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VII 追憶-願い- -I
しおりを挟む「それでね、その人、家庭の事で凄く悩んでいるみたいなの」
私が住処にしている街の、小さな診療所。定位置に座り、カルテに何やら文字を書き込む先生の背に向かっていつもの様に語り掛ける。
勿論、住処にしているといっても私に家は無い。路地裏でひっそりと生活をしているだけであり、それも単にこの街が住み慣れているというだけの話だ。
その街の、診療所の先生――エリオット・ティンバーレイクは、私の良い理解者であった。
私の能力を気味悪がったりせずに、「君は天使だ」と言って潰れそうになった心を支えてくれた。
そんな彼に、その日1日何が起こったかを報告するのは、最早日課になっていた。
「どうしたらいいかなぁ。友達になるだけじゃ、あの人の事救えないよ」
嘆く私に、彼はペンを置き此方に身体を向ける。
「友達になるだけでは、駄目なのかな。それが彼女の願いであり、望みなんだよ。その望みを叶える事は、救いにはならないと言い切れるのかい?」
「――……」
彼の言葉に、暫し思考を巡らせる。
確かに、彼女――マリアは明確な救いを求めている訳では無いようだった。それに、元の場所に戻れないのかと提案した時も、戻りたくないとマリアははっきりと口にした。
今の彼女は、明確な救いが欲しいだけなのでは無く、ただただ友達が欲しかっただけなのかもしれない。そう考えると、私が彼女の“友達になる”という事は彼女を“救う事”に繋がる気がした。
救いを求めていない人間を救う事は意に反する気もするが、私の使命は“人を救う事”である。
先生は本当に、穿った見方をする人だ。私1人ではきっと、友達になる事が彼女を救う事に繋がるとは思いもしなかっただろう。
「それもそっか。友達になってお話を聞くだけで、彼女が救われる事もあるかもしれないもんね」
自身を納得させる様に呟く。
それに対して先生は微笑むだけで、何も言う事は無かった。しかし先生の心は澄んで晴れ渡っている。私の言葉に、間違いは無いのだと言っている様に思えた。
「私、彼女の所に行ってくるね。今日も彼女と約束してるんだ」
そう告げると、先生が一言「気を付けて行くんだよ」と言って、再びデスクに向かってカルテにペンを走らせた。
診療所と先生のプライベートスペースを区切る為に掛けられているカーテンをくぐり、出口に向かって駆けて行く。幼い私にとっては少し重い診療所の扉を押し開けると、ドアベルがからりと心地良い音を立てた。
向かうのは、此処から2つ程離れた街。私の足では約1時間程掛かってしまう。
しかし、約束の時間は1時間半後。診療所の時計で、時間はしっかりと確認してきた。約束の時間には間に合う筈だ。
昨日より少し軽くなった心で、マリアの待つ街へと足を向けた。
◇ ◇ ◇
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