王道って何ですか?

みるくコーヒー

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第1章

逃げた先には

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「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

私は頑張って手を振り払いディズから逃げた。全力疾走だ。

息苦しい。
逃げられたのが奇跡だ。

「アルー?どこにいるの?」

嬉しそうなトーンの声が聞こえ、私はびくりとする。
物陰に隠れたが見つかるのは時間の問題だろう。

私はダッとかけだし、その場から逃げる。

視線の先には扉。
私はその扉の中に入り、勢い良く扉を閉める。

「はぁ、もう、ホントやだ・・・。」

扉に手をつき、ため息を吐いた。

「魔王の娘がこんなところに何の御用ですか?」

私はクイッと後ろを振り向く。
そこにいたのは、椅子に座って本を読んでいる男の人だった。

「えっと、あの。」

こいつは、攻略対象だった、気がする。

「まあ、ディズ様から逃げてきたとかそんなところでしょう。」

くすりと笑って彼は本を閉じ私を見る。
その顔はとても美形だった。

髪は薄い紫色で一つに結んでいる。
瞳は濃い紫だ。

眼鏡をかけていて、受けた印象は『頭が良さそう』というものだった。

「かくまってあげますから、一緒にお茶でもどうですか?」
「え、えっと。」

うーん、と迷っていると彼は私がいる扉の方へ歩いてきた。
そして、扉をかちゃりと開ける。

「別に、今すぐ出て行って頂いてもかまいませんが?」

私は、ばたんっと勢い良く扉をしめる。

「お茶、します。」

なんというSだ!いや、ドSだ!!
困っている人にこんなことをするなんて。

「では、今お茶を淹れますね。」

私は椅子までエスコートされ、そこに座った。
なんだか、とんでもないところに入ってしまったような気がする。

そんなことを悶々と考えているうちに
彼がお茶をだした。

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。
 私はヴィンセント・ギリアです。ヴィンと呼んでください。」
「ヴィンさん・・・。私はアルフィn「知ってます。」

私の言葉を彼はさえぎりニコリと笑った。

「アルフィニ・セルシュートさん・・・でしょ?あと、別に呼び捨てにして頂いても構いません。私達、同い年ですから。」

お、同い年・・・。
年上にしか見えない。

そう感じたのは、顔立ちも言葉遣いも何もかもが大人っぽいものであったからだ。

「そ、そうですか。私のことは、アルフと呼んでください。」
「では、そうさせていただきます。」

沈黙が流れる。
こくこくというお茶を飲む音だけが聞こえてくる状態だ。

私はそれに耐えられなくて言葉を発す。

「あ、あのっ!」
「・・・何ですか?」

妖艶という言葉が相応しい笑みをヴィンが浮かべる。

「ヴィン・・・は、何の仕事をしているんですか?」
「研究者、ですよ。」

研究者。
何の研究をしているのだろう。

でも、確かに彼には研究者という仕事があっているような気がする。
眼鏡に白衣。

それがゲームをしている時の彼の印象だった。

それを今ふっと思い出す。

「まぁ、そんなに凄いことをしているわけではないんですけどね。回復薬などを作ることが多いです。」

あまり、楽しい仕事ではないですよ。

そう、彼は言った。
自分のしたい研究が出来ないということだろうか。

「でも、最近おもしろい研究を見出してね。本当に、研究者としての生きがいを見つけたよ。」

ニコッと笑いかけてくる。
それは、何の笑みなんだろう。

あれか、社交辞令的な何かなのか。

「アルー?ここにいるんでしょ?出てきなよー。」

ディズの声と共にドアノブがガシャガシャとなる。

「流石ディズ様、辿り着くのがはやいなぁ。今あけるから、そんなガシャガシャしないでくださーい。壊れちゃいます。」

小声で呟いてから、ディズに聞こえるように大声で声をかける。
それから、ヴィンは奥の扉を開けた。

「さぁ、ここから出て下さい。」

ヴィンは私に言い、扉から外へ逃げるように促す。

「早く開けなよ。殺すよ?おい、あと10秒で開けろよ。アルいるんでしょ?10,9,8・・・」
「ディズ様、もうちょっと待ってください。絶対に扉を壊さないでくださいよ?直すの大変なんですから。」

私は、焦って足早に扉へ向かう。

「ヴィン、ありがとう。」
「どういたしまして。よろしければ、またお茶しにきてくださいね。」
「えぇ、必ず行くわ。」

私はタタタッと部屋を出て、裏庭を駆ける。

「5,4,3・・・」
「今、開けますから。待ってください。」

その声が小さくなり何も聞こえなくなる。全速力で走ったので、すぐに城の障壁に着いた。

そこには、いつも私が城を抜け出す時に使う梯子がある。
城の人からしたら、謎の梯子だろう。

追いかけられることなんてしょっちゅうあるからな。
ここまで辿りつくこと自体がそもそも大変なんだけども。

私はマッハで梯子を登り、そして城壁の外側である郊外の森に降りる。

そして、ぶんぶんと腕を振った。
外れない、全然外れない。

「もう、なんでよ。帰れないじゃん。」

うぅっと泣きそうになるの。

「泣くな、お前は魔王の娘だろう。次期魔王候補だろう。泣いてどうする。」

そう自分に言い聞かせ、頑張って涙をこらえる。
しかし、我慢しようすればするほど涙が目に浮かんできた。

「あ、あの・・・どうしたんですか?何で泣いてるんですか?」

誰かが私に話かけてきた。
ちくしょう、見られた、ちくしょう。



泣いてなんか、ないやい!!!



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「何、アルいないの?」

ディズ様が私にそう問う。

「はい、いませんよ。」
「だったら最初からそういえばいいのに。」

言ったってきかないだろ!あなたは!

「じゃあ、もういいよ。ばいばい。」

完璧な愛想笑いを浮かべてディズ様は出て行く。

ホントにいつ見ても完璧だ、笑い方が。

ディズ様はすんなりと部屋から出て行く。
奥の扉は調べないのですね。

ディズ様が出て行ってから、約10分後にコーネリア様がやってきた。

「こんにちは、ヴィン。」

ニコッと麗しい笑みを浮かべて私を見る。

「こんにちは、コーネリア様。」
「で、どうだったの?彼女のことはわかった?」

私は本を開いて読み始める。
全く、コーネリア様はそれにしか興味が無いのだろうか。

まぁ、そんなコーネリア様を私はとても可愛く麗しいと思うのだが。

「そうですね。ディズ様のことが好きなようには到底思えませんが。」
「そんなこと私だって分かってるわよ。」

コーネリア様は、ソファにどっかりと座る。
ディズ様の前とは全然違う人間のように思えて仕方がない。

本当の彼女はこっちだ。
私の前だけに見せるその姿。

私を信頼してくださっているのだろうか?
とても愛らしい。愛おしい。

本当は、私のモノにしたい。
しかし、彼女は私を見てくれない。

ディズ様にしか興味がない。

「初対面なのに私のことを知っているような感じはしました。なぜでしょうか・・・。」

コーネリア様がクスッと笑う。
あぁ、その顔も美しい。

「ヴィン、ありがとう。私の知りたいことは、よぉく分かったわ。」

コーネリア様はそういうと、スッとソファから立った。
そして扉の方へと歩いていく。

「これからも頼りにしているわ。あなたは私の忠実な僕だものね。大好きよ。」

バタンッと扉がしまる。

『大好き』

その言葉が何度も私の頭をめぐる。

きっと私はこれからも
コーネリア様のその言葉のために多くの罪を犯すのだろう。



私は一生、コーネリア様の僕となるのだ。

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