記憶の片隅に

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電車

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これは僕が高校の頃の話。

電車に乗って移動する。
朝、学校に行くために電車に乗って、
夕方、家に帰るために電車に乗る。

同じ、電車に乗っているんだけど。朝と夕方では全く違うものに感じてしまう。

朝の電車は少し嫌いだった。眠気のあるままギリギリに乗車して、かろうじて空いている座席に座る。
日によっては座れない日もあったから、その時はすこぶる気分が下がったものだ。
通勤時間のためか、周りにはサラリーマンや学生がたくさんいるわけで。眠気もあって気分も上がらない中での密集地帯になっていた。
正直、朝の電車は鬱っぽくなってたのかな。
とにかく、いい気は少しもしなかった。

夕方の電車は割と好きだったかもしれない。好き、というよりむしろ優越感じみたものを感じていたのかな。
電車乗り場に一番乗りでいて、僕が一番はやく電車に乗った瞬間の広々とした光景。
それは僕にとってとても気分が良いもので。

「…貸切じゃん」

などと独り言を呟いた時もあるくらいだ。
駅のある地域が結構田舎だったので、夕方の電車は本当に少ない時は少ない。一車両に誰もいないなんてこともあった。

だから、独り言を言ったところで不審に思われることなんてない。なぜなら誰もいないからね。

電車が進み、各駅に停車するけど、乗ってくる人もそんなにいない。だから、立っている人なんて一人もいなくて。

こんなに電車を広く感じれるのは朝だとありえないなと思ってしまう。

ボックス席を一人で堪能できてしまう。四人座席のところを個人で独占。
だけど誰も文句は言わない。
だってスペースは他にも十分あるから。

カバンを横に置き、一人で書を嗜む。ページをペラリとめくる音が自分の耳に入ってくる。
朝でも本を読んだことはあるが、その音は聞こえたことはなかったと思う。
夕方、静かな電車ならではの音だ。

電車内に差し込む西日が僕が手にする本を照らしてくる。外を見ると、雄大な山々に沈んでいく太陽が見えた。

夕方の太陽はとても赤い。煌々と光るそれが大地をオレンジに色変えていた。

僕が外に目を奪われているうちに電車は降車駅へとたどり着く。僕はカバンを抱えて、電車から降りる。
その駅で降りたのは僕一人だった。

朝だと何人もこの駅から乗っているのに、夕方だとこんなに少ない。

今、僕はあまり電車に乗らなくなった。
大学生になり、通うところが自転車通になったから。

それに、今住んでいるここはちょっと都会じみたところだ。
だから、あの、田舎で乗った電車はここでは体験できないと思う。

でも、もし田舎に帰るような時があったら、もう一度、夕方の電車に乗ってみるのもありかもしれないな。

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