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XV 危険なティータイム -III
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ふと視界に入ったのは、ベッドの前にしゃがみ込んでいるあの子の姿。テーブルにトレーを置き、彼女の近くに歩み寄る。
膝を抱えて溜息を吐いている彼女は、どうやら私の存在に気付いていない様だ。そんな彼女に悪戯心が湧き、腰を屈め彼女に顔を近づけた。
「――そんな所で何してるの?」
自身の声に、彼女が言葉にならない悲鳴を上げその場に尻餅をつく。
ベッドの前で何をしているのかと思っていたが、ベッドの下に押し込まれた茶の紙袋に凡その察しがつく。
「あは、可愛いねぇ、女の子だねぇ」
あの紙袋の中には、私が持ってきた数着の下着が詰まっている。きっと彼女は、セドリックに下着を見られたくなかったのだろう。沸き上がる可愛らしさと愛おしさに、思わず笑ってしまった。
「別にそんな所に隠さなくたって、下着ぐらい誰だって身に着ける物だよ? セディだって、その辺の理解はしてくれると思うんだけどなぁ」
「そ、そんな……」
そんな事、分かっている。顔を真っ赤に染め上げた彼女から、痛い程強くその言葉が伝わってくる。
しかし私から見れば今の彼女は思春期の女の子そのもので、笑いが堪えられない程に愛らしかった。
「まぁ、お茶会でもしながらさ、ゆっくりお話しよ?」
尻餅をついたまま悶々と様々な事を考えている彼女に、手を差し伸べる。優しく微笑んで見せると、彼女が怖ず怖ずと此方に手を伸ばした。その手を掴み、強く引き上げる。
彼女の視線が、テーブルに向く。私が運んだ紅茶とビスケットに気付いた様だ。何処か不安気であったその顔が、先程持参したした本を見せた時の様に輝いた。
彼女と共に、向かい合う様にテーブルに着く。
何から話すべきか。最初からセドリックの事や仕事の事、元の家の事を話すのは良くない。
まずは他愛のない話を挟んでからにするべきだ。
「あっ、そういえば!」
悶々と思考を巡らせていた時、ふと彼女に名前を聞いていなかった事を思い出した。
いつまでも“あの子”や“彼女”なんて言い方をしている訳にもいかない。
「名前、まだ聞いてなかったね。聞いていい?」
なるべく警戒されない様に、軽やかに。何気なく聞いた、と思わせる様に。そんな事を意識しながら、ビスケットを1枚摘まみあげた。
――しかし、彼女の口から名前が出てくる事は無かった。
ちらりと上目遣いに彼女に視線を遣り、俯いたその顔を見つめる。伝わってくるのは、酷い恐怖にも似た嫌悪感。私に名を問われた事が気に入らなかった訳では無く、純粋に自分の元の家の名を口にするのが嫌な様だ。
彼女は、随分と律義な子である。態々フルネームを名乗らなくとも、たった一言ファーストネームを告げれば良いだけの話だ。
この国の人間は、一部を除いて皆ファーストネームとファミリーネームを持っている。それに追加して、ミドルネームがある人間も居るだろう。
しかし、此処は上流階級が集まる社交場ではない。社交場ではどの様なマナーがあるかは知らないが、私は必ずしもフルネームを名乗る必要は無いと思っていた。
「――ファーストネームだけで大丈夫だよ」
気が付けば、そんな言葉が口を衝いていた。
気味悪がられたくない為、あまり人の心を読めるこの能力を彼女には伝えたくない。今の言い方だと、何故名を口にしたくない事が分かったのかと不審がられてしまうだろうか。
「ほら、これから付き合っていく上で呼び名が無いと不便でしょ?」
齧っていたビスケットを飲み込み、取り繕う様にそう告げ内心の動揺を隠し、ふふ、と柔らかく笑って見せた。
心理戦は、得意な方だった。物心ついた時から、人の心が読めるのだ。相手より有利に会話を持っていく事を、苦手に思う筈が無い。
しかし何故だか、今日は上手くいかない。いや、違う。“彼女を相手にすると”上手くいかないのだろうか。
――決して、自分自身を偽っている訳では無い。しかし、周囲に見せている自身が本当の自身だという訳でも無い。ただ相手に合わせ、その人が最も心を開いてくれる“私”で居るだけだ。しかし、彼女を前にするとそれがどうも上手くいかなかった。それは、彼女が何処かマリアと重なるからだろうか。
膝を抱えて溜息を吐いている彼女は、どうやら私の存在に気付いていない様だ。そんな彼女に悪戯心が湧き、腰を屈め彼女に顔を近づけた。
「――そんな所で何してるの?」
自身の声に、彼女が言葉にならない悲鳴を上げその場に尻餅をつく。
ベッドの前で何をしているのかと思っていたが、ベッドの下に押し込まれた茶の紙袋に凡その察しがつく。
「あは、可愛いねぇ、女の子だねぇ」
あの紙袋の中には、私が持ってきた数着の下着が詰まっている。きっと彼女は、セドリックに下着を見られたくなかったのだろう。沸き上がる可愛らしさと愛おしさに、思わず笑ってしまった。
「別にそんな所に隠さなくたって、下着ぐらい誰だって身に着ける物だよ? セディだって、その辺の理解はしてくれると思うんだけどなぁ」
「そ、そんな……」
そんな事、分かっている。顔を真っ赤に染め上げた彼女から、痛い程強くその言葉が伝わってくる。
しかし私から見れば今の彼女は思春期の女の子そのもので、笑いが堪えられない程に愛らしかった。
「まぁ、お茶会でもしながらさ、ゆっくりお話しよ?」
尻餅をついたまま悶々と様々な事を考えている彼女に、手を差し伸べる。優しく微笑んで見せると、彼女が怖ず怖ずと此方に手を伸ばした。その手を掴み、強く引き上げる。
彼女の視線が、テーブルに向く。私が運んだ紅茶とビスケットに気付いた様だ。何処か不安気であったその顔が、先程持参したした本を見せた時の様に輝いた。
彼女と共に、向かい合う様にテーブルに着く。
何から話すべきか。最初からセドリックの事や仕事の事、元の家の事を話すのは良くない。
まずは他愛のない話を挟んでからにするべきだ。
「あっ、そういえば!」
悶々と思考を巡らせていた時、ふと彼女に名前を聞いていなかった事を思い出した。
いつまでも“あの子”や“彼女”なんて言い方をしている訳にもいかない。
「名前、まだ聞いてなかったね。聞いていい?」
なるべく警戒されない様に、軽やかに。何気なく聞いた、と思わせる様に。そんな事を意識しながら、ビスケットを1枚摘まみあげた。
――しかし、彼女の口から名前が出てくる事は無かった。
ちらりと上目遣いに彼女に視線を遣り、俯いたその顔を見つめる。伝わってくるのは、酷い恐怖にも似た嫌悪感。私に名を問われた事が気に入らなかった訳では無く、純粋に自分の元の家の名を口にするのが嫌な様だ。
彼女は、随分と律義な子である。態々フルネームを名乗らなくとも、たった一言ファーストネームを告げれば良いだけの話だ。
この国の人間は、一部を除いて皆ファーストネームとファミリーネームを持っている。それに追加して、ミドルネームがある人間も居るだろう。
しかし、此処は上流階級が集まる社交場ではない。社交場ではどの様なマナーがあるかは知らないが、私は必ずしもフルネームを名乗る必要は無いと思っていた。
「――ファーストネームだけで大丈夫だよ」
気が付けば、そんな言葉が口を衝いていた。
気味悪がられたくない為、あまり人の心を読めるこの能力を彼女には伝えたくない。今の言い方だと、何故名を口にしたくない事が分かったのかと不審がられてしまうだろうか。
「ほら、これから付き合っていく上で呼び名が無いと不便でしょ?」
齧っていたビスケットを飲み込み、取り繕う様にそう告げ内心の動揺を隠し、ふふ、と柔らかく笑って見せた。
心理戦は、得意な方だった。物心ついた時から、人の心が読めるのだ。相手より有利に会話を持っていく事を、苦手に思う筈が無い。
しかし何故だか、今日は上手くいかない。いや、違う。“彼女を相手にすると”上手くいかないのだろうか。
――決して、自分自身を偽っている訳では無い。しかし、周囲に見せている自身が本当の自身だという訳でも無い。ただ相手に合わせ、その人が最も心を開いてくれる“私”で居るだけだ。しかし、彼女を前にするとそれがどうも上手くいかなかった。それは、彼女が何処かマリアと重なるからだろうか。
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