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XIV 追憶-生血- -III
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――しかし、いつまで待っても扉が開く事は無い。疑問に思い、再び4度ノックする。
「マリアちゃん? 私、マーシャだけど……、今大丈夫かな」
声を掛けてみるが、扉の向こうからは物音1つしなかった。
ノエルが今診療所に居るという事は、マリアは留守にしているという事だろうか。いやしかし、ノエルは“ママの所に行くのか”と私に尋ねた。そしてマクファーデンからも、マリアが外出した話は聞いていない。
もしや、彼女の身に何かあったのではないだろうか。“あの日”の事が蘇り、ドアノブに手を掛けた。
「マリアちゃん、開けるよ」
そう声を掛け、扉を開く。
開いた扉の先から香る、僅かな血液のニオイ。テーブルの奥に見える、マリアの小さな背中。
「マリアちゃん……? どうしたの……?」
私の声が聞こえているのかいないのか、彼女は床に座り込んだまま微動だにしない。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、彼女に近付いた。
「――!」
マリアの右手には、血液の付着したペティナイフが握られている。そして、だらりと彼女の膝の上に投げ出された左腕からは止め処なく血液が溢れ出していた。今回は、躊躇い傷などでは無い。傷が動脈に触れている可能性を考え、慌てて部屋を飛び出した。
「――先生!」
階段を駆け下り、叫ぶ様にデスクに向かっているマクファーデンを呼んだ。私の声音でただ事では無い事を悟ったのか、彼が素早く椅子から立ち上がり私に目を遣る。
「血が! 腕からの血が止まらないの!」
私の言葉に、彼が手際良く止血する為の医療器具を用意し始める。その姿を見て、直ぐに彼は部屋に来てくれると分かり踵を返し部屋へ戻った。
「マリアちゃん!」
未だ動かないマリアに駆け寄り、血液が溢れ出す左手首を強く握った。生暖かい血液が、両の掌に広がっていく。ぽたり、ぽたりと音を立てて床に落ちる鮮血に、くらりと眩暈がした。
血液を見るのは、決して初めてでは無い。昔、アッカーソン邸に招待されたあの日だって“見た”筈だ。なのに、死に関わるかもしれない出血量にどくどくと鼓動は早くなり、首を絞められた様に息が苦しくなる。
「――そこを退いてください」
部屋へ駆け込んできたマクファーデンが、私を押し退け持っていた小箱を開いた。その中には、沢山の医療器具が入っている。素人の私には何が入っているのか、マクファーデンが何を行っているのかは分からないが、彼は医者として真剣にマリアの治療をしてくれているのだと分かりただその姿を眺めていた。
「――とりあえず、止血等応急処置はしました。命に関わる事は無いでしょう」
マクファーデンの声で、ふと我に返る。しかし、我に返ったところで苦しさは収まらなかった。
呼吸が浅くなり、目の前が徐々に暗くなっていく。
「マーシャ」
遠くで、マクファーデンの声が聞こえる。脈打つ音が耳奥で聞こえ、呼吸が出来ない。
――初めての、感覚だった。今まで当たり前に出来ていた呼吸が出来なくなり、鼓動は意図せず勝手に早くなる。そして、言葉にし難い強烈な恐怖襲われる。
「マリアちゃん? 私、マーシャだけど……、今大丈夫かな」
声を掛けてみるが、扉の向こうからは物音1つしなかった。
ノエルが今診療所に居るという事は、マリアは留守にしているという事だろうか。いやしかし、ノエルは“ママの所に行くのか”と私に尋ねた。そしてマクファーデンからも、マリアが外出した話は聞いていない。
もしや、彼女の身に何かあったのではないだろうか。“あの日”の事が蘇り、ドアノブに手を掛けた。
「マリアちゃん、開けるよ」
そう声を掛け、扉を開く。
開いた扉の先から香る、僅かな血液のニオイ。テーブルの奥に見える、マリアの小さな背中。
「マリアちゃん……? どうしたの……?」
私の声が聞こえているのかいないのか、彼女は床に座り込んだまま微動だにしない。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、彼女に近付いた。
「――!」
マリアの右手には、血液の付着したペティナイフが握られている。そして、だらりと彼女の膝の上に投げ出された左腕からは止め処なく血液が溢れ出していた。今回は、躊躇い傷などでは無い。傷が動脈に触れている可能性を考え、慌てて部屋を飛び出した。
「――先生!」
階段を駆け下り、叫ぶ様にデスクに向かっているマクファーデンを呼んだ。私の声音でただ事では無い事を悟ったのか、彼が素早く椅子から立ち上がり私に目を遣る。
「血が! 腕からの血が止まらないの!」
私の言葉に、彼が手際良く止血する為の医療器具を用意し始める。その姿を見て、直ぐに彼は部屋に来てくれると分かり踵を返し部屋へ戻った。
「マリアちゃん!」
未だ動かないマリアに駆け寄り、血液が溢れ出す左手首を強く握った。生暖かい血液が、両の掌に広がっていく。ぽたり、ぽたりと音を立てて床に落ちる鮮血に、くらりと眩暈がした。
血液を見るのは、決して初めてでは無い。昔、アッカーソン邸に招待されたあの日だって“見た”筈だ。なのに、死に関わるかもしれない出血量にどくどくと鼓動は早くなり、首を絞められた様に息が苦しくなる。
「――そこを退いてください」
部屋へ駆け込んできたマクファーデンが、私を押し退け持っていた小箱を開いた。その中には、沢山の医療器具が入っている。素人の私には何が入っているのか、マクファーデンが何を行っているのかは分からないが、彼は医者として真剣にマリアの治療をしてくれているのだと分かりただその姿を眺めていた。
「――とりあえず、止血等応急処置はしました。命に関わる事は無いでしょう」
マクファーデンの声で、ふと我に返る。しかし、我に返ったところで苦しさは収まらなかった。
呼吸が浅くなり、目の前が徐々に暗くなっていく。
「マーシャ」
遠くで、マクファーデンの声が聞こえる。脈打つ音が耳奥で聞こえ、呼吸が出来ない。
――初めての、感覚だった。今まで当たり前に出来ていた呼吸が出来なくなり、鼓動は意図せず勝手に早くなる。そして、言葉にし難い強烈な恐怖襲われる。
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