羅天絞喰

D・D

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第一章 怖くて偉大で大きな木

33.大樹戦 生きがい

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地を駆け、地を蹴り、地を飛ぶ。
木々をつたい、木々へ飛び移り、空へ飛び出る。

山林内を駆け回り、あちらへこちらへ移動する。
時に、握る愛刀で目前に迫りくる根を両断し、無理やりこじ開けたルートを瞬時に通過。

切り裂いた先、瞳に映り込んでくるもの、それは同じ光景で。
次々に襲いかかる根はラザクを絞め殺そうと、刺し殺そうと、喰い殺そうと躍起になる。

一閃し、斬り裂き、断絶し、ラザクは白い歯をさらけ出した。

「…はあっ、はあっ、は、はは、ははははははぁっ!」

天樹が木々をなぎ倒し、根によってめちゃくちゃにしている。そんな荒れ狂った森の中、響いてくるのは盛大な笑い声だ。

息がきれ、疲労が常に付き纏う。
それに比例し、ラザクは叫び笑いをかき鳴らす。

命のやり取りであり、一歩間違えれば死へと向かう。そんな状況であるはずなのに、ラザクは笑いを堪えることができなかった。

「はあっ、はあ、ははぁ!上等だぁ!もっと来やがれぇぇ!」

喜色満面の表情を浮かべる。刀を握りしめながら、殺意の権化である根を次々に一閃。
斬り裂くたびに快感が、喜びが、痛快な気持ち良さが、身体全体に染み渡る。

「ははあっ!次ぃ!」

一つの根を絶命させれば次の対象に目を向ける。心血を注ぐように刀に力を込め下段の構え。
待たなくても襲い来る根はラザクの闘争心を限りないまでに昂らせてくる。

この内側から湧き出てくる高揚感をかき消すことができない。いや、むしろ、かき消す気なんて毛頭ない。

この瞬間が気持ちいい。この興奮を抑え込めない。
パワフルで、リスキーなこの状況、体が震えて仕方がない。
楽しい。楽しい。今が、すごく楽しい。

いつまでも、刀を振るっていられる。
何度も何度も敵を切り裂いても、次から次へと敵が現れる。

闘いが終わる気がしない。
だが、却ってそれはありがたい。むしろ願ったり叶ったりだ。この至福の時間を永遠に続けられるなどなんと幸福なことであるか。

これが、俺だ。これが、俺が生きている証。

切羽詰まった状況。だが、敵に抗えないわけではない。そして、敵も自分を殺せる力を持っている。

この対峙が、この戦場が、俺の求めている場所。

決して今の己は万全な状態とは言い難い。
足腰は重く、疲労と痛みのオンパレードだ。
片腕に関しては骨折と悲惨な火傷の重傷を負い、腹の痛覚は肋骨が折れたせいだろう。
そんな状態で走り回っているおかげで、息が切れるのも仕方なく、頭も朦朧としてきている。

だが、

そんなものが、

「そんなもん、足かせにならねぇんだよ!」

ラザクは咆哮のような声で言い放つ。
と、同時に数の減らない根がラザクを突き刺しに猛スピードで特攻。それを瞬時に刀で一掃。

だが死角だと見るや否や、天樹の根はラザクの背中の方向から急接近。ラザクはこちらに目を向けていない、刺し殺せる。

「なめんなぁ!」

ラザクに刺し穴を開けるかと思われた根は、放たれた剣戟によって断絶させられる。ラザクは、後ろから放たれる殺気を感知し、振り向きざまに刀を薙ぎ払った。

終わりを忘れたかのような熱い攻防が、時間のある限り続いていく。

ラザクの闘志は凄まじいものだ。単独で数々の根を葬っている。
たとえ、抗う手段を持つとはいえ、それはあくまでも刀一本のみなのだ。
けれどもラザクは今、生きている。
それは彼の戦士としての技量が類い稀ないものだと示している証拠でもあり。
刀を振るう豪腕が、どこまでも移動できる脚力が、次々に迫りくる根を絶命させる剣術が、今のラザクを生かしている。

「…切られるだけかぁ?あぁ?!!」

そんな常人離れした人間を前に天樹は何本もの根で襲いかかる。全てラザクに反撃され、斬り裂かれることを分かっていながら、天樹は根を使い殺そうとし続けた。
そんな天樹に対し、ラザクは特攻のみなのかと激しく言明。

そんないつまでも続くような戦況。
人間と化け物の高次元の闘争。

無限に続くかと思われるラザクと天樹の一戦。

しかし、始まりがそこにあったのならば、

終止符というものはいずれ訪れるものなのであり、

「……ぐっ⁈」

視界をかすめる天樹の根。それを追撃しようとするも一瞬意識がついていかず、自護体の姿勢が崩れてしまう。

いきなりの身体の異変。
しかし、そうなるのも仕方ない部分は多々にある。

ラザクとて、人間なのだ。いくら心が強いとはいえ、無理して身体を稼働し続ければいずれ四肢にガタが来てしまう。

己の疲労や痛苦を理解したうえで、この化物との一騎打ち。望むところであり、やり甲斐の感じられる局面だ。

それなのに

「…くそがぁ。」

半開きの視界で周りを見据える。かろうじて、根の突撃に反応するも、身体の動きが頭の理想とズレてしまう。
一度、体勢が崩された途端、余計な雑念が脳裏を過ぎる。
腕が重い。足がだるい。脳の思考速度が遅い。

防ぎ…きれ、ない。

「…がぁっ!」

一瞬の防御の遅れ、そこを天樹は見逃さず、ラザクを巨大な根で吹っ飛ばした。
今まで、剣撃で葬り去っていた均衡がついに崩れる。

ラザクが人間であるが故に浮き彫りになった敵との差。

ラザクと天樹の違い。
それは人間であるか、化け物であるか。
それだけであり、その違いは、なによりも大きな差であるのだ。

天樹の根が尽きることはない。
だが、ラザクの身体の限界は尽きる。
それは現実で。戦においてその現実は常に付き纏うものだから。

人間が化け物に勝てるなど非現実的で、

化け物に抗うことさえ忘れてしまう者たちがいて、

だから、ザサはあんなに憂いて、

だから、ミコリはあんなに泣いて、

化け物に立ち向かうのは、ありえないことだと、

諦めの目を持ちながら、生きていく。

だから、

だから、

「…だからって、俺が諦めてやるわけねぇだろう。」

吹っ飛ばされた状態のまま、ラザクは一言天樹に向けて言い告げる。
そして、すぐさま体を反転。ぶつかると思われる方を向き、刀を上に構え、

「らあっ!!」

一瞬だけ術力を高め、刀に炎を宿らせた。そのままなぎ払い、炎塊をぶつけ、生じさせた爆風により吹っ飛ばされた勢いを相殺させる。
ラザク自身は炎の中へ突っ込んでしまったが、焼け死ぬことなんてない。炎とは生まれた頃からの付き合いなのだ。触れ合うことなど造作もない。

「…熱っちいなぁ、おい。………くるか」

炎の中から這い出るとともにラザクの目に映り込むもの。それはラザクに向かって、そして炎に向かって襲いくる天樹の根だ。

「…だがなぁ。」

襲いくる根を上へ回避しながら、ラザクは告げる。
目線を天樹から山の中腹あたりに向けると、ニタァと笑いを浮かべ、

「…タイムリミットだ。」

ラザクの発言を天樹が聞き入れるわけもない。

しかし、山林の上の方から、ざあざあとゴツゴツと何か勢いのある音が聞こえてくるのは、

いったい何の音なのだろう。



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