた惨状、その辺りを詳しくお聞かせ願えませんか。」
カウラのその言葉にザサは思わず瞠目してしまう。
天樹によってもたらされた悲劇、絶望の感情を何度も味わった夜。それを包み隠さずに全て話していいのか。
未だにザサは躊躇いを消すことができない。
しかし、
「………」
カウラのひたむきな眼差し。正座のまま少し頭を垂れる姿勢は凛としており、気品さが含まれている。
着座しているだけなのにこれほどの美麗さを引き出せるものなのだろうか。
「…お願いします。」
「…なっ⁈」
不意に頭を深く下げ、重みを含めたカウラの嘆願。
思いもしなかったその行為を目にし、ザサは驚愕を隠せなかった。
ザサから見るに、カウラは高貴な家累の出自だろう。身なりに着飾っている衣類や装飾品などからそれらの事実を察することができる。ザサ程度と比べてもカウラが上級族の人物だということは火を見るよりも明らかなのだ。
それほどの人物が額を地につけている。
あまりにも想定外であり、あまりにも特異な光景だ。
「…あなたたちにとってはそれほどのことなのですか。」
「闘いは俺たちの存する理由だ。」
目を落としながら小さく告げるザサに上から言葉が放たれる。こちらを見下ろすラザクからの威勢を含めた声音だった。
ザサは二人を交互に見つめる。そして、小さく嘆息すると、
「…賭けと、なることは既知しています。ですが、あなたたちを信じてみます。この村が、このままの在り方では良からぬことも事実ですから。」
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