3 / 222
II 全てはこの日から-II
しおりを挟む「――セディが行けないなら、私がマリアちゃんに付き添いたかったな……」
脱衣所から出てきた彼を視界に捉えながら、嘆く様に呟く。
勿論、マリアを心配する気持ちに嘘は無い。しかしそれ以上に、マリアの代わりに時々自身が面倒を見ていたノエルの最後を見届けたいという気持ちが強かった。
「お前は今回の取引に関与してないだろ。それに、担当も違う」
「そう、だけどさ」
自身の不安が強く表れた顔を隠す様に、ティーカップに口を付ける。口内を満たした紅茶からは、過度な心配と不安の所為か何の味も感じられなかった。
引き渡しが行われるのは、何時からだっただろうか。無意識的に時計に目を遣ると、そんな自身の不安を見透かした彼が苛立った様に口を開いた。
「そんなに不安なら、取引なんてしなければ良かっただろ。抑々、俺達の仕事は――」
「知人や友人の依頼は受けない、でしょ?」
彼の言葉を遮り、溜息交じりにその先を答える。彼の感情は苛立ちを超え、最早呆れている様だった。それ以上私に何かを言う事は無く、扉を開く音、閉じる音と2回、バタバタとホールに響かせて、セドリックは足早に屋敷を去っていった。私が吐いた大きな溜息は、誰に聞かれる事無く僅かにホールに反響した後消える。
彼はこれから、パーティーが開催されるエインズワース家へと向かうのだろう。辻馬車を使うのか、それとも街の中を駆けて行くのかは分からない。しかし少なくとも、急いでいるのは確かだ。
時間通り約束の場所を訪れたスタインフェルドに叱責され、険悪な関係になってしまえば良いのに。そんな事を思うが、マリアとの取引が破綻になってしまっては困る。
1人きりになった屋敷で、天井からぶら下がるシャンデリアをぼんやりと見上げた。瞳を刺す明るさに、目を細める。
「――少し、様子を見るくらいは良いよね」
シャンデリアを眺めながら誰に言うともなく呟き、勢いを付けてソファから立ち上がった。その拍子に、膝の上から本が滑り落ちる。慌ててその本を拾い上げ、僅かに皺になってしまったページを伸ばしつつ、付着した埃を軽く払った。
私はセドリックの様に、お金に余裕は無い。故に、隣町に位置するスタインフェルド家まで辻馬車を使う事は出来ない。
「足、痛くなるかな……」
今日は普段より高いヒールの靴を履いている為、少々不安だ。しかし、今から借家に戻り靴を履き替えてスタインフェルド家まで向かう、というのも面倒である。
この屋敷の2階にも自身が所持している靴を何足か置いているが、それ等全て履き慣れていない靴であり、ヒールの高さも似たり寄ったりだ。
足が痛くなったら、その時はその時だ。なんて自身に言い聞かせ、ホールの灯りを全て落とし屋敷を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる