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第一章 怖くて偉大で大きな木
14.大樹戦 異常性
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二人は揃って考え込む。
先程、ラザクの放った炎は、業々と大木の根を燃やし尽くさんとしていた。が、うって変わって今、二人が見ている光景の中に業火は映ってはいない。
二人の目には天樹が自らの根をギシギシとうねらせている様子が見えるだけである。
「あたりに水とかあったか?」
「いいえ、それらしいものは見当たりません。というか、あなたの炎はそんじょそこらの水程度で消せる代物ではないでしょう?」
「まあ、そうだが。」
ラザクは自分の放った豪炎が効いていないこともそうだが、炎が消えた原因を解明できない状況に憮然とした様子である。
それもそのはずラザクの扱う炎は一級品だ。ひとたび、炎に触れてしまえば、焼き尽くすまで燃え続ける業火である。
だが、この相対する天樹、ラザクの炎を真正面からくらいまだ生命は健在している。
天樹は根を浮かばせ、軋ませ、まるで攻撃態勢をとったかの様子を見せる。この場に来た人間二人を敵と認識したようだ。
「お前の雷突があんま効いてないのはだいぶ異常だが、俺の炎が消えたのは異常を通り越して訳がわかんねぇ。」
「そうですね。どうやら今回の敵は生体やら成り立ちやらが根本的に普通からかけ離れているようです。」
「常識はずれってやつか。」
「常識はずれはあなたも似たようなところがあると思いますが。」
カウラは横目でラザクを見ながらボソリと言う。
「…うるせぇよ、おっとぉ!」
ラザクとカウラが話している最中に天樹は根を使い、二人の元に叩き落とす。二人は互いに避け損なう事なく、跳躍し別の木の枝へと降り立つ。
「ったくよぉ!話してる最中だったろうがぁ。空気読めねぇのか。この怪物は!」
ラザクは自分達に対し容姿なく攻撃してきた天樹に向かって、吠えるように不満を垂れた。近くの別の木に降り立ったカウラはそんなラザクに忠言する。
「噛み締めた方が良いですね。この天樹という大木の化け物。不可解な点が多すぎる。なぜ、植物がこれほどまで根を自由自在に操れるのか。生体機能はどうなっているのか。栄養源はなんなのか。」
「最後のは今は関係なくねぇかぁ?また、くるぞ!」
天樹は落ち着く暇を与えさせないと言わんばかりに二人目掛けて根を叩きつける。
これも二人はまた回避したがそこに余裕さは全くない。
木の怪物は何本もある根を使い、ラザクとカウラを追い詰めようとする。
「関係ありますよ。自分達の敵の詳細を知ることは討伐を成功させる鍵となりえますからね。…っ!」
「そおかよぉ!」
カウラは避ける前のラザクの問いに返答した。
ラザクとカウラの会話は成立してはいるが、そこに安定さがあるのは口調だけだ。
二人は話しながら迫り来る天樹の根の止まらない攻撃を回避し続けている。
天樹はカウラとラザクを敵とみなした時から自らの根で二人を襲い続けた。飛んで火に入る虫同様、この場に来た人間は全て殲滅対象であるかのように。
「逃げ続けてばっかじゃ、拉致があかねえぞ!どうすんだぁ!」
「…私に判断を任せますか。」
ラザクはこの場を打開させる案を貰おうとカウラに向かって問いを投げかける。
カウラは嘆息気味に呟くと
「まあ、防戦一方といのも癪ですしね。こちらから攻撃しないと先程の原因がわからないとも言い切れないこともないですから。」
「てことは?」
「まずはこの状況を覆すために一度反撃しましょう。異論はありますか?」
「…ねえな。わかりやすくて十分だ。」
ラザクはカウラの判断に納得し、白い歯を見せ、笑った。
刀を握りしめ、熱を刀身に伝え、炎を纏わせる。
カウラも雷を手中で生み出した。バチバチと鳴る黄色い光はカウラの周りにとどまっている。
お互いに武器を生み出し、天樹に対し攻撃態勢をとり、
「行きますよ。お互い、死なぬよう。」
「分かってんよ。それは。」
ラザクとカウラはそう言い残すとそれぞれが自らの判断で飛び、移動する。
お互い、死なぬよう、カウラはこの言葉に重みを乗せながら発言した。その言葉は今までの戦いの中でも肝に銘じた言葉だ。
ラザクと戦う際はいつも難敵、強敵である。おそらくどちらか一方が死ねば、勝てなかった戦場もこれまであったことは否定できないだろう。
今回、討伐する天樹もその類の化け物だとわかる。大方、ラザクとカウラの二人でなければ太刀打ちできまい。
「まずは相手を知ります!あなたは何も考えずただ炎をぶちまけてください!」
「俺が何も考えずぶっぱなしてるような言い方すんなぁ!」
「私も雷突をもう一度放ってみます!」
カウラとラザクはお互い離れながら大声で策を伝え合う。策、といってもまだ戦況を見極める段階ではあるが。
二人はそれぞれ持ち前の炎と雷に力を込め、威力増し増しで放つ。
ラザクは刀を振りかざし業々と燃えゆる炎塊を。
カウラは自らの手のひらで雷の槍を持ち、雷電をバチバチと鳴らした雷突を。
「おらぁ!!」
「はあぁぁ!!」
天樹に向かって別々の方向から雷と炎が迫たれる。だが、両者が狙うものは同じだ。
二人が狙いを定めたものは大きく広く蠢いている天樹の根の部分である。狙う的が凄絶なる大きさなため、外れる可能性などかけらもない。二人の放った攻撃は容赦なく天樹へとぶち当たり、
「どうだぁぁ!」
「………」
ラザクは当たったことに対し、吠えながら場を離れる。カウラもその場を離れながら炎と雷が当たった箇所を注視していた。
それぞれの箇所でバチバチと根を焼き尽くす轟音とビチィィと雷が当たり根を破壊させる光景が見て取れる。
「ラザク!見てください!」
「あぁ?どうした?」
カウラはラザクに対しそう急かすように呼びかけ、天樹へと指を差した。
ラザクもその仕草に応じ自ら放った炎の箇所を睨むように見る。
天樹はカウラの放った雷を対処しようと試みている。当たった部位の根を天樹自身が切り離し、そこから無くした部分に新たな根を再構成。
それだけでも異常だが、しかし、驚くべきは切り離した根の部分だ。先程同様貫通はしておらず、焼き焦げた部分が黒く変色しただけのようであり、
「どんだけ表面が固えんだよ…」
規格外な光景を目にし、流石のラザクも絶句する。が、カウラはもう一つの攻撃箇所、炎が当たった部分を見やり、
「ラザク、あなたの炎。あれはどういうことでしょう。」
カウラの疑問を投げかけるような発言を聞き、ラザクは自分が炎を放った場所に目を移す。
そこには、
「んだよ、あれ。」
天樹がとった炎に対する処置。それは異様な光景だった。
根に当たった業火を他の根を使い囲んでいき、さらには覆い隠すように包み込んでいるのだ。
いったいそれに何の意味があるのか。自らの首を絞めているのではないのかとも見れるその振る舞い。
しかし、天樹はその行為をし続ける。
炎を根によって包み込み、グルグルと囲み続けると、遂に、天樹は多くの根を否応なく使用し、メラメラと燃える豪炎を満遍なく………消し尽くした。
表に見える根には炎の焼け跡など一切ない。天樹はいつも通りといったように根を蠢かしている。
「何でさっきの炎が消えたのかはわかった。あいつが消したってことだ。」
「ええ、ですが。」
「ああ、からくりがてんでわかんねぇ。」
ラザクは手を頭に持っていき、眉をひそめる。
一方、カウラは天樹の今の行いを振り返り、自分なりに見解を述べた。
「私には炎を消したというより、内側に持っていったようにも見えました。」
「……。たしかに、俺もそう見えたかもしれねぇ。だけどそれをする理由は何だ?根っこのうちまで持っていったら中身から燃やされて終わりだろ?」
ラザクはカウラの見解に対し、自身が思うところをつく。
「それは、……わかりません。」
カウラは天樹が自分の考えの届かない距離にいる現状にボソリと声音を吐いた。
分かったことは、天樹が理解の範疇を超えているということだけだ。
「ちぃっ、何なんだよこの化けもんはよ。」
ラザクも現状には釈然としないといった様子だ。
それもそのはず、ラザクの炎は何物も燃やす豪炎であり、それはラザク自身がよく知っている。
燃やすそれが植物などならなおさらだ。
だが、この植物に分類されるだろう天樹に炎が効かないという現実が、焦燥感を駆り立ててくる。
天樹はいけしゃあしゃあとした様子で根を蛇のようにうねらせている。根が軋み合う不快音を周りに響かせており、さながらそれは、天樹に抗えない二人を目の前にして笑っているかのようにも見えた。
ラザクとカウラは天樹を見下ろす。
「さて…これはまたとんでもない。」
カウラは戦況を見つめる。
前には攻撃が通じない化け物。太刀打ちできていない自分達。そんな絶望的ともいえる状況。
だが、
「はあっ!」
ラザクは甲高く笑った。この状況に似合わない笑みを浮かべ、天樹を激視する。
目の前には訳の分からない化け物。たった今、己の技が効かないという事実を見せつけられたばかりであるというのに。
「全く、あなたは…」
カウラはそんな男を横で見、呆れ気味にそう呟いた。
しかし、カウラは自分に少なからず驚嘆する。なぜなら、自分も口元に笑みを浮かべていたのだから。
「…………」
全くこんな状況だというのに。
カウラは自身の性格に嘆息する。自らの体は尋常でない難敵を前にし、うずうずしているようだった。武者震いが止まらない。思わず笑みを溢してしまう。
根っこから戦闘狂である二人はこの状況に無意識に士気が高まっていた。
いつもそうなのだ。簡単に倒せない敵だと分かると体が疼いて仕方がない。
「カウラぁ。」
「どうしました。」
天樹を前に笑みを浮かべた二人は話す。
自らの心境を口に出したいと言わんばかりに。
「今回はぁ、楽しめそうだぁ」
歯を剥き出しにした笑いのままラザクは興奮が収まらないといった様子だ。カウラはそんなラザクを見て笑い、嘆息しながら、
「そうですね。」
同じ心境だと同意する。
二人は自身が死ぬことなど微塵も考えていない。
一人が死ねば負けることはわかってはいる。が、その可能性は二人ともが互いに信じていないのだ。
お互いがお互いの強さを身に染みて知っている。
だから、ラザクが死ぬことなど、カウラが死ぬことなどあり得ないことであり。自分の強さを認めており、相棒の強さも認めている。
化け物を前にしているはずだが、この二人は異常なまでに胸を高鳴らせていて。
先程、ラザクの放った炎は、業々と大木の根を燃やし尽くさんとしていた。が、うって変わって今、二人が見ている光景の中に業火は映ってはいない。
二人の目には天樹が自らの根をギシギシとうねらせている様子が見えるだけである。
「あたりに水とかあったか?」
「いいえ、それらしいものは見当たりません。というか、あなたの炎はそんじょそこらの水程度で消せる代物ではないでしょう?」
「まあ、そうだが。」
ラザクは自分の放った豪炎が効いていないこともそうだが、炎が消えた原因を解明できない状況に憮然とした様子である。
それもそのはずラザクの扱う炎は一級品だ。ひとたび、炎に触れてしまえば、焼き尽くすまで燃え続ける業火である。
だが、この相対する天樹、ラザクの炎を真正面からくらいまだ生命は健在している。
天樹は根を浮かばせ、軋ませ、まるで攻撃態勢をとったかの様子を見せる。この場に来た人間二人を敵と認識したようだ。
「お前の雷突があんま効いてないのはだいぶ異常だが、俺の炎が消えたのは異常を通り越して訳がわかんねぇ。」
「そうですね。どうやら今回の敵は生体やら成り立ちやらが根本的に普通からかけ離れているようです。」
「常識はずれってやつか。」
「常識はずれはあなたも似たようなところがあると思いますが。」
カウラは横目でラザクを見ながらボソリと言う。
「…うるせぇよ、おっとぉ!」
ラザクとカウラが話している最中に天樹は根を使い、二人の元に叩き落とす。二人は互いに避け損なう事なく、跳躍し別の木の枝へと降り立つ。
「ったくよぉ!話してる最中だったろうがぁ。空気読めねぇのか。この怪物は!」
ラザクは自分達に対し容姿なく攻撃してきた天樹に向かって、吠えるように不満を垂れた。近くの別の木に降り立ったカウラはそんなラザクに忠言する。
「噛み締めた方が良いですね。この天樹という大木の化け物。不可解な点が多すぎる。なぜ、植物がこれほどまで根を自由自在に操れるのか。生体機能はどうなっているのか。栄養源はなんなのか。」
「最後のは今は関係なくねぇかぁ?また、くるぞ!」
天樹は落ち着く暇を与えさせないと言わんばかりに二人目掛けて根を叩きつける。
これも二人はまた回避したがそこに余裕さは全くない。
木の怪物は何本もある根を使い、ラザクとカウラを追い詰めようとする。
「関係ありますよ。自分達の敵の詳細を知ることは討伐を成功させる鍵となりえますからね。…っ!」
「そおかよぉ!」
カウラは避ける前のラザクの問いに返答した。
ラザクとカウラの会話は成立してはいるが、そこに安定さがあるのは口調だけだ。
二人は話しながら迫り来る天樹の根の止まらない攻撃を回避し続けている。
天樹はカウラとラザクを敵とみなした時から自らの根で二人を襲い続けた。飛んで火に入る虫同様、この場に来た人間は全て殲滅対象であるかのように。
「逃げ続けてばっかじゃ、拉致があかねえぞ!どうすんだぁ!」
「…私に判断を任せますか。」
ラザクはこの場を打開させる案を貰おうとカウラに向かって問いを投げかける。
カウラは嘆息気味に呟くと
「まあ、防戦一方といのも癪ですしね。こちらから攻撃しないと先程の原因がわからないとも言い切れないこともないですから。」
「てことは?」
「まずはこの状況を覆すために一度反撃しましょう。異論はありますか?」
「…ねえな。わかりやすくて十分だ。」
ラザクはカウラの判断に納得し、白い歯を見せ、笑った。
刀を握りしめ、熱を刀身に伝え、炎を纏わせる。
カウラも雷を手中で生み出した。バチバチと鳴る黄色い光はカウラの周りにとどまっている。
お互いに武器を生み出し、天樹に対し攻撃態勢をとり、
「行きますよ。お互い、死なぬよう。」
「分かってんよ。それは。」
ラザクとカウラはそう言い残すとそれぞれが自らの判断で飛び、移動する。
お互い、死なぬよう、カウラはこの言葉に重みを乗せながら発言した。その言葉は今までの戦いの中でも肝に銘じた言葉だ。
ラザクと戦う際はいつも難敵、強敵である。おそらくどちらか一方が死ねば、勝てなかった戦場もこれまであったことは否定できないだろう。
今回、討伐する天樹もその類の化け物だとわかる。大方、ラザクとカウラの二人でなければ太刀打ちできまい。
「まずは相手を知ります!あなたは何も考えずただ炎をぶちまけてください!」
「俺が何も考えずぶっぱなしてるような言い方すんなぁ!」
「私も雷突をもう一度放ってみます!」
カウラとラザクはお互い離れながら大声で策を伝え合う。策、といってもまだ戦況を見極める段階ではあるが。
二人はそれぞれ持ち前の炎と雷に力を込め、威力増し増しで放つ。
ラザクは刀を振りかざし業々と燃えゆる炎塊を。
カウラは自らの手のひらで雷の槍を持ち、雷電をバチバチと鳴らした雷突を。
「おらぁ!!」
「はあぁぁ!!」
天樹に向かって別々の方向から雷と炎が迫たれる。だが、両者が狙うものは同じだ。
二人が狙いを定めたものは大きく広く蠢いている天樹の根の部分である。狙う的が凄絶なる大きさなため、外れる可能性などかけらもない。二人の放った攻撃は容赦なく天樹へとぶち当たり、
「どうだぁぁ!」
「………」
ラザクは当たったことに対し、吠えながら場を離れる。カウラもその場を離れながら炎と雷が当たった箇所を注視していた。
それぞれの箇所でバチバチと根を焼き尽くす轟音とビチィィと雷が当たり根を破壊させる光景が見て取れる。
「ラザク!見てください!」
「あぁ?どうした?」
カウラはラザクに対しそう急かすように呼びかけ、天樹へと指を差した。
ラザクもその仕草に応じ自ら放った炎の箇所を睨むように見る。
天樹はカウラの放った雷を対処しようと試みている。当たった部位の根を天樹自身が切り離し、そこから無くした部分に新たな根を再構成。
それだけでも異常だが、しかし、驚くべきは切り離した根の部分だ。先程同様貫通はしておらず、焼き焦げた部分が黒く変色しただけのようであり、
「どんだけ表面が固えんだよ…」
規格外な光景を目にし、流石のラザクも絶句する。が、カウラはもう一つの攻撃箇所、炎が当たった部分を見やり、
「ラザク、あなたの炎。あれはどういうことでしょう。」
カウラの疑問を投げかけるような発言を聞き、ラザクは自分が炎を放った場所に目を移す。
そこには、
「んだよ、あれ。」
天樹がとった炎に対する処置。それは異様な光景だった。
根に当たった業火を他の根を使い囲んでいき、さらには覆い隠すように包み込んでいるのだ。
いったいそれに何の意味があるのか。自らの首を絞めているのではないのかとも見れるその振る舞い。
しかし、天樹はその行為をし続ける。
炎を根によって包み込み、グルグルと囲み続けると、遂に、天樹は多くの根を否応なく使用し、メラメラと燃える豪炎を満遍なく………消し尽くした。
表に見える根には炎の焼け跡など一切ない。天樹はいつも通りといったように根を蠢かしている。
「何でさっきの炎が消えたのかはわかった。あいつが消したってことだ。」
「ええ、ですが。」
「ああ、からくりがてんでわかんねぇ。」
ラザクは手を頭に持っていき、眉をひそめる。
一方、カウラは天樹の今の行いを振り返り、自分なりに見解を述べた。
「私には炎を消したというより、内側に持っていったようにも見えました。」
「……。たしかに、俺もそう見えたかもしれねぇ。だけどそれをする理由は何だ?根っこのうちまで持っていったら中身から燃やされて終わりだろ?」
ラザクはカウラの見解に対し、自身が思うところをつく。
「それは、……わかりません。」
カウラは天樹が自分の考えの届かない距離にいる現状にボソリと声音を吐いた。
分かったことは、天樹が理解の範疇を超えているということだけだ。
「ちぃっ、何なんだよこの化けもんはよ。」
ラザクも現状には釈然としないといった様子だ。
それもそのはず、ラザクの炎は何物も燃やす豪炎であり、それはラザク自身がよく知っている。
燃やすそれが植物などならなおさらだ。
だが、この植物に分類されるだろう天樹に炎が効かないという現実が、焦燥感を駆り立ててくる。
天樹はいけしゃあしゃあとした様子で根を蛇のようにうねらせている。根が軋み合う不快音を周りに響かせており、さながらそれは、天樹に抗えない二人を目の前にして笑っているかのようにも見えた。
ラザクとカウラは天樹を見下ろす。
「さて…これはまたとんでもない。」
カウラは戦況を見つめる。
前には攻撃が通じない化け物。太刀打ちできていない自分達。そんな絶望的ともいえる状況。
だが、
「はあっ!」
ラザクは甲高く笑った。この状況に似合わない笑みを浮かべ、天樹を激視する。
目の前には訳の分からない化け物。たった今、己の技が効かないという事実を見せつけられたばかりであるというのに。
「全く、あなたは…」
カウラはそんな男を横で見、呆れ気味にそう呟いた。
しかし、カウラは自分に少なからず驚嘆する。なぜなら、自分も口元に笑みを浮かべていたのだから。
「…………」
全くこんな状況だというのに。
カウラは自身の性格に嘆息する。自らの体は尋常でない難敵を前にし、うずうずしているようだった。武者震いが止まらない。思わず笑みを溢してしまう。
根っこから戦闘狂である二人はこの状況に無意識に士気が高まっていた。
いつもそうなのだ。簡単に倒せない敵だと分かると体が疼いて仕方がない。
「カウラぁ。」
「どうしました。」
天樹を前に笑みを浮かべた二人は話す。
自らの心境を口に出したいと言わんばかりに。
「今回はぁ、楽しめそうだぁ」
歯を剥き出しにした笑いのままラザクは興奮が収まらないといった様子だ。カウラはそんなラザクを見て笑い、嘆息しながら、
「そうですね。」
同じ心境だと同意する。
二人は自身が死ぬことなど微塵も考えていない。
一人が死ねば負けることはわかってはいる。が、その可能性は二人ともが互いに信じていないのだ。
お互いがお互いの強さを身に染みて知っている。
だから、ラザクが死ぬことなど、カウラが死ぬことなどあり得ないことであり。自分の強さを認めており、相棒の強さも認めている。
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