王道って何ですか?

みるくコーヒー

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最終章

紡ぐ言葉は

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「別に姉さんがそれで良いって言うなら僕は良いんだよ。」
「うん、ならもう解決ね、めでたしめでたし!以上、早く帰りなさい。エルミナだって心配してるに決まってるわ。」

いつの間にかルーザが転移魔法を覚えていたという事実に対して個人的には突っ込みたいのだが、まぁ今は置いておこう。

「でも、王子を刺した人に執行猶予を与えるなんて・・・姉さんの評判落ちるよ?」

確かに『魔王の娘』兼『次期魔王候補』という肩書きを背負っている私の評判が落ちるのは宜しく無いと言えば宜しくない。

いや、むしろ全然宜しくないっ!!!

でも、評判だけを信じる人とこれから貿易等で付き合っていく気なんてさらさら無いので特に問題は無い。

それに次期魔王だって、実際にはルーザがなるんだから、この件の所為で候補から外されたからといって痛くも痒くもない。

「コーネリアが改心してくれたってことは、牢屋を出た後も問題を起こす心配が無い訳だもの。」

だからこその執行猶予だ。

何かあれば直ぐに再び捕らえられるし、次こそ即時に罰を受けてもらう。

これは私が一度だけチャンスを与えたに過ぎず、それを活かすかどうかは彼女次第で、それによって本当に改心したのかを計るのだ。

「あの人が黙ってると思う?」
「ディズには私が何とか言うわ。」

無事に目を覚ましてくれたらの話だけど。

先程、リュリエスから治療は終了したとの連絡を受けた。
しかし、目が覚めるかどうかわからないらしい。もしも今日中に目が覚めなかった場合は諦めるしかない。そう言われた。

今日が終わるまであと2時間・・・。

そうなのだ、時間が無いのだ。
無事に目が覚めるかわからないし、内心とても焦っている。

出来ることならば、今すぐにでも会いに行きたい。

けれど、その前にルーザを城に帰さないといけない。実は今、お父様は遠国へ出かけているため現在の国の最高責任者はルーザなのだ。
そんな彼が家を出ては、城に何かあった場合の対処が出来なくなる。

何よりエルミナが確実に心配して居ても立っても居られなくなっているだろう。

「だからお願い、おとなしく家に帰って?」

私は、ね?と首を傾けてお願いをする。
するとルーザは、うっと顔を手で覆う。

ルーザは私やエルミナのこのしぐさに弱い。それが分かっていてわざとやっている私は相当あざといのかもしれない。

「すぐ帰って来るって約束する?」
「用事がすんだらすぐ帰るわ。」

ルーザの問いに間髪入れずに答えると、彼はうーっと呻きながら少し悩む。

それから決心したように口を開く。

「今回だけだよ、次は無いんだからねっ!」

何で若干ツンデレ口調なんだよ。
可愛いなぁ、オイ。

ルーザは単唱で転移魔法の術を使いこの場から消える。
もう単唱で使えるように!?流石ルーザ、天才だ!私よりも覚えが早い!

さて、私がこれからどうするか。
決まってます、彼の元へレッツゴーです!!

私はすぐに行きたいために転移魔法で彼の部屋へと転移する。本当にすぐにでも行きたかったのだ。魔力なんたらなんて言ってられない。

ディズの部屋にいた人たちは、私が急に現れたために驚いた顔をする。ジェイドとリュリエスとヴィンの三人はもう慣れたようで平然としていた。

「ディズ、は?」

私の問いにリュリエスが首を横に振る。
私は、ガクリと肩を落とす。

もう無理なのかな・・・私は何も言えずに終わっちゃうのかな?

「ディズ、私は貴方に言わなきゃいけないことがあるの。」

私はディズの手をキュッと握る。
目を覚まして欲しいのに、その目が開く様子は少しもない。

「今更だって分かってる、ずっとずっと気づけなかったの。私が貴方を好きってことに気づきたくなかったの。また裏切られるのが怖くて、辛い思いするのが嫌で・・・吹っ切れてたつもりでもやっぱり、そうでも無くて、ずっとずっと思い出せないままモヤモヤしてた。」

スーッと目から冷たいような温かいようなものが流れる。
それが涙だと認識するまでに時間はかからなかった。

「でも、貴方といた時だけはいつもそんなの吹き飛んでた。貴方のことだけで頭いっぱいになってたの。そりゃ、死亡フラグとか色々あったのもあるけど、それでもやっぱり私を思ってくれていたことが嬉しくて、そういうので頭がいっぱいになってたの。」

ボロボロと涙が零れ落ちてディズの手にかかる。

「お願い、いなくならないで?ずっと私の側にいてよ、ねぇ、ディズ。」

私は彼にそう訴えてからキュッと再び強く手を握る。祈るように彼の手を額にピタリとつける。

神様仏様・・・ディズを連れて行かないで・・・お願いだから・・・。

神や仏に祈る以外、他に何かをする術など何もなかった。
祈ることしか出来ない自分が嫌になる。
魔王の娘になって、魔力もたくさんあって・・・それでも私は無力だ。

そう思うと、更に涙が出る。
自分の無力さやディズが目を覚まさない悲しさ・・・何よりも、あと少しでディズが死んでしまうかもしれないという可能性。

ボロボロと涙を流すと、ポスリと私の頭の上に手がのり、くしゃりと弱々しくだが頭を撫でられる。

もう、ダメだ、諦めよう。

誰かがそういう意味を込めてした行為なのだろうか。
周りが少しザワリとする。

あぁ、もう、しょうがない。帰って大いに泣いてやる!

そう思って顔をあげる前にポツリと声がする。

「・・・ア、ル?泣いて、るの?」

私は、その声を聞いてバッと顔をあげた。

目の前には困ったような表情をしながら私の頭に手を置くディズの姿。

「ディ、ズ?」
「どうしたの・・・?」

そう言って、ゆっくりと起き上がったディズに間髪入れずにギュッと抱きつく。

「ディズ、ディズっ!」

私は彼に抱きつきながら子供のようにわーっと泣く。

「え、な、泣かないで、アル。えっと、えっと、よしよし。」

ディズは困惑しながらポンポンと私の頭を撫でる。

「ディズ、良かったぁ・・・目が覚めて、良かったぁ・・・。」

私はしゃくりをあげながらそれを伝える。それからもっと伝えるべき言葉を紡ぐ。

「ディズ、大好き、遅すぎたかもしれない、待たせたかもしれない。でも私、貴方が大好きだって気づいたの。」

言いたかった言葉を言ってから離れ、ディズの顔を見るとボッと顔が赤くなっていた。

「ア、アル・・・これは夢?夢なんだ、そうか僕の思いが具現化してしまったんだね。」

そんなことをブツブツ言いながら、ディズの顔は青ざめていく。

私はディズのほっぺをむにっと掴む。

「い、いひゃいよっ!」
「痛いんだから夢じゃないの。大好きなのは本当、現実よ?」

私はそう言ってからパッと手を離す。
ディズは今までに見たことが無いほどに笑顔を浮かべている。

「ねぇ、結婚しよ!ね?僕の正室になってさ、一生僕の側で幸せに暮らそう?」

私は、その言葉を聞いて俯く。

一生・・・その言葉は確かに本物になるだろう。魔族は人間なんかより長命で、20を過ぎると成長速度が急激に遅くなる。

それは、ディズがおじいちゃんになっても私は若いままで彼が死んだ後も1人で生きるのだ。

私は我慢出来る、彼と最期の時まで一緒に居ることが出来るし、彼を残して逝ってしまう心配すらない。
死ぬ間際まで向こうで彼が待っていると思える。

でも、彼は・・・?

彼だけが老いる中で私の若い姿を見て、私を置いて逝くような負い目を感じるかもしれない。

「ディズ、私なんかで良いの?」
「え?」
「私はディズと一緒に年なんか取れない。ディズが死んだ後だって何百年と生きるの。ディズはそれでも良いの?」

ディズは、私の不安など払拭するようにゆっくりと笑みを浮かべる。

「アルは、浮気なんかしないでしょ?アルが死ぬ時まで僕はずっと側にいるし、アルのことずーっと見てる。年とか年月なんて関係ない。アルが僕の側にいて、僕もアルの側にいる。それだけで充分なんだ。
アル良いんじゃないよ、アル良いんだ。」

ディズがふわりと私を抱きしめる。

「ね?だから僕とずっと一緒にいて?僕の側にいて?」

私は、コクリと頷く。
すると周りから、わっと拍手が起こる。

あ、皆がいる前でなんてことっ!!!

そう思っていると、目の前がふっと暗くなる。

一瞬何が起きたのかわからなかったが、唇の感触からキスされたのだとわかる。

ディズの顔がハッキリと見える位置まで離れると私は自分でもわかるくらいに顔を赤くしていた。

「大好き、アル。」

その言葉で心に空いた穴が埋まった。

死亡フラグ満載だけど、乙女ゲームとは少し違かったけれど、それでも貴方が好きです。

貴方と一緒に、ずっと、生きていく。
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