DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
2 / 222

II 全てはこの日から-I

しおりを挟む
 ――現時刻は18時。
 ティーカップに注がれた紅茶の香りを楽しみ、そっと口に含んだ後、窓際のテーブルに突っ伏して転寝をする幼馴染――セドリック・アンドールに目を向ける。
 今日は、彼の仕事の依頼者であるラルフ・スタインフェルドからパーティーへの同行を命じられていた筈だ。約束時間は、確か18時。
 約束の時間を迎えてしまった今、彼を叩き起こした所で「何故もっと早く起こさなかったのだ」と理不尽に怒られるのだろう。どの道怒られるのなら、起こさずに怒られた方が幾分マシだ。
 それに、約束の相手は貴族の男。約束の時間を大幅に遅れてくるに違いない。抑々今日の約束ですら、覚えていないかもしれない。貴族なんて、そんなものだ。
 再び紅茶を啜り、膝の上に置いていたお気に入りの本に視線を落とす。

「――今、何時だ」

 ふと耳に入ったのは、目を覚ましたのであろうセドリックの独言。

「もう、18時だけど」

 そう返事をしてみると、彼の視線が壁時計に止まった。そして暫く時計を見つめた後、彼が勢いよくソファから立ち上がり、洗面所へと駆け込む。

「今日用事あるって言っただろ! 時間分かってたなら起こせよ!」

 洗面所から怒鳴り声が聞こえるが、今の私にとってはそんなもの知った事では無い。抑々私は、今日のパーティーへの同行は反対していたのだから。

 今日は、私の大切な友人であるマリア・ウィルソンの娘、ノエルがスタインフェルド家に引き渡される日だった。基本子供の引き渡しには、依頼者当人とブローカーが立ち会う事が必須とされている。
 しかし、何を思ったのか依頼者当人であるラルフ・スタインフェルドは、引き渡しを妻であるローズ・スタインフェルドに押し付け、名家エインズワース家で開催されるパーティーに参加すると言い出したのだ。そして有ろう事か、ブローカーであるセドリックにそのパーティーへの同行を命じた。
 セドリックは何度も、引き渡し日の変更を提案していた。だが、ラルフ・スタインフェルドがその提案に応じる事は無かった。
 結果、今回の取引のみ特例で、当人不在の中子供の引き渡しが行われる事になったのだ。

 決まりを破る事は、トラブルを招く原因となる。
 今回の特例を、私は酷く反対した。それこそ、朝から晩まで彼に考え直すよう訴え続けた。しかし彼は決まって、「特例は当人不在だけでは無い」と言った。
 彼の言っている事に、間違いはない。
 抑々彼の仕事には“知人や友人からの依頼は受けない”というルールがあるのだ。それを私が必死に頼み込み、特例を認めさせた。マリアとセドリックに接点は無かったが、私の友人である事には変わりはない。
 故に、私に「決まりを破る事は、トラブルを招く原因になる」だなんて言う資格など最初から無かった。
 それでも、私は大切なマリアの取引をぞんざいに扱って欲しくは無かったのだ。しかしそんな私の願いは、悲しくも無になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...