羅天絞喰

D・D

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第一章 怖くて偉大で大きな木

24.大樹戦 知識とやり方

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わけがわからねぇ。

あまりにも意外すぎる天樹の弱点に、ラザクはまだ信じられていないと言った様子だ。しかし、それも仕方ないだろう。あれだけ苦戦を強いられる化け物であり、立ち向かうものすべてに脅威さを持つ天樹。それの弱点が『水』であるなど、あまりにも安直すぎるではないか。
しかし、今、ラザクの瞳にはそんな疑念など打ちはらうかのような光景が映し出されている。

「……」

ちらりと横を見ると赤毛の子供はこちらを見てほくそ笑んでいた。安全地にいるせいか、はたまたラザクに対して教えてやった優越感でもあるのかやたらと上機嫌そうだ。

「…理屈はなんだ?」

そんな子供を見かねたラザクは不躾そうに質問する。なぜ、こんな子供が天樹の弱点について詳しいのか。ただでさえ、得体の知れない子供だというのに聞きたいことがまた増えた。
上をちらりと見上げると天樹の根は未だに蠢いていた。しかし、蠢いているだけであり、あの鋭く尖った先端で襲ってくる気配はない。
攻めあぐねていると言えばいいのか、ラザクたちが水から這い出てくるのを待ち伏せしているのか、どちらにせよ今の天樹の根たちは恐ろしさを感じない。今のところ、この水中からでなければ危険度はないだろう。

「理屈?」

赤毛の子供はラザクの唐突な質問に対し、キョトンと首を傾げた。質問の意味がわからないとでもいうように。

「そうだ。なぜ、天樹は水を嫌う?てか、なんでガキがそんなこと知ってやがんだよ。」

「そんなこと…言われても。知ってるものは知ってるんだし…」

「答えろ…」
赤毛の子供はラザクの問いに対し横目ながらに答える。しかし、それは求めたものでは当然違うものであり、ラザクは眼差しを鋭くし、答えを急かす。

「そんなきつい目で見ないでよ。おじさん。」

「ただでさえ、切羽詰まった状況なんだ。そんな中、お前は天樹の弱点を知っている。納得できる答えを言ってもらわなきゃ腑に落ちねぇんだよ。」

戦線から離脱してしまい、早く復帰しなければならない。仲間の安否は不透明であり、ラザクの身体もズタズタだ。正直、ほぼ詰みの状態になっていた中、光明の兆しが見えたのだ。

「この際、お前が何者かはいい。天樹の弱点について知ってることがあれば言え。」

ラザクは赤毛の子供に対し闘志をむき出しにする。威嚇の表明は眼差しだけでなく、手に持つ愛刀を子供に向けることで脅してでも言わせるといった意思表示までする。

しかし、赤毛の子供はそんな脅しには眉をピクリとも動かさず。じっとラザクを見つめ返している。そして、軽い息を吐くと、

「…うーん、まあ、教える気がないことはないよ。ただし、知ってるというか天樹がなんで水が苦手なのかっていうのは。」

「それだ、早く言え。」

「本当に急かすねえ。でも、勿体ぶったけど大したことは知らないよ。まあ、天樹は水を嫌ってるというより、低温を嫌ってるのさ。」

「低温?」
赤毛の子供が言い放った言葉。これはまた新たな情報が出てきた。低温を嫌うとはいったい。

「水を嫌ってるのは水が冷たいからってことか?」

「そう。」

「なら、もし水じゃなくてお湯とかだったら天樹は平気ってことか?」

「まあ、そうなるね。」

「低温が弱点だっていう理由はなんだ?なぜ、あれほどの怪物が水なんかを苦手とするんだ。」

「それは…わからない。僕は知ってるだけなんだ。」

「…そうか。なんて納得できねえよ。正直、訳がわかんねぇし、腑に落ちねぇ部分しかねえが。」

「そうだよね。」

赤毛の子供は俯きながらそう呟いた。
しかし、ラザクはそれを聞き刀をギイっと握りしめた。

「けど、それが事実なのも確か、か。」

「え?」

ラザクは赤毛の子供から譲り得た情報を整理する。
なぜ、こんな小さな子供がこんなことを知っているのかわからない。だが、信憑性はおそらく薄くはないだろう。
天樹が水を嫌っているというのは見る限り事実であるのだから。

ーバシャリ

「お、おじさん。危ないよ!」

ラザクは水中から身を出し、岸へと上がった。
天樹はラザクが陸で立ちすくんでいることに反応する。そして、待ってましたと言わんばかりに多くの根でラザクに向けて襲いかかる。
それを見かねた赤毛の子供は動揺し、注意を促すが、ラザクはそれをそっちのけて刀を構えた。そして、

「…氷楼」

一言詠唱し、それから愛刀に向けて自らの息を吹きかける。ふうーっと白い息を吹きかけると、ラザクの刀が変化していく。色合いが白くなっていき、刀の周りの空気も心なしか白く霞んで見えた。まるで真冬の雪の日に現る純白の霧のように。

「おじさん…それは?」

「まあ、見てろ。」

心配気に語る子供の口調に対し、ラザクは凛々しい声音で答える。そして、己に向かってくる根の大群に対し両の手で愛刀を向けた。そして、

ーシャン

と、ラザクは根に向けて刀をふりかざす。その一振りに荒々しさなどはなく、ただ静寂にただ閑静に。
天樹の根を切り落とした。

「……うわぁ。」

切り落とされた根の切り口には凸凹したところなどなく、精密に円形状に本体から断絶されていた。

赤毛の子供は目の前の出来事に目を奪われ言葉が出てこない様子だ。あれほど精錬された美しい一太刀を見るのは初めての経験であり。

「お前の言ったことは本当みたいだな。」

ラザクは地に落ちた根を見下しながらニッと笑みを浮かべた。

低温という弱点。それを聞いたラザクは氷術を発動させ、愛刀を氷と同等の温度にした。そして、迫り来る根に対して持ち前の剣術によって一刀両断したのだ。

「……。待ってろよ。片付ける。」

ラザクは愛刀を肩にかつぎながら、瞠目している赤毛の子供にそう告げる。

そして、未だに残っている根に対して戦意を向けた。
天樹の根たちはいきなり切断されたことに対して、驚愕を隠せないといった様子だった。ラザクはその隙を見逃さない。
ラザクはその場から跳躍し、天樹の根にめがけて愛刀を放つ。氷化された刀により根は次々と両断されていった。ラザクの剣戟には容赦はない。迫り来る根を持ち前の剣術で切り落としていく。その光景はまさに一蹴。ラザクを追ってきた天樹の根は儚く返り討ちにあった。

最後の根を切り尽くしラザクは赤毛の子供の元へ行く。

「よう。」

「おじさん、すごく強いんだね。」

「あぁ、強ぇぞ。」

赤毛の子供は目の前で繰り広げられた光景にまだ驚いている。実際、あまりにも衝撃的過ぎてずっと目を奪われていた。

「俺は、天樹の本体のところへ行く。奴をぶった斬る手段を見つけたからな。」

「そう。」

「お前にも聞きたいことは山ほどある。けど、それは全部終わった後だ。ぜってぇ、聞きにくるからな」

ラザクはそう言うと、空に向かって跳躍した。行先はもちろん天樹本体のところへ。

「……」

赤毛の子供はそんなラザクの様子をただ黙って見ていた。そして、

「全部終わったら聞きにくる…か。でも、ごめん、おじさん。それは多分無理なんだ」

一人、川辺に残された子供は俯きながら悲恋じみた面持ちでそう呟くのだった。


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